324 余計なことはするな
「クラディスがいなくなったと聞いた。何か知っとることはないか」
「二日前から動いていますとも」
冒険者組合に殴り込み、仕事中のナグモの胸ぐらを掴んで通路へ連れてきた。
丸という職員長がなにか言ってきたが、それどころではないことを察したのか、素直に手を引いていた。
「情報は」
「落ち着いて、ティナちゃん。殺気、みんなビックリしてるから」
漏れ出していた殺気をナグモは隠すように頭に手を置いた。
ぽんぽんと叩いてきた手を払い、ティナはフゥッと息を鋭く吐いた。
「クラディス様の行き先は今のところ捜索中。情報屋に依頼をしてます」
「冬に入る前にワタシに連絡を寄越した血盟に連れて行かれた可能性は」
「調査済み。アイツらは今回の件には絡んでないみたい」──と言いながら、ティナに覆いかぶさるようにして「あと、場所を変えようか」
通路は人が行き交う。職員室の近くには二階への階段があるため、二階の管理職の目にもとまる。そこで会話をするような内容ではない。
ナグモが職員室のキーケースの中から第二書庫の鍵を持ってきて、そこにティナを押し込んだ。
「で、どこじゃ。アイツの場所は」
ムスッとして椅子に座って腕を組むティナの言葉に、鍵を丁寧に閉めながら。
「だから調べてる途中だって」
「置き手紙もなかったと聞いたぞ」
「連れ去られた可能性もあるって?」
「じゃろう。あやつは強くはなかったが、まだまだ弱い。絡め手にもやられやすい性格じゃし」
腕を組んで体内の不快な空気を入れ替えるようにため息を着くティナに、ナグモは少し不思議そうにして。
「……ティナちゃんがそこまで不機嫌なの、珍しいね」
「むっ」
いつもはカラカラと笑っているティナが、今日は来た時から苛立ちを隠せていなかった。
感情の起伏は元々激しかったが、今日は一段と激しい。
「クラディス様が連れ去られたから? それとも何か理由でもあるの?」
「…………」
ナグモの質問を受け、ティナは目を真っ直ぐに向けて答える。
「あやつはワタシの弟子だ。他のやつが手を出して良い訳がない。ボコボコにして良いのはワタシだけだ」
「私の弟子でもあるからね。……まぁ、気持ちはわかったよ」
「あとストレス」
「やっぱり」ナグモは椅子を引いて腰を降ろす。「戦いたいんでしょ」
「うむ。お主が相手をしてくれんからの」
見た目のことも相まって甘えているようにも捉えることができるが、とてもではないが穏便な感情ではない。
「現状、私が持ち得ている情報っていうのは数少ない。ただ、フーシェンではないことは既に調査済み。だから……殺しに行かないでね?」
「行くわけがなかろう。それで、今はどこを調査しとるんだ。そこ以外に向かおう」
「モルの大森林、イニシアの森、スラム街、フーシェンの下部組織。ソレ以外にも懇意にしている血盟にも連絡は入れてる」
「なら、ワタシは……」
「ティナちゃんは動かないで」
ズイとナグモが眉間に指をさした。
「ティナちゃんが動くと色々と面倒事が起こりすぎる。あくまでキミは彼の師匠という立場でここにいるんだ。私が調査をしているから、情報が何か入ってくるまでは余計なことはするな」
「………………」
睨みを効かせたティナを前から受け止める。
ナグモの言葉遣いが荒くなったのは、あくまでティナに理解をしてもらうため。
──ティナが動くような事柄ではない。
そう言っている。そして、もし事が大きくなったら言うから、それまでは待機をしておけというものだ。
「それにコレはアンさん達にも言えることだ。……彼女らはクラディス様の身に何か危険が迫ってると思うと、何をするか分からない。それを伝えておいてくれないか」
「…………わかった」
目を伏せながらティナは頷く。
素直なティナに少し疑問を抱きつつ、さしていた指を畳んだ。
「伝える。その後は、もう一つの方に行く。ストレスが溜まっててな」
「もう一つって……あぁ……」
「これは止めてくれるなよ。どうにかなりそうなくらい……腹が立って仕方がないのだ」
ストレスが瞳に浮かび、黒く淀んで見えるティナの顔は今にも暴れ出しそうな雰囲気を宿していた。




