309 王国に戻ってきたけど……
「それでは転移を開始します」
広場に戻るとユラさんがいなかったので、呼ぶとどこからともなく出てきた。不思議な人だ。今日は雪が降ってないんだけど、それでも傘は差したまま。日傘かな?
「じゃあ、みんな元気でね」
手を振ると、ダンカンがドスドスと近づいてきた。
「旦那が留守の間は任せてくれ」
「うん。ダンカンは日に日に成長してるもんね。任せるよ」
出された手を握って、その後ろでもじもじとしてる二つの影を覗き込んだ。
「あと、ガイドと十六! 忘れてないからな! ゴブリンのみんなのリーダーなんだから、自信持てよ!」
「「は、はい!」」
雑務ばっかり任せちゃってたからなぁ……彼らのおかげでゴブリンのみんなの動きがよくなった。
アンに教わったことを漏らさずに伝えてくれた二人の功績は大きい。
「ご主人、次にお会いできる日には我が部隊をより強固な部隊にしておきます」
「モンドにならできるよ。ちゃんと、妹ちゃんと仲良くね?」
「コイツとですか……」
「主人と次に会うときには私が族長になってますので」
「ははは、将来有望。ハウルが族長になってるかどうか、楽しみにしておこうかな」
兄より勝ち気な妹。どの世界でもそんなもんか。
「ママ……ぼくっ、ぼくぅ……」
「デイジーは泣き虫だなぁ」
「言っても産まれたばかりだからねぇ」
「それもそうか」
泣いている我が子を優しく抱き寄せる渡黒鴉。
「すぐに会えるよ、デイジー。おばさんはもうちょっといるみたいだから、ママだと思って甘えてあげて」
「うぅ……うっ」
「次に会う時には、いっぱい遊ぼうね」
デイジーの頭を撫でて、他の皆に目を向けた。
たった一ヶ月とちょっと。それでも、ここにいるみんなは僕の仲間だ。
「じゃあ、みんな! ぼくとアンがいない間になんかあったらすぐに連絡を頂戴ね!」
手を上げると、口々に皆からお別れの声が聞こえて──景色に白い光が舞い上がり、それらに妖精の尻尾のようなものがついて──伸びて──真っ暗になった。
グラッと足元が浮かぶ感覚と、落ちる感覚が重なると……そこは。
「あはは……見覚えのある場所だ」
イニシアの森のいつものところ。にしても……もうちょっとで日が暮れるくらいの時間か。
「そろそろいかないと門が閉まっちゃうかも」
「急ぎますか?」
「うん」
──パキッ、と木の枝が折れる音が聞こえた。
「と、その前に……こっちのモンスターは友好的じゃないらしいから戦わないとだ」
出てきたのは森狼と小鬼の群れ。
鑑定するまでもない。ここらにいるのは通常個体か、いたとしても上位個体まで。
「あのユラという女……転移先のことは考えていないようですね」
「これも踏まえての先生の訓練かもね。あっちで仲間を増やして、モンスター相手に情を抱いてるんじゃないかって」
「あるじとわたしがそんな柔に見えてるんでしょうか」
「ぼくはちょっとは戦いたくないんだけどなぁ」
グイグイと手を引っ張って柔軟性チェック。大丈夫そうなので、唸るフォレストウルフとホブゴブリンに微笑みかけた。
「どうする? 戦う? こっちとしては平和的に解決したいんだけど」
言語理解のまま語りかけても、反応はなし。
ゴブリンは武器を取り、フォレストウルフは逃げれないように四方を囲んだ。
「交渉決裂、と。やっぱり……友好的なモンスターとそうじゃないモンスターがいるってことか」
沈みゆく夕日が木々によって遮られ、後方にある木々だけが橙色に照らされ、それも失われていく。
「なら、戦おう。ここから先、言語理解は切るから──どうか、命乞いはしないでね」
「聞こえるというのも面倒そうですね」
「全員と仲良くできたらいいんだけどね」
みんなと別れた後、すぐこんな舞台を用意するなんて……先生はぼくのことをよく分かってるらしい。
◇◇◇
「なぁんで血まみれなのかって聞いてんだろ!!」
「なんでって言われましても……」
「モンスターと戦っていたと何回も言ってるだろう。耳がないのか」
足を組むアンと、膝の上に手をおいてペコペコと頭を下げる僕がいるのはいつぞやのケトスと一緒に入った取調室のような場所。
門が閉まる前に滑り込みだ〜と思って言ったら、門兵に捕まりました。
認識票なんて置きっぱなしだったから、身分を証明できるのがないんだ。転移を国の中にしてくれたらよかったのに。
「今、さっきいった連絡先の人に来てもらってるから。もうしばらく待っておけよ」
「はーい」
門兵さんが呆れたように出ていった。
あの人は何回も僕と会ってるから、事情が分かったのだろう。あれだけ毎日、国の外に出て森で訓練してたらここらへんの人とはある程度の関わりはある。
まぁ、顔パスなんてできたらおかしい。それに、ちょっと前に王国が魔族に襲撃されてるんだから、むしろ警戒はしてくれてありがとうと言うべきだ。
ややあって、僕たちを迎えに来た人がきた。
ぼくらの身元を証明できそうな人と言われても、ギルド関係はまだ忙しいだろうからNG。それでとりあえず来てくれそうだったのはこの御方。
「なんじゃ、身元確認じゃなんじゃと言われたが」
「あ、先生〜。助けて〜」
「訓練から帰って来たと思うたら、門兵なんぞに捕まりおって。ほれ」
先生は扉の外に立っていた門兵に身分証明をすると、その人は驚いたような顔でそのカードと先生を見比べて、ピシッと姿勢を正して敬礼をした。
「しっ、失礼いたしました! ティナ様のご関係者だとは」
ティナ様? いよいよ、この人が何者かわからなくなってきたな。
「へっへっへ。そんな大仰にいうことでもないぞ。が、こやつらはワタシのバカ弟子じゃ。もろうていくぞ」
そら、と手を握られて強引に連れ出された。
久々のデュアラル王国になんだか感動して、グイグイと手を引っ張って歩く先生に連れられ、坂を登っていく。
「で、どうじゃった。帰ってきたなら、雪山の長になったんじゃろう? ん?」
「無事になりましたよ」
「クソガキの方はどうじゃ? 課題は解決したかの?」
「今なら、オマエをボコボコにできそうだ」
「はっはっは! 上等上等! ならば、さっそくそうしてもらおうかのっ!」
ギルドの宿舎を通り過ぎ、向かう先はにあるのは……ギルド。
「ほれ、行くぞ。訓練で培った実力を見せてみろ」
ウッキウキの先生に連れて行かれ、ぼくとアンはギルドの訓練場で先生と戦うことになった。




