311 勝手に予約を取られていた
「まだ早かったか。はっはっは!」
あれ、声が聞こえてきた。
この声はティナ先生だな。
「ティナちゃんは本当に加減を知らないんですね。まだ早いでしょう」
……んっ、あれっ、ナグモさん? 帰ってたんですか。
「何をいうか! このダークハーフエルフもクラディスも尻を叩けば強くなる奴じゃろうが」
「だからって、久々に帰ってきた時に強く叩きすぎですよ。腫れちゃったらどうするんですか、もー」
そうだそうだ! と言ってやりたいが、本当に何をされたのか分かんないまま終わった。尻を叩かれるどころか、理不尽にぶん殴られた気持ちだ。
「おっ、おめざめですか。お久しぶりですね、クラディス様」
「……あ、どうも。ナグモさん」
パチッと目を開けると、真上にイケメンの顔があった。
膝枕ですか? えっ、ナグモさんの?
「なんか大きくなりました? 冬山の訓練に行ってたって聞いてましたが、その間に背丈が伸びるなんて……強いモンスターに踏み潰されたのかと思いましたよ」
「そんな訳がないでしょう……。潰されたことはありますけど」
渡黒鴉にムニムニと押さえつけられたのは、まぁ、傍から見たら潰されてるみたいなもんか。
「おおっ、やはりクラディス、大きくなったか! わしよりも大きくなりおって……まだ弱っちいくせに」
「手厳しい……」
アンは……まだ寝てるか。ティナ先生の膝枕かと思ったら、あっちは普通に放り投げられてる。
「それと、ナグモさん。おかえりなさい。ダンジョンの方はどうでした?」
「弱いモンスターばかりでしたよ。そろそろアレくらいのモンスターは対処してもらいたいです」
「ナグモさんレベルに行くには、みんな骨が折れるでしょうよ」
「いえいえ。といっても、今回クラディス様が行っていた雪山も上位ダンジョンだと聞きました。そこを統治したんですから、クラディス様以下ですよ」
まぁ、ぼくが戦ったのはほとんど序盤だったし。後は仲間になってくれた皆が頑張ってくれたから比較的、楽にできた。
本来ならモンドもダンカンとも戦わないといけないし。シュルペーとかウッグとかもアンと二人で戦わないといけなくて、あとは渡黒鴉も……って考えると、今回の訓練はズルした……ってならないか?
「……? どうしました?」
「いえ」
正攻法じゃなくとも、長になったのだ。
今できる全部をぶつけたのだから、あれはあれで良いとしよう。
「じゃあ、そんなクラディス様にコレを」
「? 通信魔導具……コレが?」
「繋がってますよ」
渡されたのを受け取ると、声が聞こえてきた。
『ナグモさーん。ナグモさんー。話が違うんですけど。モンスターがいるんですが、全然居るんですけど』
この声は……
「ムロさん?」
『うぉっ? ナグモさんがクラディスになった──何いってんのよ。あの人職務放棄ですよフツーに──おいっ、適当なこと言うな。殺されるのはオレだぞ──モンスターが多くて! 殺されそうになってるのは私達でしょっ! 貸してっ! あのぉ! ナグモさん!?』
「えーと、エルシアさん?」
『本当だっ!? ナグモさんがクラちゃんに!──おい、はやく進め。後ろが閊えてるんだが……モンスターは蹴散らせば良いだろう。そのために温存しながら上がってきたのだから』
通信魔導具から懐かしい声がたくさん聞こえてきた。この声はレヴィさんだ。
「皆さん、ご無事で……」
『クラディスか? 久しいな』
「上位ダンジョン、攻略できたんですね!」
『あぁ。この前の血盟員募集で新たに加わった者たちの実力も見れた。攻略はこれで三度目にはなるが……主戦力が私達である以上、少し疲れた』
血盟お試し期間の時に募集してた人たちと攻略したって、普通にすごくないか……? エヴァーチェの皆が血盟の総力でダンジョンを攻略していたのに、この人達は余力を残しながら……。
『そーだ。貸してっ、レヴィ! クラちゃん! 私達が上位ダンジョンをクリアしたんだから、クラちゃん達もさ! そろそろいいんじゃない!?』
「そろそろって?」
『どうせ、そこにナグモさんもいるんでしょ!? だったら、下位ダンジョンだよ! 推奨レベルは越してると思うし。始まりの地でも行けたんだしさ』
あっ、すっかり忘れてた。ケトスにもずっと言われてたのに。
エルシアさんの言葉には返さずに、ナグモさんを見上げた。
スッと手を出してきたので通信魔導具を置くと、受け取って。
「もちろん。帰ってきた時に申請を出しておきました」
「はっ!? 聞いてないですって!」
「言ってないですもの。あと、あの多忙期で五割増しで恐ろしいスタッフリーダーさんとペルシェトが止めるでしょうから、内密に出しておきました」
「ナグモさんってそういうことしますよねぇ……」
「バレたらバレたで謝ればいいんですよ」
「悪い人だぁ……」
『なら、期待してるからねっ! じゃあまた王国で──何いってんだよエルシア。俺らはこれからこの森での依頼をする予定だぞ──はぁっ!? ちょっ──じゃあなクラディス。頑張れよ』
ブツッと通信が切れ、通信魔導具の明かりが薄れていった。あの人達はいつも依頼やってるなぁ。少数精鋭だから仕方がないんだろうけどさ。
「ありがとうございます。連絡をさせてもらって」
「いえいえ。何かと仲良しですからね、アサルトリアとクラディス様は」
仲良くさせていただいております。なにせ、命の恩人さん達なので。
「でも、下位ダンジョンかあ。いけるかなぁ……」
「……」
行くとなると緊張してきたな。僕でも行けるんだろうか……。
でもまぁ、ボルル君や佳奈がいた時に最終階層まで行けたからなんとか行けそうか!
「さぁて、と。クラディス様がダンジョンに潜ることが決まったということは、それに向けて色々と準備をしていく必要がありますね」
「そうじゃなあ。下位とは言え、ダンジョンじゃ。舐めてかかると平気で死ぬ。入念に拵えていかんとな」
ん?
「……なんか楽しそうじゃないですか?」
「教え子の成長を楽しんどるだけじゃがなぁ? ナグモ」
「えぇ。あとは、ダンジョンまでの期間でなにをしようかとか考えてますが、まぁ、それは微々たるもので」
「ダンジョン用の訓練は必要じゃからなぁ。ワタシらも頑張らねばならん。よぉし、心を鬼にして頑張るか」
「いえっ、ぼくたち、一回最西の……」
そうか。これ、言ったらダメなヤツだったっけ。アサルトリアの皆さんがやったという名目になってるから、あそこで頑張ったっていうのを言うと横流しになる。
「でも、その……えぇーっと……大丈夫だとは思いますよ? だからそんなやる気にならなくても」
「いやいや、ワタシらは弟子の二人が心配で心配で……」
「そうですよ。じゃあ、とりあえずは……持続的な戦闘を可能にする体作りからですね」
ギラと二人の目に鬼火が宿る。
あ、この人達……心配をしている体で訓練をしたいだけの……。
「いや、ちょっ……やめっギャアアアアアアッ!」
そこから何があったのかは、もはや言うまでもない──……。




