302 えっぐい成長速度
あの後もしばらくアンとエヴァーチェの戦いは続いていた。
段々と感覚を掴んでいき、付き合ってくれている側の損耗が激しくなったところでその日は打ち切られていた。
アンもまだまだ成長をしていっている。僕も負けじと頑張らなければ。
「えーと、とりあえずは魔素の違いが分かったから……」
白い魔素と黒い魔素の違いは結合数。結合数が多くなれば黒くなる。でも、人の体は黒い魔素が扱えれるような体ではない。
「……魔障って、魔素の通る回路が狭すぎることによって引き起こされる症状とか?」
だとしたら……回路の拡張を視野にいれていけば……共存も。
いや、『体を蝕む』だから回路とは別の問題がある。共存は無理か。
(でも、どのみち魔素の回路を広げておいて損はないだろう)
スゥと目を閉じて、最初に魔素を感じた。その後に感じるのはソレよりも更に細かい物質。
あった。虚霊質。……自分で名付けたのを言うってなんか照れるな。
これの結合数を多くするためには何が必要なんだ? まずどういう原理でくっついているんですか貴方は。水素と酸素で水〜みたいな感じかい?
悩んでても仕方がないので、魔素関係の勉強をした時に出てきた単語を思い出していくことに。すると、それに親しいのが。
(……練り上げる)
この抽象的なヤツ。結局、そこまでしっくりこなかった解説だ。
擂鉢に放り込んでゴマを潰す感じにやる……のとは違うから、えーと、乾燥機みたいな。……あれは回すだけか。
相変わらず分からんぞ。でも、人によって魔素の結合数が違うとすれば……やっぱり『練り上げ方』があるんだろうか。
……一旦、じゃあ、手短に──バラすか。
適当な白い魔素をバラしてみると簡単に分裂した。
じゃあ、ここからもう一回くっつけるためには……シンプルにくっつけてみるか。
ギュッと虚霊質同士をぶつけてみる。すると、くっついた。
(お。いけそう)
そのままくっつけていくとある程度の結合数になった。最初の結合数は超えたみたいだ。
でも、ある一定の数を行くと綻びが見えてきた。というかくっつかなくなった。これが限界か?
土団子ってこんな感じだったな。寄せて集めてペタペタと。近くに佳奈がいたら思い出話をしてるところだ。ぼくより佳奈のほうが作るのが上手いんだよ。
ある程度までくっつくと、くっつかなくなる。じゃあ、その土団子みたいな感じだと……一回、この状態で力を込めて圧縮、とか。
──ピコンっ。
「んっ?」
【魔素操作が虚霊質操作へと昇華しました】
「今更……」
ボードがお知らせしてくれたのを適当に受け取り、もう一度集中すると……あら不思議、さっきまでぎこちなかったのができるようになってきた。
(おぉ、久々にユニークスキルに感動してる)
ただの文字の変化じゃなくて、普通にレベルアップをしたみたい。
今まで数センチ単位でしか動かなかったのが、数ミリ単位で動かせれるようになったみたいな感じだ。細かく動かせれる。職人と名乗ってもよろしいか。調子乗りました。
(なら……一度、圧縮して……その周りに分解した虚霊質を移動させて……)
……うん、でかい塊ができた。
色は白っぽいけど、ちょっとくすんでる。やっぱり結合数が多くなれば黒色に近づいていくのか。
(一回できたってことは、さっきの感じを繰り返して覚えていけば……)
練り上げるってこういうことか。文字通りだった。意図して書かれていたのかはわからないけど「なんかこんな感じでやったら、魔法が強くなったぞ!」って流れなんだろう。魔法が強くなったのは魔素が理由だったってオチだな。
「ふぅ……」
集中を切って、新鮮な空気を食べるように取り入れた。
この感じに慣れていけば、魔法の威力や魔素の使い方をマスターできる気がする。
で、やがては素の状態の魔素が段々と結合数の高い魔素になっていって──それに慣れるために魔素が通る回路も広がっていく。
「よし」
小さくガッツポーズをした。地道なことだが、これを頑張れば強くなることができる。
「まさか、雪山に訓練しに来たら……こんなことに気付くなんて」
何事も基礎は大事か。魔導書の一番最初にかかれていたことだし、これ。
「じゃあ後は……こっちの魔導書を読んで、勉強をしておかないと」
勉強するのは召喚魔法についての内容だ。これを勉強しておかないと後々に響くと思う。収納袋から本を取り出して、膝の上に置いて、グググッと背を伸ばした。
「よぉ〜し……がんばろう〜っと」
ぼくの体が本調子になるまでの間で、あの魔法をなんとか習得してやるのだ!!
◇◇◇
「ママ〜!」
「おぉ〜よしよし。また大きくなったな〜」
日に日に成長をする渡黒鴉の子どもの抱き合ってワイワイと盛り上がってたら、渡黒鴉の視線がちくちくと痛い。
この子はまだぼくのことをママだと思っているのか。かわいいやつめ。
「もうダンカンおじちゃんくらいデカくなったなっ」
近くにいたダンカンに目をやり、見比べる。越してるくらい大きい。
産まれたばかりですよね? こんなに早いもんなんですか?
「ねっ、聞いて! 飛ぶのうまくなったんだよっ!」
「ほお。おばさんの教え方がいいんだろう」
「誰がおばさんだ」
「おばさんの教え方、うまいっ! 厳しいけど」
「言われてるよ、おばさん」
「ぐぬっ……」
それで飛ぶ姿を見せてもらうことになった。みんながワイワイと広場の至るところで遊んでいる中、スタンバイOK。
「見ててッ──」
バサッと翼をはためかせると轟音がりて、吹き飛ばされほどの風が襲いかかってきた。
「うぉ」と目を瞑って、目を開けた時には姿はもうそこにはなかった。
どこに、という疑問が浮かべどすぐに分かる。上だ。遥か上方に彼の姿はあった。
「たった一回の羽ばたきで……」
「すごいよ、あの子は」
このまま成長をしていけば、行く行くは『単眼の渡黒鴉』とでも呼ばれこの大陸に名前を広めるだろう。そんな期待をさせるほどの圧倒的な成長速度だ。見ているこっちがワクワクするほどのソレは、広場で作業をしていた他の皆の視線も釘付けにした。
「すごいでしょっ! ぼく、すごいでしょっ!!」
急速落下でぼくの横に降りてきた渡黒鴉の頭の方に手を伸ばすと頭を撫でやすいように下げてきた。
「すごいよ、さすがママの子どもだ」
ニコと笑って、隣でそれを聞いていた渡黒鴉にこそっと「あなたの、ね」と。
姿かたちを見ればすぐに分かる。この子もそのうち分かるだろう。ママはぼくではなく、そこのおばさんだと。でもそれまでの間のママ役くらいはならせてもらおうじゃないか。
「でも……こんなにすごいもんなの? 成長速度が尋常じゃないんだけど」
「こんなもんじゃないよ、普通は」
「えっ、もっと早いの?」
「逆。もっとゆっくりなんだよ。冬が終わる頃にようやっと狩りができるようになるくらいさ」
ちょっとまっておくれよ。
「その言い方だと、もう狩りができるって聞こえるんだけど」
「ああ。この前、東の方から流れてきた阿呆共がいると言っていたろう?」
確か、オーガの残党とか聞いてた気がする。でも誰かが倒したから直接話がぼくにまで上がってくることはなかった。
「それを食い殺したのはこの子だ」
「……やばーい」
ワクワクするほどの成長速度だと言っていたが、これはアレだな。ヤキモチをやくくらいの成長速度と言い返させてもらおう。
すごくない? なんでそんなにすごいんですか? 秘密はなんですか?
「さすが、おばさんが優秀なだけあるね。ねぇ?」
バシバシと翼を叩くと、翻して頭の上に翼を置かれた。
「やっぱり、気付いてないようだね、坊や」
「? なにが?」
渡黒鴉はクイと漆黒の手を動かして、子どもを目の前で紹介するような形で。
「この子は、あんたの従者になってんだよ」
「はっ?」
びっくりした顔のまま3秒くらいのときが止まった。
その間に、脳内はいろいろな情景をペラペラとあーでもない、こーでもないと捲っていく。でも思い当たることはなかった。
「従者ニナッテルッテ……ナンデ」
「知らないよ。坊やがしたんじゃないのかい? まさか誑かして……」
「チガウチガウチガウ!」
ギラと鉤爪を出してきたので、慌てて否定した。
でも、ほんっとにそんな記憶がない。エリルがしたんじゃないのか?
(エリル?)
(違います)
(じゃあぼくじゃん)
誑かしちゃったんですか、ぼく……。クリーンで生きていきたいんですが……。
「ちょっと、鑑定してもいい?」
おばさんに承諾を取り、鑑定をしてみた。
個体名:渡黒鴉──幼年個体/血与ノ契約先:クラディス・ヘイ・アルジェント
耐性:打撃攻撃大幅軽減、魔法攻撃大幅軽減、状態異常無効化、虚弱耐性、威圧耐性、寒冷無効
「あー…………しっかり、血を介しての契約をしてます」
「いつにやったかは覚えてるかい?」
そんなの……あれしかない。
「多分、あのー……右目を傷つけたヒトから護るために代わりに腹部を刺された時に、血液を浴びせた記憶はある……からその時かな」
目もあったのもその時だし。あの時に色々起こってたのか。
そして、ボードを閉じようとして──
「これ……え?」
下の方で目が止まった。




