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316 王城への招待状



「ぁ、う……」


 買い物に行こうとすると、いつの間にか目の前にいたソバドアさんに頬を下から持ち上げられている。


「しゅびばしぇん……」


 グイと覗き込むようにされて顎が上がった。ソバドアさんは身長が高めなのである。僕の顔に髪の毛がちらはらと当たるのが少しくすぐったく感じる中、とりあえず謝ることにした。


「盗み聞きをするつもりなんてなくて……」


「みんなそういうのさ!」


「ぴぇ……」うわ、変な声出た。びっくりしすぎて変な声出た……。


 えっ、怒ってる……? 

 もしかして、ぼく、いま怒られてる……?


「……」


 泣きそうな顔のままソバドアさんを見つめていると、

 

「ハッハッハ! そうビクビクとしなさんな! とって食やぁせんよ!」


 パッと手を離して大仰に笑った。……心臓に悪いですって。

 ぼくとソバドアさんはあまり関わったことがない。だから知らないことも多い。さっきの三者面談が今までの会話史上で最長くらいに話す機会がないのだ。


「……ソバドアさんはお体でも悪いんですか?」


「この体を見てみな。良いところを数える方が難しいよ」


「そ、そんなに……」


「ハッハッハ! 長生きしてたら至る所が悪くなるもんさ! 気にしなくてもいいよ!」


 年齢とともに、と言うやつか。

 それも時期的に冬。細身のソバドアさんには堪えるだろう。


「そんな状況で姉を教えてくださってるなんて……本当にありがとうございます」


「……ほんとうにあんたが弟なのかい? どう考えても、あっちが妹な気がするんだけどねぇ」


 お気持ち、お察しします。


(というか……その通りではあるんですが)


 実際はぼくが兄で、佳奈《アルマ》が妹だけど、異世界事情により逆転しているのだ。

 ぼくはなにかと頑張って弟キャラを演じようとしているが、佳奈《アルマ》の方はもう素で行ってるからごっちゃになってる。


「そう見えるだけですよ。アルマ姉さんはああ見えてしっかりしてます」


「へぇ? そう? ならしっかりしてほしいものだけどねぇ?」


 鼻で笑うというか、鼻にかかった声で先生は呆れ返ってた。ぼくの言葉も信用出来ないと言った様子。


「都合のいい時だけ姉ぶってるだけじゃないのかい?」


 おいおい。佳奈よ。ソバドア先生の中での評価低すぎじゃないですか?


 普段どんな態度なんだ。いや、まて僕も裏ではティナ先生にこんな感じで言われてる可能性もあるか。人のふり見て我がふり直せじゃないが、血が通った兄妹だから僕もどこかしら佳奈《アルマ》系統の血があるだろうし。


「ま、まぁ! やる時はやるので!」


 というフォローにもなっていないフォローをしておいた。 

 佳奈がんばれ。そして、お兄ちゃんも頑張るぞ。


(…………それにしても)


 ──盗み聞きとは感心しないねぇ。


 頬に残ったソバドアさんの手の感触を思い出す。

 冬だということを除いても、あの体温は。


「……大丈夫なのかな、本当に」


 どれだけ経っても温まらない温度が、まだ頬に留まっていた。


 


      ◇◇◇




 買い物が終わり、家の投函口を確認するとなにやら手紙が入っていた。

 

「なんだこれ」


 がさごそと荷物を仕舞い、扉を開けっ放しで大口開けて寝ている佳奈を横目にテーブルへ。

 うむ。これは王国の国花の蘭でとめられてる蝋封だ。


「ということは王国からかな……」


 開けてみるとその通り、王国からの招待状だった。ということは、呼ばれているのはクラディスではなく、もう一つの方だということになる。

 さっそく仮面を使う時がきたみたいだ。


「すぅ……すぅ……」


「?」


 寝息が聞こえたかと思って見てみると、ソファで寝てるアンがいた。

 三者面談の時にはいなかったから、買い物行ってる時に出てきてそのまま寝ちゃったのだろう。大胆な二度寝である。


「今までの疲れが出てきてるんだな、きっと」


 さっきティナ先生がナグモさんの部屋で入り浸っていたように、今はアンも準備期間で疲労を溜めないようにと休息を取ってる。


 どうも森人《エルフ》族というのは睡眠時間が長い。長寿の秘訣は長い睡眠時間かと疑いたくなるレベルでよく寝てらっしゃる。

 アンは厳密に言うと、分血の暗黒森人(ダークハーフエルフ)になる。暗黒森の番人(ダークエルフ)の母と、只人の父親の間に産まれた子だ。だから、睡眠時間もある程度は只人寄りにはなってるハズなんだが、一度寝たらなっかなか起きてこない。


(そう思うと、みんなねぼすけばかりか)


 ケトス、イブ、アルマ、そしてアン。僕の周りは皆よく寝てる。早起きは僕だけか。


「あとはエリルもよく寝てるなぁ……」


 今も寝てらっしゃる。寝てると言うか、スリープ状態というか。 

 暇さえあったら日本の文化を勉強してるからなあ。本当に危ない時には応じてくれるから助かるんだけどね。


(あくまで力を借りるのはピンチのときだけ)

 

 自分で対処する力を付けなければなりません。はい。頑張りましょう。


「寝てるのを起こすのもアレかな。どうせ、すぐ終わるだろうし」


 そうして、ぼくは寝てるアンを起こさず、なんなら置き手紙もせずに家を後にした。

 あと、佳奈の部屋は閉じておいた。パンツ見えてるって。

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