325 王城暮らしスタート〜!
はやく帰りたい。そんなことを思いながら、全く返してくれることもなく……時間だけが過ぎていく。
今はこの王城に来て5日目が経っていた。
【称号Ⅰ申出制度】の件はなんとか一件落着をした。
ぼくは『転生者』ではなく『賢者』と認められた。それも王国公認だ。響きがすごくて、自分なんかがいいんですかって感じだ。
領土戦争に行く前の転生者を探そう! で導入されたモノだったのに、賢者が出てきてくれるなんてラッキーって思われているんだろう。
で、賢者としてこの王国に住み込みで働いているんだが……ぼくが想像していたのは、魔法の研究とか、軍務とかに追われる日々だった。軍人の仕事っていうのは全く想像つかないからな。とりあえず、20kgくらいのリュックを背負って雪山を登ったり、遭難救助訓練したり、ジャングルの中で匍匐前進はしないだろうとは思っていた。
それで、実際にぼくに任せられた仕事なんだが……想像をしていたのとは全く違う内容だった。
「助手く〜ん! 手伝って〜!」
「はいはい」
「助手くーん! 服ぅ!」
「はーい、待っててくださいね」
「助手君ッ! ご飯を!」
「ただいまー」
「助手君……おやすみなさい」
「あのっ……すみません」
「? どうしたんだい? 助手君」
「…………こき使い過ぎでは?」
そう問題はこの少女森人。
ありえないくらい仕事を任せてくる。それも必要のない雑務ばかり。
朝は優しく起こすことから1日が始まる。その後に朝食の準備と服の用意。研究資料の運搬から肩もみと研究内容に関する意見交換会。昼食、夕食、ベッドメイキング、睡眠導入。
なにこれ。
軍務なんですか、これ。
「こき使うだなんて、人聞きが悪いぞ助手君」
「呼び方」
「助手君」
「助手になった覚えはないんですが」
「? した覚えはあるんだが」
記憶の捏造までし始めた……。
「君は私の直轄の部隊の隊長だろう?」
「らしいですが」
「つまりは私の部下ということだ」
「になりますかね。そもそも、義勇兵じゃないんですか」
「義勇兵だよ。だから、軍務を任せる時に面倒くさい手続きをしないように隊長を外部から引き抜いたという形にしているんだ。部隊自体は義勇兵だけど、管轄は私だ。私が自由に使える部隊ということだ、わかったかな?」
「……なんとなく?」
「それでいい。そして、私の部下になった者は私の面倒を見ることになっているのだよ」
急に涼し気な顔でなに言ってんだこのお団子は。
最初に感じた気高いって感覚は取っ払われて、ただただ生意気な耳長というものに。ここまで第一印象と落差がすごい人なんて滅多にいないぞ。
「部下って言われても、えーと……ルルさんは」
「先輩と呼びたまえ」
せんぱい……あぁ、賢者のか。
「ルル先輩は何者なんですか?」
「ふふ、知らないなら知らないでいい。変に身構えられるよりかはな」
布団で口元を隠してクシシと笑うお団子に嫌そうに目を細めた──仮面をつけたままではあるが──すると、それも変な琴線に触れたのか頭まで被って笑い出した。コイツ……こどものころの佳奈よりも扱いにくい。
──おにいーーーーちゃあああああんっ! びえええええっ。
いや、どっこいどっこいか。
それに森人ということは、このお団子のほうが年上。いや、年上って表現はあくまで一桁から二桁までの差を表す熟語だろう。
森人は桁が違う。三桁とかいってるんじゃないか? どうなんだ? 聞くのも恐ろしいから聞かないが。
「どうせ、そのうち分かるものだ。明後日ほどには【紫蘭之団】の隊長に任命する式を勝手に開こうと思っているからな」
「……聞いてませんが」
「今言った! 今朝運ばせた資料がそれさ。なんせ初めての試みだからね。この国は今まで、外部から戦力を引き抜くということをしてこなかったのさ。まぁ、私やエスタは例外だけどね」
布団から顔を出して目をキラキラとさせてきた。
「はぁ……」
「興味ない?」
なんだ。聞いて欲しいんですか。
いやです。人の自慢話と不幸自慢ほど聞いてて辛いものはないので。
「興味あるだろう。なんせ、賢者の大先輩のお話だからネッ!」
「早く家に帰りたいなぁーとは」
「しばらくは寝泊まりしなさい。ほら、あそこのソファ使っていいから」
「……」
「上司命令である」
ブラック気質のお団子め。黒団子……。エスタっていう金髪の人が「頑張れ」って肩を揉んできたのはこういうことか。
前まではあの人がやらされていたに違いない。くそぅ、都合のいいように扱いやがって。
「あと、隊長任命式はその仮面を取りなよ。普通に考えておかしいからさ」
「……どうしてもですか?」
「どうしても、だっ!」
じゃっ! と言って少女森人は布団に潜った。今日は睡眠導入はしなくても良いみたいだが……。
「どうしたものか」
暮れ時のつぶやきは誰にも届かない。
幸い、森人の睡眠時間は早い。まだ、日が暮れている頃。いつも2時まで訓練をしていた身からしてみればまだ昼間くらいの感覚だ。何か手を打つにしてもまだ色々とできる。こそっと部屋を出て、王城の廊下をカツコツと歩いていく。
「……どうしようか」
顔を出せって言われたら……だって、顔出すとクラディスっていうことがバレるじゃないか。
瞳を見られるだけで「紫の瞳だ! 転生者だ!」ってなるのに。
──困ったことがあったら頼りにきたまえ。
リリーさんの顔を思い浮かべる。
この体のことを知っていて相談できる相手はリリーさんくらい。
「押しかけるか」
◇◇◇
「なるほど。読めた」
訳を説明するとリリーさんは腕を組んでそう言ってくれた。
突撃をしても嫌な顔をしないのは助かった。リリーさんも頼られることは想定をしていたみたいだ。
「というか、それ、悩む必要はあるのか?」
足を組み替えて目の前にあるボードを眺め、こちらにソレを見せてきた。
「君の種族なら、姿かたちくらい自由に変えられるだろう?」
ぴた、と思考が止まった。
「ん?」
え?
「いま、なんて?」
「なんだ? 知らなかったのか?……あー、その顔は知らない顔だな。私自身も亜人を視るのは初めてだからアレだが、ホラ。種族の固有スキルだ。【身体変化】って」
ボードを指差しながらそう言われて、目をパチクリとさせた。
いまいち、事態が飲み込めない。大きすぎて喉を通ってくれない。脳みそですら手を挙げて降参してる。
「そんなの……アリなんですか?」
「有りなんだろう。そもそも亜人は私や……それこそ君の上司のあのチビよりも上位の種族になる。あのチビが間接的にも体を小さくできたんだ。君ができない理由はない」
「……あの人、体を変化させられるんですか……?」
「種族昇華でな。……気が付かなかったか? アイツ、ただの森人じゃないぞ。上位森人だ」
「え”」
あのお団子……上位森人なのか……!?
アレで……? あんな態度で?? 鳥肌だぁ……。
最初にみたときの風格はたしかに、並の森人よりも格式が高い感じがした。が──助手君ッ!──うわっ、嫌だ。
「その反応を見るに、予想通り雑用を任せられてるようで。……まぁ、アイツは誰よりも長生きだというのに、誰よりも生意気で気紛れだからな」
「……とりあえず、ぼくは……その姿を変えられるってことで」
「ん。部屋を貸してやるから、やってきてみるといい」
案内されたのは一階の奥の部屋。
部屋を開けると、グチャァと本やら何やらが散乱していた。
「ンだコレ……」
「わからんか?」
「当てていいですか?」リリーさんのニヤニヤとした顔を見下ろして。「ケトスの部屋」
「おっ。そうそう。アイツの出ていったままにしてる。汚ぇだろ。はっはっは!」
「掃除はしませんからね」
「いいよ。アイツが帰ってきたらさせるから。滅多に血盟員も増やさねぇからな! ハッハッハ!」
陽気な褐色幼女はバシバシと背中を叩いて広間の方へ戻っていった。
「さて」扉を締めて、言われた通り【身体変化】をしようとして──
「……今のぼくのステータスってどんなもんなんだろう……」
訓練があらかた終わり、今はなんと【国定魔導士】という称号までいただいている。下位ダンジョンに行くのが決まったし……亜人っていう種族も本来の効果というか、効能というか、力を発揮し始めたらしいし。
「ふむ……ちょっと、見てみるか」
前に見たのはいつだったか。大規模クエストの前とかだったっけ。あれからどれくらいレベルが上がってるのか楽しみだ──
「うわっ」
開いてみて、正直に言うと驚いた。
「これが、ぼくのステータス……? えっ――」




