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318 どよめく城内


 

 頭の中で警鐘が鳴り響く。

 今すぐここから逃げろと煩く鳴ってやまない。


 今、聞こえた言葉、転生者を炙り出す制度……。それをわざわざ言うということは、まだこの場にいるとは思っていない可能性が高い。

 今なら――


「その制度の実行に際し、監査庁の方から鑑定士の方を招いている」


(監査庁……!!)


 動揺を悟られぬように目線をそちらにやると、壁際に立っている人たちはゆらと動き出した。


 顔が分からぬように大きなローブと鼻の下まで隠れるように模様が刻まれた布状の何かを巻いている。それは転生者達によって狙われないような仕組みなのだろう。

 

(いや……もう既に、この場所にいると警戒されている……!)


 警戒されていなければ手枷もしない。そもそも、この場所自体、簡易的な様式ではない。壁際に備えられている兵もそのためか……!

 

「抵抗はせぬように。する必要もないだろうが」

 

 一列に並べさせられ、目の前に一人ずつ鑑定士が立った。


「……」


 まずい。どうする。

 逃げるか?

 でも、どうやって?

 ここで逃げたところで、すぐに捉えられて。

 いや、でも抵抗をしないよりかは──


 違う。そうだ。


 ──手の重みが今となって、自分の体をその場所に沈み込ませてくる。


 この手枷……何か施されてる。


「……これって魔素を封じてるんですか?」


「おお。そうだが……よく気付いたな」


 やはり、そうか。これを嵌められてから『魔素感知』が上手く機能しない。

 パッシブスキルですらその状態なのだ。スキルや魔素を動かそうとしても──上手く動かすことができない。


「それは前までは罪人を捉えるために用いられていた拘束具でな。量産はできないのが難点なのだが……これくらいの人数なら問題ない」


 魔素を封じられ、退路は固められ、武装した兵によって警戒される。


「……っ」

 

 完全に打つ手なし…………。


 仮面の下で何かが起こって欲しいと願う。それしかできない。


「……この方は、称号Ⅰ持ち(インファンテ)ではありません」


 一番端にいた褐色肌の男性がそう言われた。


「この方も……違います」


 その隣にいた緑がかった黒髪の青年も。

 

 そして、ぼく──目の前にいる鑑定士の口元が、キュッと結ばれたのが見えた。


 喉にあった水分が一気にして持っていかれた。

 それが何を意味しているのかが分かるからだ。


 両手を握り、拳を作る。


 ──この状態でも殺ろうと思えば、殺れる……。


「…………」


 だが、それをして……どうなる?

 この状態でここに居る全員に勝てるのか……?

 無理だ。魔素のない状態で……少なくとも前の軍人には勝てない。


「どうした? その者の結果は」

 

 軍人に急かされ、鑑定士はこちらを見上げた。

 その視線は布によって遮られているが驚きが含まれているように思えた。


「……っ」


 そして、その鑑定士は後ろをゆらりと振り向き、こう言った。


「……この方は、称号Ⅰ持ち(インファンテ)です」


「!!」


 場がざわつき、兵が動いた。

 隣にいた他の団員達も目を大きく見開き、距離を取る。


(くそ……最悪の事態だ)

 

 この場を取り仕切っていた軍人が目の前にまで歩み寄り、鑑定士の前に立った。


「まさか、本当にいるとはな……」


「…………」


「称号Ⅰ持ち(インファンテ)……本物か? 見間違いはないか」


 軍人がこちらに目を向けたまま、背後に居る鑑定士に確認を取る。

 

「えぇ、しっかりとありました」


「鎖を」


 剣を向けられ、鑑定士を護るために盾を構えられる。もはや、抵抗するのが分かっているかのような対応だ。


「腕を上げろ」


「……」


 素直に従う僕の手枷に鎖が繋がれた。太くて重たい。罪人がするような手枷。


「称号Ⅰに何かが書いてある……そう判断していいんだな?」


「はい……それが何かまでは詳しく見ることはできませんでした」


「レベル差か……」


 そう。今回のコレは、ぼくが転生者だと確定付けられた訳ではない。


(まだ……大丈夫)


 鑑定は「レベル差」によって見れる情報が変わってくる。

 そして、この鑑定というスキル自体は商人を生業とする人に現れやすいスキルだ。


(レベルを上げていて助かった。これが転生したばかりの時だったら危なかった)


 とりあえず……首の皮が繋がったか。

 手に滲む汗を握り込む。焦る姿を見せる訳にはいかない。だが、安心することなどできない。


「ここで君になんの称号を持っているのかは聞かない」


「その方が良いかと思います」曇る表情を仮面で隠した。「……どうしましょう。場所を移動しますか?」


「そうだな……それがいい」


 声は震えてないだろうか。

 足はすくんでないだろうか。

 今まで散々「転生者疑い」をかけられてきたおかげで、なんとか体裁は保てているだろう。だが、これは今までのものよりもレベルが違う。


(拘束されてる間に誰か助けに来てくれたら、助かるかもしれないけど……)


 こういう時に限って……置き手紙もしてない。助けに来てもらえるい可能性は低い。

 拘束され、何もできない状態で死地に追いやられる。転生者だと知られた時点で、ぼくの行く先は決まっている。歴史がそう教えてくれる。


「この場にいる者たちは解散で良い。これから私は……この者を連れていく」


 僕はこのまま留置場に連れていかれるのだろうか。

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