315 三者面談
「この子は下位ダンジョンには連れて行かせないよ」
「分かりました」
「分からないでっ!? もっと、反論というか! 抵抗してよっ!」
ソバドア先生をお出迎えして、三者面談が始まると開口一番にそう言われた。
佳奈がすごく「いや、もっと、こう、なんか」って顔してる。無理だ妹よ、諦めなさい。
この人はティナ先生のご友人。ぼくが口答えできるような相手ではないのだ。
「経過報告としては順調も順調さ。文字も覚えて、ネクロマンスも習得していってる」
「それでも、下位ダンジョンに潜るには厳しいですか?」
「いいや、そうじゃない。下位ダンジョンになんて潜る必要がないというのが正しい」
「それは……?」
「行ってみると分かる。で、聞きたいことはあるかい?」
シンプルもシンプルな応答。順調と言われてしまえば、深く聞く必要もない。
だからこそ、
「アルマお姉ちゃんは教えがいがあります?」
この手の質問をしてみたかった。
先生と生徒っていうのはどうしても合う合わないがある。皆から好かれる先生でも自分とは合わないことがある。逆に皆から好かれていない先生の方が絡みやすいというのもある。
前にみんなから好かれてる先生がいたんだが、僕的には中々合わなかったことがあるからなぁ。
「教え甲斐しかないね」
「……そうですか」
毎日の具合を見聞きしている限り、心配は要らないとは思っていたが……安心だな。
「ちんたらしてたら、アンタやあの子なんてあっという間に抜いちまうよ? なんせ、わたしが教えてんだからね」
まさかこっちにまで発破をかけてくるとは。
佳奈の方もなんかドヤ顔してるし。こころなしかソバドアさんと似てきたか?
「では、これからも姉のことをよろしくおねがいします」
「言われなくともさ。安心して下位ダンジョンに行ってくるといい」
机の上で固く握手をしていると、佳奈は話の流れを今更ながら感じ取ったらしく。
「えっ、いやっ! 下位ダンジョンに連れて行って……ほしい、かなぁ〜……なんて」
もじもじして目を逸らしながらそう言ってきた。
「だめだよ、お姉ちゃん。先生の言うことは聞かなきゃ」
「弟の言う通りだ。姉なんだから、もっとどっしり構えな」
「あぅ……。おにっ──くらでぃすくんとゆっくり過ごしたいよぉ……」
「あはは……まぁまぁ」
佳奈の気持ちも分かる。
異世界で再会したというのに、なんだかんだバタバタしていてゆっくり過ごせてはいないのだ。
最西の街から王国までは別の幌馬車だったし、冬山の訓練でしばらく空けていたし。……今度は下位ダンジョンだ。どれくらいかかるかは分からない。
「今が我慢時だろう。強くなる前にはこういう時間ってのがあるもんだよ」
「だっでぇ……」
「ほんとに世話を焼かせる子だねぇ!」
「焼きすぎて卵焼きができちゃうか」
「なーに言ってんだい!」
「なーに言ってんだろお……」
二人のやり取りを見てると、心配なんて吹き飛んで、なんなら安心した。
佳奈は言ってしまえば、やる気にムラがある。で、そのムラを上手くコントロールできる人ってのはそうそういない。ぼくだって、甘やかしたり、休めばいいよ、って言ってしまう節がある。
(相性ぴったりだな)
「アホたれ! その口ッ! なんだいその口は!」
「なんもないですぅ〜……はああ、先生厳しいよぉ」
「煩いねぇ本当にアンタは!」
「……」
ぎゃあぎゃあと騒ぐのはちょっと肝が冷えるけど……。佳奈も先生のことを嫌ってる訳ではないみたいだし。
その後、しばらく二人の喧嘩のようなプロレスのようなものを聞いて三者面談は幕を閉じた。
今日の勉強会はオフになったようで、佳奈がきゃっきゃと跳ね回っていた。
ぼくはぼくで家の入用のものを買い出しにいかないといけない。
「お姉ちゃんはどうする?」
「もう、ひったすら寝てやる。もう、わたしを止める者はいないっ!!」
出かける前に様子見で聞いてみたが、ベッドにダイブしていた。休日があれば寝てばっかりだな。寝たら寝たで「もう1日が終わった……!」って絶望してるけど。
一応は誘いましたよ、ということで。
「じゃあ買い物行ってくるね」
「あーい……いってらっしゃーい」
片足だけを起用に動かしてひらひらと。パンツ見えてるぞ。
「なにか食べたいものとかある?」
「お兄ちゃんが作るのだったらなんでも美味しいからなんでも〜」
「もう……」
尻を叩かれないと動かないタイプとアンは言ってたけど言い得て妙だったか。
(いや、ぼくが甘やかすからか……?)
なんて考えながら玄関の扉を閉めると、なにやら声が聞こえてきた。
(この声……)
少し歩いて、エントランスの出た先で止まった。
「どうじゃ? 体の調子は」
「お嬢が気にするほどでもないよ」
声が反響して聞こえてきた。これは……ティナ先生とソバドアさんかな?
階段で話してる。いや、もっと場所はなかったですか?……あ、外は雪降ってるからか。
先生はよくナグモさんの部屋に入り浸ってるから、まぁ、エントランスとか通路よりかは話しやすいかもだけど……。
「そろそろ帰ったほうがええじゃろう。……お主の体は」
「いいって。心配性なんだから。嬉しいけどねぇ〜ハッハッハ」
(ソバドアさんは体が悪いのか……?)
かなりのご高齢だから、どこかしら体が悪くなるのはそうだろうけど。
「……」
そのまま外の壁にもたれかかっていると、話が終わったらしい。
(…………無理、させてるのかな)
雪が時折姿を見せる空を見上げながらそんなことを考えた。
お年を召している方に佳奈のテンションは猛毒なのでは、とも思う。帰ったら自重するように伝えてみるか。
「ほぅ……」と顎を上げて息を吐き出した。
白息が立ち上っていくのを眺め、買い物に行こうとすると──頬にパチンッと軽い衝撃が走った。
「盗み聞きとは感心しないねぇ、弟」
「ぴっ……ぇ」
どうやら、ソバドアさんにバレていたらしい。




