312 "次"の話を
王城の一間。
その空間は来賓応対用に他の部屋よりも爛々とした装飾が施され、長卓には果実や等間隔で置かれた榻背の長い木造りの椅子が置かれている。
とはいえ、本日の来賓は見知った顔ばかり。雰囲気は柔和なものだった。
まぁ、装飾品が日に当たると眩しいから照明は切って、外からの日差しだけの光源にしているのだが。
「あの悪夢から、十数年と経った」
白髪交じりの男性は窓の近くに立ち、眩しかったのか、カーテンを締めながら周りに確認するように呟く。
彼は、冒険者組合長のジョージ。
普段の装いで、かつ普段よりも肩の荷が降りたような様子。集まっているのが組合の者ではないから話しやすいのだろう。
「まだそれくらいしか経っとらんのか〜」
ジョージの言葉に乗っかりながら、胡座をかいたまま卓上の果実に手を伸ばす少女。うまく果実がつかめず、ムゥッと顔をしかめていると隣に立っていた男が果実を横から掠め取った。
「あっ、これ、人のものを取るでない!」
「雰囲気」
「うっさいわい」
「ごめんなさいね、グランドマスター。寝起きなんですコイツ」
「森人はっ! 基本寝起きだぞ!!」
「誇らしげに言うな」
「いいよ。どうせ、まだ一回目だ。今日から重々しくては敵わんのでな」
頭の上でシニヨンを作ってる寝間着の少女が、白ジャケットの金髪の男性の持っている果実を取ろうと机の上にドタドタと裸足で上がり、飛びかかる。華麗に交わし、金髪の男性が果実を一噛み。
「うん、美味い」
「ワタシのっ! ワタシのっ!! 返せッ!」
高身長の男性の下肢に纏わりつく少女に果実を返し、そのまま椅子に座らせる。
しゃりしゃりと食べる少女から目を外し、金髪の男性は視線をジョージへ流した。
「……それで、グランドマスターさんは何をしに城へ?」
「伝えてたハズだがな。伝わっていないのか?」
どうなの? と椅子の少女に耳打ち。知らんぞと顔を上げて答えていた。
「……おーさまに話が通ってるのかもしらんが、詳しくはしらん」
「あら、伝えてなかったかしら」
長卓の最奥に座っていた女性が呆けたような声を出し、その二人の元帥に向かって笑みを浮かべた。
「なら、ジョージさんからお話があると思うからしっかりと聞くのよ?」
「はーい」と答える寝間着の少女姿の元帥──ルル。
「分かりました」と瞑目し、手を後ろに組んだ金髪男の元帥──エスタ。
この二人はこのデュアラル王国の王国軍が誇る最高位の軍人だ。
そして、差し込むはずだった陽光をカーテンが遮り、光は女王には届いてはいない。それでも柔和な雰囲気の感じられるほうれい線が年齢を密かに教えてくれている。
「まぁ、そういうことなら仕方ない」ジョージは髪の毛をくしゃっと揉むようにすると。「……この件は、既に傭兵組合や各協会にも通達している。もちろん、他二国にもな」
「仕事早いんだ。グランドマスターは」
「これでも遅い方だがな」
ジョージはエスタの驚いたような口ぶりに肩を竦めた。
「他二国は否定的だ。前回のようなことがあったから仕方がないといえばそうなんだが……。まぁ、今回の件については」
「おっ、とうとう連携する日が来たのか? 仲が悪かった二つの組織が」
長卓に手をついた女の元帥に手をひらひらとさせた。
「語弊を招く言い方は止せ。仲が悪い訳ではない、むしろ良い方だ。どっちも同じ中立組織同士なのだからな……それのせいで、お互いに手を組むというのは基本的にはなかった訳だが」
「なら、監査庁と冒険者組合が主導で今回は進んでいくのかしら」
女王の問いにジョージは頷いたが、少し気の抜けた顔も見せる。
「まだ依頼段階ですがね」
「これで前回のようなことがなくなるといいですね」
「なくなってもらわんと困ります」
椅子に座ったジョージは、腕を組んで出されていたお茶を啜って、コンッと置いた。
「ということだ。前置きはこのくらいにして具体的な話を進めていくぞ」
前置きにしては割と話をした気もするが、具体的な名前を出さずともソレが「何の話」かは皆は分かる。それほどまでに「十数年前の悪夢」は皆の中で色濃く、記憶に残っているのだ。
今回のこの話はその悪夢から目覚めるために必要なもの。
「──次の領土戦争の話を」
さぁ、歴史を綴る準備をしよう。
第五章:最上位発芽編──完
第五章は以上で終わりです!
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