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313 漏洩


 デュアラル王国の西部冒険者組合は二階建て+地下訓練場の構造になっている。

 一階部分は職員室や資料室、会議室が割り当てられており、二階部分は各部署ごとの部屋がある。


 組合職員の管理を行う『人事部』

 事務仕事の全般を行う『総務部』

 冒険者の情報を管理する『情報部』


 この3つの部署の中でも『情報部』は数ある部署の中でも規模の大きく、職員数も多かった。

 情報部の主な仕事は冒険者や血盟などの管理、クエストの成功や失敗などのデータの収集などが挙げられる。


 冒険者が国を跨いで仕事をするため、情報の管理が難しいことがずっと課題だった。

 そんな中『メインの活動拠点』の登録を冒険者に義務付けることによって「あ、この人メインじゃない所で仕事してる」と気づくようになり、その活動拠点の組合に連絡が入り、情報の共有が容易となった。


 例えば、ここデュアラル王国の冒険者組合の本部は西部冒険者組合だ。

 だが、ここ以外でも依頼を受けることができる。

 小さな組合だけに留まらず、飯屋や居酒屋、集会場などに依頼の張り出しや依頼の受託などを行わせている。としても、これらはあくまで支部的な立ち位置となり、得られた情報などは定期的に西部冒険者組合の情報部へと持ち寄られている。


 他国での依頼に関しては、本部の冒険者組合同士での情報を共有が定期的に行われており、その際に「こっちの冒険者がそっちで何かしたか?」

「あぁ、したぞ。依頼は〜」と言った形で冒険者の仕事を漏らすことなく評価などに反映できるようになった。


 要するに情報の集約化だ。

 すごく当たり前のことだというのに、コレに至るまでにかなりの期間がかかっていた。この制度が整ったのが領土戦争と国家間戦争の前、冒険者組合が全盛期と呼ばれていた時代の話。今の組合長統括のジョージが提案したのだが、閑話休題。

 

 だが、それでも、完璧に情報を管理することなど不可能。

 人の手仕事であるため、少しくらいの情報の差異などには目をつむられている。

 ましてや「情報の漏洩」なぞ、ほとんど気づかれることもない。


「えぇ。もちろんですとも……そのように」


 時刻は夜。

 二時の終業の時間を終え、残っていた者も帰宅をするような時間。

 そんな誰もいなくなった情報部の事務所内で、通信魔導具がほのかに周辺を光らせていた。

 

「以前の計画は失敗しましたが、次に考えている計画は……はい。もちろんですとも!」


 丸々と太った頬をだらしなく揺らす男は、魔導具で繋がっている先の機嫌を損ねぬように明るい声色で話しをしている。


「先の件は……はい。同年代の中だったらと思って依頼をして入れ知恵までさせたんですが……まだまだ尻の青いガキでした。えぇ……そうですそうです。なので、次こそは大丈夫かと……!」


 握りこぶしを作った。向こう側の反応もよし。男の重たい口端がつり上がる。


「それで……なのですが、また、いい女を紹介してくださると助かります。えぇ……この前の赤髪の女は最高でしたな!」


 限りある光源に毛穴から滲み出た皮脂油が醜く照らされる。男はそれを拭うこともせず、行為中のことを思い出して年甲斐なく股座をいきり立たせていた。

 ヨダレがでっぷりとした口からこぼれ、少し突き出ている顎の枠をなぞるようにして落ちていく。


「おっと」


 さすがに啜る訳にもいかず、職員の服で袖を拭った。

 白色のシャツがどこか黄ばむことを気にせず、魔導具の向こうから聞こえる不安そうな声を笑い飛ばした。

 

「はっはっは。成功しますとも。……大丈夫です。そちらにもお渡しをしている通り、今は銀等級の冒険者になったばかりですので!」


 手元にある冒険者の情報が書かれた資料を、嬰児のような締まりの無い手のひらで抑えた。

 そこに書かれてある冒険者の名前──アン・アルジェントとクラディス・ヘイ・アルジェント。今までの依頼の達成数、そして次に任せる依頼のことが書かれてあった。


 ──二次転職の依頼──という文字を男の手から辛うじて確認。


 この男が、冒険者二名の情報を外部に漏らしているのだ。

 

「ご命令通り、階級を上げるのを遅らせていました。そして……その間に……そうです! 計画は順調です……っ!」


 かねてから進めていた計画を実行に移す時が来たようだ。

 その計画が成功すれば……と考えると、男の興奮が収まらなくなる。


「ですので、次は少し気の強い女で頼みます。……いやいや、奴隷ではありません。生娘が良いんですよ。私は」

 

 息が荒くなりながらも、男はその魔導具の先にいる人物に誓う。


「次は成功させます。必ずっ……! 貴方様のご期待に沿えるよう尽力いたします……!」


 言葉を言い終わると灯りが消え、事務所内には荒々しい鼻息──そして、微かに香るコーヒーの香りだけが残っていた。

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