297 おや、瞳の色が
細い通路をデカイ何かが強引に出ていくような感覚。
それをぼくはいろいろな箇所で感じた。これは……只人の本来備わっている魔素のための通路では、この黒い魔素が通り抜けることが難しかったために起こったことだ。
そして、黒い魔素が溢れ出た時には──向こう側が視えなかった。
ふわと白い魔素を出してみる。少し薄いために、向こう側でこちらを見てオロオロしているモンドの顔が見える。
「白色が結合数が少なくて……黒色が結合数が多い。ある一定の結合数になれば、黒色に変色するのか……?」
ならば、何が結合しているんだ?
「魔素は最小単位じゃない……なら」
意識を集中しろ。
魔素理解をフルで使え。
ソレ以外の感覚は削ぎ落とせ。
水の中に落ちるように、意識を沈めろ。
体中に流れている魔素を……もっと、もっと──……。
「あるじっ! 鼻血が……」
まだ。足りない。もっと……深く、深く……集中しろ。
風の音、人の声、全てをシャットアウトしろ。ノイズだ。
腹の底。
丹田辺りにある人間にある魔素の発生組織を理解しろ。
深く……細かく……もやもやとした──
「あるじ!! あるじ!!」
「ご主人さま!?」
────────これか。
「視えた」
魔素を組織しているのは、肉眼では到底見えない極小の塊。
全組織を集中させてようやく感知することができた。
だったら、これをもっと結合させるためには──魔素操作じゃ足りない。もっと、緻密な操作能力が必要だ。もっと──……
ボドッ。
「ぬぁ……?」
急に膝の上に温かいのを感じた。
意識が一気に戻されて、見ると……あり得ないほどの出血量で。
「誰か、ケガを……?」
周りを見てみると、全員がいた。
でも、誰もケガをしていない。自分の鼻に手を当てて……見てみると。
「あ、ぼくの血か……なんだ……よかったぁ」
「「「よくないです!!」」」
その場にいる全員にそう言われ、思わずのけぞった。
「どれだけ心配させたら気が済むんですかっ! わざとやってます!?」
アンがぼくの血を拭きながら見上げてきた。
「旦那は自分の体を何だと思ってるんだ!? なによりも大事にしてもらにゃ困る!!」
ダンカンが腕を組みながら鼻を鳴らしていた。
「ご主人さまに着いていくと決めた身ではありますが、心臓がいくつあっても足りませんな」
モンドが呆れながら、頬をペロと舐めてきた。
「あんたが死ねばオレたちも死ぬって言っただろう! 焦ったぞ」
ユットロールさんがエヴァーチェの皆の意見を代表してそう言った。
「坊やは本当に阿呆だな。加減も分からんとは」
「ママ、だいじょうぶ……?」
渡黒鴉と子どもはぼくの真上から顔を覗き込んできた。
そんなみんなの顔をみて、ぼくは、
「ぷっ……あはははははははははっ!」
笑った。
こみ上げてきたソレを我慢できなかったのだ。
「何笑ってんですか!? みんな心配してるんですよ!?」
「いやっ……そうだよね。ごめん……でも、なんか笑えてきちゃって……」
目尻に浮かんだ涙を拭いて、あー、ごめん、とまた謝って。
「この前までさ、こんな風になるって思ってなくて。想像もしてなくて」
周りにいる皆の顔を見上げた。
「ゴブリンのロードに、ウルフの王様。そして、渡黒鴉とその子ども。他のモンスターのみんなと。転生者だと知っていてもなんだかんだ心配してくれる、ぼくよりも強い人達。そして、アン。そんなみんなに……こうやって心配されるなんてさ」
みんなが頬を掻いたり、頭の後ろに手を組んでたりしてる真ん中で、ちょこんと座ったまま。
「嬉しい! ありがとう! でもごめん! 強くなりたいから無茶はします!」
その言葉を聞くと、みんなは呆れたようにため息をついて、朗笑をした。
そう笑ってくれたのだ!
「じゃあ、もうちょっと無茶するから! ほら、散った散った! 各自、やるべきことがあるでしょう!」
手をバサバサと動かして皆をどっかにいかしてまた集中しようとして、何かに気付いたようなアンが戻ってきた。
「あるじ、少し……」
「どうしたのさ、お説教は聞かないよ?」
「わたしはいつの間にか、あるじのストッパーになってますね」
「助かってます。それで?」
「いえ……気の所為かもしれないのですが……さきほど、苦しむ前と今で……」
顔を覗き込んできたアンの息が触れる。
んー、と肩に手をおいて、首を傾げ、下から、上から見て。座り直して、うん、と頷いた。
「なに? また身長伸びてた?」
「いえ、今度は瞳の色が若干変わっているような気がします」
「へ?」
「黒色の方の目が、ちょっと明るくなったというか……光沢があるというか……なんていうんでしょう」
鏡なんてないから、反射で見えるように水の魔法を簡単に出した。
ふよふよと目の前に浮かぶ水をまっすぐに正して、目の下をグイと引っ張ってみる
「あ…………ほんとだ」
「ですよね……」
これは……白っぽくなったっていうのか……?
黒色が剣闘士、青が治癒士、赤が魔導士。だから白っぽくなるってのは、そのどれにも適正がない状態って聞いた気がする。
えっ、黒い魔素をしたことでなんか能力が衰えたんですか?
「ちょっと失礼しますよっと──」
エリルが聞いていたのか、ぽわ、と出現して、さっきのアンのように覗き込んできた。
そして、表情が少し固まって、言いづらそうに顎を引いた。
「ますたー……それ、白じゃなくて金色です」
「これ……金色?」
「金色? ってことは……何になるんでしょうか」
アンが首を傾げていると、エリルはまた言いづらそうにしていた。
(エリル。言いづらいことなの?)
「……金色。ご存じないです? 勉強会にも、ちょっとだけ出てきてましたよ。瞳の話は分かってるから〜って省略されてましたけど」
えぇ? そんなのあったっけ。金色でしょ?
いくら頭を捻れど出てこないので、音を上げるとエリルは
「金色は、魔族の瞳です」
と言った。




