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317 イルミナエントリー


 

「王城に行くのは久しぶりだな」


 適当な路地に入って、人目に付かない場所でお着替えを済まします。何かと目立つから、ギルドの宿舎から出てきたとなると変な噂が立ちそうで嫌なのである。


 アイリスは【女性】というキャラにしているため、服装も色々と考える必要がある。


 傭兵という設定もあるわけだから、そこまでキャピキャピしたのでなければ何でも良いだろう。

 

 ということで、前回と似たような格好である。

 変わった所といえば、ちょっと白を貴重にした服装になったくらい。こういう場所に来るような格好ではないのはそうだけど。


「お待ちしておりました」


 呼び出されて案内された場所は前回の「あなたを【紫蘭之団《オーキッド》】の一員に〜」と言われた場所。ちょっとした広間である。


「皆様、既に揃われています。さ、これを腕に」


「? は、はい?」


 腕に? これを? なにこれ。


「あのぉ、これは」


「申し訳ございません。私は何も知らされておりませんので」


「はぁ……」


「皆様付けているので心配は要らないと思います」


 腕輪というには無骨すぎる。もはやこれは手枷じゃないか? というか案内人がいるってのはどういうことなんだ? 


 【紫蘭之団《オーキッド》】。それはあくまで、王国のなんでも屋のような立ち位置だ。

 軍隊の用語なんてのは知らない。即応部隊やら増強部隊やらなんやらだっけ。いや、義勇兵と言っていたか。王国が有事の際に協力をする王国とズブズブの外部の部隊って感じなのだろう。

 だから〇〇様と呼ばれること自体がおかしい。それにもし軍人という立ち位置だったとしても、ここは王城の中なのだ。敬う相手が違う。


(……まぁ、付けるしか無いなら付けるけど……)


 腕を差し出すとガチャッと嵌められた。うん、これ、間違いなく手枷だ。


(物騒だなぁ)


 広間に行くとあの時にいた面々がいた。名前なんてものは覚えてないからアレだけどさ。


 とりあえず会釈しておく。当然の無視である。同じところに所属をしても他人ですか。

 隅っこにいよう。あまり目立たないように。居心地悪いし。


(今更、なんで呼ばれたんだろうか)だらんと下げた手を見やって。(こんなものも嵌められてるしさ)


 もしや、王様と出会える??

 だから何するかわからないお前らには手枷を!! ってことか?

 鎖にもなんにも繋がれてないし、手は動くから襲おうと思えば襲えれる。


 手をグッパグッパしてみる。この状態でもモンスターなら倒せるな。

 

 ──なんて考えるのは、ティナ先生の訓練の賜物か。


 思わず苦笑いをして──ふ、と違和感を感じた。


 それはいつもの『魔素感知』ではない。

 その他の感知系スキルでも、なんでもない。


 それらを感じないことに違和感を感じたのだ。


(これって……)

 

「──あー、あー。お集まりの皆々様がた」


 声が聞こえて顔を上げると、軍服を着た知らない男性がいた。


 後ろで束ねても長く感じる長い白髪。昔に絵本で読んだことがあるような顔立ちをしている男性は、ある種の森人《エルフ》を彷彿とさせる顔立ちをしている。


 刀剣を佩いし、腕を組みながら気怠そうに紙に書いたカンペを読み上げるようにしている。その文字を目で追う表情もどうも乗り気ではないようで、機嫌がそこまで良いようには見えない。


「今回、【紫蘭之団《オーキッド》】の君たちに集まってもらったのは他でもない。既に耳に挟んでいる者もいるかもしれないが──」


 そして、部屋の中にぞろぞろと人が集まってくるのが見えた。

 鎧を身に着けている人。黒服を着ている人などと様々だ。が、明らかに王国関係者じゃないような人も見える。


「次の領土戦争について着々と話が進んでいっている」


 ぴく、と耳が動いた。聞き間違いじゃない、よな……?


「いま、領土戦争……って」


「そうだ。君たちは民間人ではあるが、片足はこっち側にある。君たちにも話を通しておくべきだと思い、此度は招集をかけさせていただいた」


「それだけなら早く帰してくれ」


 褐色肌の男性がその男性に睨みを効かせる。軍人であるならば考えられない行動だが、男性の話にもあった通り、僕らは軍人であって軍人ではない。外部から引き抜いたという形式のため、上下関係が曖昧だ。

 としても、タメ口を聞いても良いわけではないのは分かる。


「そうもいかん。説明をする義務がある。それに、ここにいるのは軍人だけではない」


 手をひらひらと振り、その男性は壁沿いに立っている黒服を見やる。


「まぁ、訳を色々と説明させてくれ。早く帰りたいだろ?」


「……」


 褐色の男性の無言を肯定と取り、話を進めていく。


「先も言ったが【領土戦争】だ。記憶に新しいだろうが前回の領土戦争はこの大陸にある三国は大敗した。多くの血が流れ、多くの人が死んだ。ちょっとマイルドに言ったがとんでもない結果に終わったのは知っての通りだ」


 優しく説明をしてくれているが、前回の領土戦争についてこの年代の人たちで知らない人はいない。

 そして、その多くは……いや、全員は良い印象を抱いていないのも事実だ。


「あの事件から十数年経った今……再度、領土を広げるべく戦争の計画が建てられている」


 なんでそんなに早く……と思ったが、前回の経験がある者が生きている間に行いたいというのがあるのだろう。

 でも、一応は確認しておくか。

 

「……認識の違いがあればご指摘ください」と手を上げた。「あの日から年月が経った今、戦争に行けなかった子どもたちが大きくなり武器を取れるようになった。……戦争経験者と彼らを向かわせるおつもりですか?」


「聡いな、その通りだ。この機会を逃せば、戦争経験者は老いて戦えなくなる」


 認識が間違ってなかったみたいで安心した。

 世代がある程度周って戦える者が増えた。前回の生き残りがまだ前線で戦える。

 十数年であり、二十年は経ってはいないというのが肝だ。


「……かつての若い芽が摘まれたことによって、この大陸全体に空白の期間が生まれる、か」


 緑がかった黒髪の青年がぽつりと呟いた。これで認識の共通もできた。

 

 大雑把に言えば、只人の周期は20年ほどで回る。


 若い芽というのはある程度熟した戦士を指す。これが20歳〜30歳。

 その上の31〜50歳は筋力の衰えなどはあるが積み上げられた技術や判断力は宝と言っていい。ここに当たるのが前回の領土戦線の時の【若い芽】だ。

 更に年齢を重ね、51〜60歳前後は戦えるギリギリのライン。引退間近の戦士。これが前回の戦争の要と言っていい人材に当たる。


 この前回の若い芽である31〜50歳がこの大陸は少ない。それは出生率に直に影響する。

 今の20歳くらいから下の人は戦争後に産まれた人たちになる。

 

 分かりやすい数字でいうと、


 20以下:出生率が低い世代で、人口が少なめ。

 20以上:前回の戦争時には戦えなかった若い者たちが大人になった。

 40以上:戦争を経験した生き残りで、一番打撃を受けた世代。物理的に人口が少ない。

 60以上:戦争経験者で熟練した者が多いが、引退が近い。


 この通りだ。このまま時間が進めば、出生率が低い世代――20歳以下――が大人になり、60歳以上が戦えなくなる。軍人の言っていた「最後の機会」とは、物理的な戦力の確保が向こう数十年難しくなる、ということを意味している。


 だが、これを考えると、一つの懸念が湧き出てくるだろう。

 ぼくは再びはた、と手を上げた。

 

「……これは、危ない賭けじゃないですか? 今回のコレを失敗してしまった場合、さらに空白の期間が生まれることになる」


 ぼくが言いたいのは、出生率の低かった世代(いまの20歳未満ほど)が大人になるのはいずれ訪れる。その時点で、働く世代の一部が欠けることになるのは目に見えている。ここまではだれでも想像出来る。


 そこに『戦争』が起き、今現在の20代の人たちが亡くなってしまうと……何十年後かには働く世代が空っぽになる可能性があるということだ。

 

 働く世代というのは国力に直結する。経済というのは国の血液だ。


 流れることを止めたら国が病にかかる。普通に考えたら、領土戦争をする場合じゃない。子育て支援なぞに力を注ぐべき事柄のハズ……。


「その期間を魔王が黙って見ているという保証はどこにもない」


 ピシャリと言われて、思わず顎を引いた。


「君は聡いが、少し楽観的な所があるようだ。今、こうしている間にも魔王軍に攻め入られる可能性がある。平和協定なんぞ結べる見込みもない、土地が面して陸続き。森を抜けるだけでそこは魔王の領土だ。事実、君たちが武勲を打ち立てた王国襲撃は魔王が仕組んだことだということも分かっている」


「……そうですね。申し訳ございません」


 失念をしていた、というのが近い。


 日本は海洋国であり、ちょっかいを出してくる国はあれど戦争を仕掛けてくるような国はいなかった。

 戦争をしたら世界から孤立するのが分かっているからだ。輸出入はもちろん、外資系の店が多い状況の中、経済的にも孤立する可能性が高い。

 だが、魔王はそんなの知ったこっちゃない。むしろ、この人界側に残されている土地の方が面積としては少ない。

 こっちの都合なんて考えてくれるわけもない。

 だからこそ、彼らは『魔王』であり【共通敵】なのだ。

 

「としても、その懸念はその通りなのだろう。私は軍人なのでそういう政には通じてはいないが……だからこそ、今回はこのような形式を取っているのだろうからな」


(このような形式……?)


 男性は今一度、壁側の人たちを見やって雰囲気をリセットするために呼吸を繰り返した。

 

「……前回の領土戦争は失敗に終わった。それを繰り返す訳にはいかない」


 空気が変わった。

 もう先程の気怠そうな男性の面影はない。

 重要な任務に向き合うような表情になり、カンペも見ていない。語気も強い。なにより……感情が乗っている。

 

「只人が只人を足らしめる条件は歴史を綴ることであり、過去を繰り返さないことである」

 

 手を後ろで組み、声を張り上げる。軍人の声だ。

 それを受け止めているぼくは、流れ的に彼が何を言おうとしているのかを理解した。


 手枷を嵌めさせ、逃げれないように退路を塞ぐ。

 そしてこの状況でその言葉を言う意味――


「……」


 ──これは、不味い。


「よって、この度の領土戦争の戦力調達においては、参加する者すべての潔白を証明するためにとある制度を導入することにした」


 ──非常に、不味い。


「ロベル王国が先じて王国全体で行っている制度であるため、そちらのやり方をこちらに輸入した形となる」


 それがなにかは分からないが、ぼくにとって……いや『転生者』にとって悪いものであるだろうということは分かる。


 そして、飛び出した言葉にぼくは息を呑んだ。


「その制度の名は【称号Ⅰ申出制度(イルミナ・エントリー)】。転生者を炙り出す制度だ」

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