299 ぼくが第一発見者で、名付け親だ
鼻血に気付いて意識を取り戻した時にはずっと浮かんでいた。周りのみんなは見えていないみたいだから、ボクに向けてのものなのだろう。
「エリルにはコレ見えてる?」
「これ……? ん、うぇ……あ。えっ……いつの間にこんなものが」
「あ、見えるんだ。ずっと浮かんでたんだよコレ」
エリルには見えているよう。まぁ、ぼくと体を共有しているからそうか。
手を下に降ろすようにして目の前にまで降りてこさせ、そこに書かれている文字を見てみる。そこに書かれていたのは、
「おめでとうございます。魔素を構成する物質は、あなたが初めての発見者になっています……おぉ」
「えっと、システム上、名前がつけられていない要素だったため……あなたに名前を付ける権利を与えます」
そしてその下にかかれてあった内容を二人で読んだ。
「「この名前は鑑定や解析の際に表示される名前となります」」
二人で顔を見合わせて、変な息を吐き出した。
はあ? とも、はぁ、とも、はあー、とも取れる息。ため息にもたっくさんの種類があるんだね。ちなみにこれは「意味分からんけど、受け入れてやろう」って意味を込めたため息です。
「システム上で名前がつけられてないって、そんなのあるの?」
「いえ、聞いたことないです。けど……多分『白い魔素と黒い魔素の違いは結合数』とだけ考えておいたという感じで……そもそも、魔素操作が上位スキルですので、違いなんて見つかるわけもないと思っていたんじゃないですか……?」
「なるほど……この世界、もしかして欠陥だらけかな」
「完璧なのなんて神でも作れないですから」
「……そういえばエリルは観測者さんだったか」
「あら、お忘れでした? わたしだってちょっとお姉さんみたいな雰囲気出せるんですよ?」
髪を手で持ち上げて靡かせてみせてきた。けど、
「雪山をワンピース姿で歩き回るのはお姉さんじゃあないよ」
「んあっ……」
季節感を忘れていたのか、いつものモコモコした姿に衣装チェンジしていた。エリルは温度とか感じないんだろうか。まぁ、それはおいておいて。
「魔素とか、それこそヒソト草とか、ジヒル草っていうのは世界側が規定した名前でしょ?」
「になります。この世界の人が毎回新種を見つける度にこういう名前にしていたら、ちょっと面白い感じになるかもしれません。クラディス1、クラディス2とか」
「見つけられるのを世界が想定していなかった、か。そんなこともあるんだなぁ」
手を差し出し、ボードを掴んだ。
名前をつける……か。星を新しく見つけたら自分の名前をつけてる人とかいたよな。さすがに自分の名前は恥ずかしい。ので、それっぽい名前を考えてみよう。
「最小単位……あ、一応、現段階の最小単位か」
元の世界では、ナノとか、ピコとか。ミクロン……横文字もいいけど、その上が【魔素】だから漢字の方がいいかな。マナっていう人もいるけど。
そんなに深く考えなくていいか。
想定されていなかったもの。
とてもちいさく、見つけることが今までできなかったもの。
そして、物質。
「【虚霊質】で」
「きょれいしつ……ですか?」
「小さな単位の名前って言っても良いのがなかったから、小さそうなヤツから名前を拝借した」
単位とかは主に理数系の分野だと思うので、そちらの方で小さいのなんだろうと考え、虚数っていうのが昔から響きが好きだったので虚数の虚を。あとは幽霊の霊と物質の質。それをがっちゃんこした。
【読み名を決めてください】
「読み名かぁ……センスないって散々みんなに言われたから……」
じゃあ、それこそかの有名なあの人の名前を戴こう。
「『オイラー』で」
名前を入力すると、昇華するようにステータスボードが消えていった。
レオンハルト・オイラー。虚数を見つけたって言われてる人だ。
無かったものを見つけたってことで、青色のバラとか思いついたけど……コッチのほうがしっくりくるだろうさ。
──ピコンッ。
「ん。また……?」
【《魔素理解》が上限値に達したため、上位スキルへと昇華します】
「はっ……?」
「魔素理解って……普通に上位スキルなんですけど」
エリルがぼくの前にちょこんと座って、一緒にその流れを見守っている。すると、ボードにかかれていた文字がふっと消えて、新しい名前へとなっていた。
【《魔素理解》が《魔素掌握》へと進化しました】
「おぉ……掌握……」
──ピコンッ。
「え、また?」
【《魔素掌握》の名前がシステムから変更されました】
「おぉ〜?」
「変更された? っていうのは」
リアルタイムで世界樹がなにかしているのだろうか。
【《魔素掌握》が名前が変更され、《虚霊質理解》へと成りました】
「あ、これぼくのせいか」
煌びやかな装飾がされたボードを見ながら、他人事のようにして見つめてる。
すると、エリルはぼくの膝の上で腕を組んで、なにやらぶつぶつと。
「そういうことですか。はあ〜……なるほど」
世界樹になにやらアクセスしている様子を見せて、納得。
こちらを見上げてきたエリルは口元がウズウズとしている。
「もしかして……解説お願いしても良いんですか?」
その言葉を待ってましたと言わんばかりに表情が太陽くらい眩しくなった。
「解説ということならばお任せあれっ! いつもの服装にチェーンジ!」
くるくると回って、大学の教授のような恰好になったエリルはトトトと数歩先に歩いてこちらを向いた。ちょっと寒そうな格好ですね。
「え〜こほんっ! んっ。では、まず、そうですね。なにから話そっか」
「ゆっくりでいいぞ〜、エリル教授〜」
こういう反応をすると、嬉しそうにするのは分かってる。なんだかんだ付き合い長いし。
「では、えーと、もとより魔素理解の上位スキルとして魔素掌握があったじゃないですか」
「うんうん」
「その魔素掌握っていうのは、この世界の最上位スキルの内の一つだったんです。掌握という名前を冠するスキルは、その全てを意のままにできるということですので」
「理解よりも掌握の方が、なんかこう……制圧って感じあるもんね。自分のものにしたって感じで」
そこらへんは納得。
「それで本来であれば魔素掌握で打ち止めになるハズだったのが……ますたーが虚霊質なるものを見つけてしまったが故に、システムが書き換えを行ったと考えるのがいいでしょう」
「ふむ。となると……間に、虚霊質理解が挟み込まれたって感じ?」
イメージ的には魔素理解<虚霊質理解<魔素掌握かな?
「いえっ、それは違うかと。魔素をいくら意のままにできたとしても、その最小単位に気付かなければ【白い魔素】を扱うだけになるので」
「? じゃあ……この虚霊質理解っていうのは」
「はい。魔素掌握よりも上位スキル……本来想定されていた最上位スキルの更に上のスキルとなっています」
ということは、並び順は……魔素理解<魔素掌握<虚霊質理解……いや、魔素掌握が変わったって言ってたから……純粋な魔素掌握が虚霊質理解にグレードアップしたと見ていいのか。
「…………それって、すごいことなんじゃ……?」
「すごいことですよっ!! だから、こうやって紹介してるんじゃないですか!!」
なんか一気に頭が痛くなってきた……。
「まぁ、よかった。うん……鼻血が出るまで頑張ったおかげか」
こんなすごいことになるとは思ってもみなかった。けど、受け入れよう。自分が頑張ったおかげだ。そもそも、白い魔素と黒い魔素というのすら皆は見えないんだから。
そこに疑問を持って、理解しようとした結果のこれだ。うんうん。
「……」
なーんか、複雑な気持ち。
純粋にすごいことをしたんだけど、なんか、急にこういうのは特別扱いされてるみたいで嫌だ。努力したおかげなんだけどさ? なんか100%で返ってきてほしいところを1000%で返ってきたみたいな感じだ。
なんで嫌なんだろう。
「ようやく、転生者らしくなってきましたね」
あ、しっくりきた。それだ。この感情の正体はソレです。
「はあー……ぼくも馬鹿な先輩達に近づいていっているのか。そんなセリフ言われたくなかったなぁ」
転生者なのには変わりないけどさ?
その後もエリルがニヒヒと笑いながら「やーいやーい転生者」と言ってきたので、突っかかった。
すると、ぼくらの背後で歓声が上がっていた。どうやら手合わせが終わっていたらしい。
「お、そういえばどっちが勝って……」
ぼくは目を見張った。
エヴァーチェ側の何名かは負傷をしているようだが、それでも……戦闘不能という段階ではない。
「くっ……」
「ふぅ、危なかった」
ユットロールは額にかいていた汗を拭う。
そして、組み伏せられているアンの横に剣が突き刺さっていた。
「アンが負けた……?」
目の前に広がる光景は、そう捉えるしかほかなかった。




