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327 アイリス誕生の日




 一通り触ってみた感触、このスキルはすごい。

 使用感のレビューがあるなら、星5つ中4つを差し上げたいくらい。

 

「ほっ、よっ……と」

 

 体の大きさ:魔素の消費にもよるがある程度は可能。

 性別:可能。

 顔:可能だが、角度によって見方が変わるので調整が難しい。

 髪の長さ:ある程度なら可能。

 

 これを言うと安っぽいかもしれないが「まるでゲームのキャラメイクじゃないか!」って感じ。

 身体変化時に魔素が消費されているので「魔素で足りない部分を補っている」みたい。

 元々の体の情報を魔素が記録をして、そこから魔素で形を補っている。クラディスという最初の状態が木の人形で、そこに粘土やら色やらを付け足していく過程で魔素が消費されるという感じ。

 裏を返せば、補充部分の魔素をカットすれば元の体にリセットが可能だ。


(大きくする分にはイメージが着くんだけど……)


 臓器の大きさ、筋肉やらを調整することを考えると小さくするのは削られている気がしてちょっと怖い。


「小さくするのは考えなくてもいいかな。元々、ちっちゃいし」


 まぁ、今回想定される体は既にある状態。オーダはあるわけだ。


「オーダーがあっても難しいんだけどさ」


 社会人男性が朝、鏡の前で髭剃り跡を確かめるような仕草で、斜めから見たら少しいびつな女性の顔になってる自分の顎を撫でた。


 いくら自由度が高いと言っても、ある程度の縛りは用意されている。それは「成人済みの女性」で「クラディスではない」という縛りだ。

 成人済みの女性という縛りは、リリーさんとの話の結果だ。賢者として生活するのにある程度の年齢を考えなければならない。年下となると無条件で舐めてくる人や、嫉妬心を持つ人がいる。変な絡まれ方をしないために、20歳以上は想定をしておかなければ。


 そして、クラディス・ヘイ・アルジェントだと思われないようにする。これは元々の計画の内である「別人格」という話だ。

 こっちの姿で目立つことをして、あっちの姿ではほそぼそと暮らす。そのために「コイツ……クラディスか?」と思われると困るのだ。


 今の僕の名前は《アイリス》で、性別は女性であると既に知られている。

 多くの人に見られてはいないから、少しくらい身長を嵩増ししてもバレないだろうが……うーん。


「……とりあえずは。男性器を無くす、か」


 こんな決断をする日が来ると誰が想像できたか。


 《身体変化》と胸内で呟くと、それがトリガーとなって白い魔素が僕の全身を覆う。

 

「……っう」

 

 痛みはないが、このむず痒さはなんとも言えない。

 体の形成が終わると白い魔素が消え、鏡の前に映る自分の姿は女性となっている。三分クッキングで「では次に、女性になります」「はい、女性にしたものがこちらとなります」ばりのスピード感。

 鏡に映る自分は、クラディスを性別変更をさせて見た目年齢を20代前半ほどにした姿。当然、陰茎はない。

 体の肉付きも女性らしさが感じるものになっていて──


「……うぅ」


 と唸りながら、率直な感想を一つ。


「……えっちじゃん、こんなの……っ」


 鏡に反射する自分の陰部と胸を見えないように指で隠した。


 なんて気持ち悪い感想なのだろうか。


「……自分だから、変な気持ちにならなくてもいいのに……」


 自分の体にそういった欲情を抱き、言語能力を低下させるほど《身体変化》というユニークスキルが秀でている! と褒めると良いように聞こえるか。そもそも、自分の体を見て「流れるような美しい肢体であり、すらりと伸びる両足は~」などと感想を口にする方が異常も異常な気がする。


「うん。まぁ、そうだな」バッと手を取っ払い、露呈した自分の体を見ると、顔が真っ赤になった。「やっぱ、止めっ!」


 見てはいけないものを見ているような、そんな気分にさせられる。

 本当に鏡に映るのは自分なのか、と顔を傾けているとひょっこりと端から違う顔が覗いてきた。

 

「ますたーきもちわるいですよぉ」


「大変態だよ、僕は」


「さっきまでわたしにただの裸って言ってたのに〜」


「ごめんて。ぼくも成人済みの女性の裸体はちょっとクルものがある」


「ますたーは思春期真っ盛りの男の子ですから」


「そんなの元の世界ではとうの昔に終わらせたよ」


「コッチの世界では、まだまだこれからですよ?」

 

「なに言ってんだか……大丈夫だよ。体はこっちだけど、精神は元の世界のままなんだから」


「そうだといいですねぇ〜」


 腰辺りのお肉をむにむに掴んでくるエリルはニヤニヤと笑い、こちらを見上げてきた。


「それで、何を悩んでるんですか?」


 なんて答えたらいいんだろうか、と口をすぼめる。


「……顔を悩んでて。正面で顔を作っても、なんか歪に思えてきてさ」


「顔を……ふむ」


 悩んでるフリして、胸とかお肉とか摘まないでって。手付きがくすぐったいよ。


「でしたら私みたいな顔にするっていうのは如何ですか!」


 ほっぺに指をあててニコリと笑っているエリルを見て、ポンっと手を打った。


「エリルの顔……そっか、既存の人の顔を真似れば」


 賢者という肩書で暮らしていく【アイリス】だ。

 特別感あふれる雰囲気で賢そうな見た目がいいと思っていた。

 それでいうと、イブとか、お団子と……神様系がそうだよな。だけど、既に人の目に触れている人の容姿を真似するのも問題がある。


「……うん。よし、じゃあ。賢者の時の体はエリルを参考にさせてもらうよ」


「やったー!! 双子こーでしましょ!」


「また変な言葉を仕入れてきてこの子は……。気が向いたらね?」


 そうしてエリルの顔を色んな角度から見ていって、エリル(成人済み・白髪)が出来上がった。

 また、エリルの要望により胸部や太もも、お尻が大きめになった。

 くそぅ……変身するだけでも魔素がごっそり減るっていうのに。こんなに肉付きの良い体にしなくてもよかったじゃないか。


 だが、今日この日に《公認賢者》《国定魔導士》──アイリスが誕生したのは変わらない。

 少し動きにくいが、しばらくはこの姿で暮らさないとな。

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