301 転生者のこどもだからこそ
じわ、と口の中に血液が広がっていく。
「!? いっ──あるじっ!?」
「あ、やっはひ……」
──アンから魔素が急激に放出されたのが見えた。
「やっぱり……っていうのは、なにが……」
っぱ、とアンの指を口から離してちり紙で指を拭いて、口元から滴るアンの血液を拭う。噛んじゃってごめんよ。でも、これで分かった。
「アンはさ。傷が着いた瞬間、無意識で自己修復者を使用してるんだよ」
「え」先程ぼくに噛まれた跡が無くなっていることに気づく。「あ」
「簡単な切り傷とか、殴った後の体の微妙な違和感、反動によるなんか手首や関節とか痛めてたりするのを全部、自己修復者で治そうとしてるんじゃないかな?」
指を握って、そう言うとアンは言葉を失っていた。
「…………もしかして……それで、魔素が……なくなって?」
「だと思う。最初は身体強化を常時発動してるのかと思ってた。でも、ムロさんと戦ってた時、身体強化は切り替えて戦ってたのは見てるから違う。他に考えられるのはソレくらいかなって」
「……そうだったのかな」
「多分ね。自己修復者で常時回復してるなら、技の反動で体がどうなっても治すことができるじゃん。本来なら脳味噌がストップをかけるところでも、すぐ治す状態に慣れちゃってるから120%の出力で技をすることができる。断定はできないけど」
残機があるから、無理をして攻略をするみたいに。その体に慣れてるから、脳も適応している可能性も考えて。
「あとはアンは耐性がたくさんあるじゃん。痛みにも慣れてるから、頭では痛く感じないような小さな傷が付いてても、自己修復者は治そうとする。それで自分が思っている以上に魔素を消費してると思うんだ」
「たしかに……それなら、説明が……」といいかけて、ふと引っかかったような顔になった。「でも、そんなのどうして……」
本来、体っていうのはそういう風にはできてない。アンはそう言おうとしていたように感じた。
スキルっていうのは自分にとって有益なものがほとんど。それがこんな風にイタズラに魔素を消費するようなことにはならない。だけど、それも心当たりがある。
「……多分、転生者のせいじゃないかな?」
真面目な顔をしてそう言うと、アンは何を言ってるんだという顔に。
「冗談、ですか?」
「冗談だと思う?」
これはあくまで可能性の話。そうかもしれないという話だ。転生者がなんでも悪いんだ!! という陰謀論みたいなことを語る訳じゃない。
「体がスキルに追いついていないって先生は言ってた。本来なら、努力した分の結果が伴ってくるのが普通だ。強いスキルを持つ頃には、それに耐えうる体になってるみたいに。でも、転生者っていうヤツは転生時にスキルとか色々貰えるから、レベル1でも大技を持てるんだ。それこそ、体が追いついてないって状況になりやすい」
まぁ、ぼくは全部がユニークスキルだったから、そんな大技なんて無かったけど!! ガハハ。
はい、すみません。《最弱の転生者》が調子に乗ってすみません。
「でも、わたしは転生者ではなく、その子どもですよ?」
「余計に、だと思うよ」
詳しいことは分からないから、ほとんどが「かもしれない」の話だから申し訳ないけど。
「転生する時に、ある程度調整されるんだと思ってるんだ。体に不具合がないように……というか、いろんなスキルのかみ合わせが上手くいくように……みたいな? 大技は持つことができるけど、体にある程度はマッチした状態になっているんだと思う。そうじゃなきゃ、レベル1で大技を使って反動で消し飛ぶ人とかも出てくるだろうし。で、アンはその転生者のスキルとスキルが合わさった状態で生まれてきた」
ということはどうなると思う? とアンに聞くと、難しそうな顔をしていたので話を続けた。
「おそらくだけど……調整されないままになってる。要は、強いスキルと強いスキルが合わさって、絶妙に噛み合わせが悪い状態になってるんだと思う」
強い人と強い人をチームに引き入れると役割が若干被ってて力が発揮できなかったり、力は強いんだけど相性が最悪で成績が落ちたりする。
『強いのを集めたら最強のチームになるじゃん!』ってのは違くて、あくまで人間同士のかみ合わせがある。個性の強い色を混ぜたらいい色になるわけじゃないみたいに、バランスや相性が大事なのだ。
それはスキルにも言えること。その上、もしかすると転生者は調整されるけど、この世界の住人は調整がされない……ということになると、転生者の子どもは調整がされていない可能性がある。
「アンが両親からもらったスキルは?」
「『自己修復者』と無慈悲ナ一撃と『魔素改変』……だと思います」
魔素改変は分からないって言ってたな。ソレ以外の二つの話か。
「その強い一撃を放つことができる技と、自動で修復するスキルは一見すると相性がいいように見える。でも、今は強い一撃の衝撃を自動で修復しながら戦うっていう、自分が攻撃するたびに余計に魔素を消費しているような状態になってるのかも」
「無慈悲ナ一撃と自己修復者が……」
そりゃあそういう顔にもなる。
今まで自分を支えていたスキルが、実は足を引っ張っていた可能性があるとなると……なぁ。
「といっても! これは全部可能性の話っ! だから落ち込むことはやめて〜……それこそ、アン凹みモードに──」
ピリ、とアンの目が鋭くなった。睨んではないけど、すっごく嫌そう。
口よ。その言葉はもう使うな? 分かったか?
「だ、だから、体が元気になったらそこらへんを意識してもう一回戦ってみるっていうのはどう?」
「元気です」
「あ、いや。もうちょっと休憩してから」
「いえ、戦えます。元気です。次こそは倒します」
「あ、そう……? なら、うん」
そして、エヴァーチェが快く引き受けてくれて、再戦が行われることになった。
結果としては……この通り。
「……出力、間違えたっ……!!」
大木に魔法で拘束されているガス欠のアンの姿。
でも、前ほど悔しそうではない。むしろ嬉しそうだ。これは合ってたみたいかな?
「アン、どうだった〜?」
「あと何回かでつかめれそうです!! やはり……自己修復者が悪さをしてたみたいなので、あとはその調整ができたら!」
「じゃあ、そのあと何回を、付き合ってくださると助かります」
ふい、と視線をエヴァーチェの皆さんに向ける。
「は、はい」
負けたのに嬉しそうなアンと、勝ったのに疲れ切っているエヴァーチェ。なんだこの面白い空間は。
「10分くらい経ったらもう一戦だ!!」
「もうちょっと休ませて……」
「ダメだ! わたしに勝ってる奴が弱音を吐くな!」
これはスパルタ。今思うと、ティナ先生やナグモ先生もぼくらの訓練に付き合ってくれている時点で、かなりの体力のバケモノだよなぁ。
頑張れ、エヴァーチェ。ぼくの従者さんの訓練に付き合っておくれ。
これから地道に更新していきます。
また、新作を投稿しました!
偽りのレナータ。
(偽りのレナータ以降のタイトルはあらすじです。長文タイトルが苦手な方は申し訳有りません。ご容赦を……)
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