294 宴だ〜!!
「今日は宴をすると聞いたから、オークの肉を解体してきたのだが」
「誰に聞いたんです?」
「? アイリスさんじゃないですか」
えーーー? ぼく〜……?
というか、なんか言葉遣い丁寧になってるし。なにが起きたのかわからないけど、顔つきも優しくなってるし。
(……エリルさん?)
(はいっ! おはようございます! ますたー!)
うわっ、眩しい。姿が見えないけどエリルが眩しく感じる。
なんかすごく嬉しそうで、肌もつやつやしてる気がする。何をしたんですかね、この子は。
(エヴァーチェを仲間にしたのは……エリルの指導の元?)
(そうですよ! 知らないなら教えてやろうと思いまして。ご安心を。私はますたーのお体で殺しはしてませんっ)
(……あの目を傷つけた人は)
(あの人は渡黒鴉さんがどうしてもと言っていたので)
あー……だからいないと思ったんだ。
そりゃあ、そうなるよな。で、他の人は子どもに手を出していないからぼくのお気持ちを優先してくれたって感じか。
まてよ。仲間……ってことは。
(主従契約した……?)
(はい! 今回ばかりは心は許してもらうのは厳しそうだったので、手荒にしましたよ)
(手荒に……)
手とか押さえつけて、強引に魔素を与えたってことか……?
ユットロールさんたちを見た。首を傾げている。そんな感じはない。
(血液を介しての契約です。この契約方法は主に、吸血鬼が使っていた方法で)
(血液を)
(はいっ! メリットは主人側から契約を消すことが可能で、血を介してるので殺そうと思えばすぐに殺すことが──)
(エリル……なんか、怒ってる?)
え、無言の時間こわいけど。
おーい、エリルさん? こわいって。
(………そりゃあ、怒りますよね。あれだけ毎日頑張ってるますたーの言葉を聞かず、一方的に攻撃を仕掛けてきたんですから)
どす黒い感情がエリルから感じた。おっと、これ以上は踏み込んではいけないか。
いつもぼくの姿を見てくれているエリルだからこそ、ぼくの代わりに怒ってくれた。有り難いけど……そんな契約をしたなんて。
「それ以上近づくな」
ふ、と意識を戻すと、アンがぼくを支えていない方の手に拳殻を召喚していた。
「わたしは貴様らを許している訳ではない。本当ならば全員を今すぐに殺してやりたいくらいだ。──自分たちの愚かな行動を反省するために生かしていることを忘れるな。貴様らは仲間などではない」
いつもぼくの姿を見てくれていたのは、もう一人いたか。
それにまたアンの留守の間にあったことだ。……横顔だけでお腹が一杯になるほどの怒り顔だ。
逆にモンドやダンカンはモンスターだから、怒りの感情は伝わるけど、弱肉強食の世界で生きてきたが故の態度というか。契約を受け入れた時点で、ぼくの従者という横並びの組織に加わった者として見ているのだろう。
(こりゃあ……ぼくが怒る必要はないか)
真上を見上げ、ふぅ、と息を吐いて吸った。
怒る人ばかりじゃあ馴染めないだろう。
「じゃあ、宴の準備でもします? この感じだとぼくが転生者って話も伝わってるんだろうし」
エヴァーチェの皆の顔が強張った。
聞いてるな。うん。ならいいや。
「ユットロールさん、血盟の中に治癒士さんはいます?」
「いるにはいるが……」
「料理を振る舞いたいので、傷を治してほしいんです」
「あるじっ!? いま起きたばかりのお体で……」
「秘密を共有したなら、エヴァーチェの皆さんも自分たちが置かれている場所が分かってるんだと思う。契約のことも知ってるだろうし」
否定の声は聞こえてこない。なら、なおさらだ。
「転生者だと知っていながらこうやって話ができてるだけで……この人達はすごいし、尊敬ができる」
いくらかは恐怖という感情もあるだろうけど、まぁ、いいじゃないか。
ぼくも魔族に掴まって、強引に契約されたらビビり散らかすと思うし。
「だから、この中で料理ができる人とか、調理器具とか持ってる人います? ダンジョンに潜ってたなら持ってそうだけど」
「はい」「……できるけど」「できる」
エヴァーチェの中で手が上がった。副団長と重戦士の女性。それと魔法使いの男性だ。
「なら、四人で料理をしましょう。こっちは急に雪山に放り出されて訓練してたから、ずっと魚と木の実の生活で、久々に文化的な食事をしたいと思ってたんです。あと……せっかくなんで、前の世界の料理を振る舞いますよ」
とりあえずは治療をしてもらおうかな。ほんと、体中が痛いんだ。
◇◇◇
「…………傷が治らないです」
「ええー?」
治癒士の人に治してもらおうとして、なんか治らないと言われた。
アンの視線が怖いのはそうだけど、もしかして、あれなのでは?
「魔障が原因……?」
「……だと思います」
丸メガネの女性治癒士はそう呟いた。
「魔障が原因で体全体が治癒魔法を拒むようになっています。モンスターのように完全な反発ではなく、効きが弱いといいますか……わたしの魔素ではなんとも……」
「そういうことなら仕方ないか」
体がモンスターの力を受け入れたことにより、他者からの治癒魔法を拒むようになった。ということは、自分の体を治癒できるのは……自分の魔法だけか。これはゆっくり作業になるなぁ〜……はあ。
そういうことだから、エヴァーチェで料理が作れる人に頑張ってもらって料理をすることに。頑張れ〜、応援してるぞ〜。
モンスター達に見られながらその作業だから気が気じゃないだろうけど、それくらいは勘弁してもらおう。
で、転生前の料理はぼくが横から口を出しながら料理をしてもらった。
あるものでしかできないから、そんないいモノはできないけど、味付けはどうにかこうにか似せれるだろう。
魔法使いの男性がたくさんの調味料を持ち歩いてた、同士か。異世界の調味料もあらかた試してみたけど、見たことがないのもあった。助かります。
色々と掛け合わせながら、お祭りにも合いそうな料理をチョイス。
出来上がったのは焼き鳥。卵焼き。そして、オークのお肉を半熟のゆで卵に巻いて食べるというなんともまぁ、贅沢なお味なやつ。
今のぼくの胃袋にはきついものばかりだけどね。
あとは、こっちの世界の料理を適当に作ってもらった。人の料理とか食べるの久々だ。
すっかり周りも暗くなってきたところで、エリルが開催したがっていた宴が始まった。
お酒なんてものはないし、雰囲気は未だにピリピリとしたものはあるが、それでも始まったものは始まったのだ。
「これ、美味しいですな」
「でしょ〜」
エヴァーチェの人が食べたのは卵を豚肉で巻いたの。
こういうのは男性が好む傾向がある。ガツンッとくるし、味付けもぼくが持ち歩いてるタレだから元の世界のお気に入りのタレに寄せたもの。だから美味しいに決まっているのだ。
ぼくの体をエリルに使ってもらっている間に、何があったのかは知らない。けど、エヴァーチェの人たちの反応を見るとそこまでヒドイことはしていないんだろうと思う。
こうして話しかけても普通に応じてくれるし。モンドとダンカンとか、十六達に肩を組まれてビビってるけど……。
みんなは言葉が通じないから、何を言ってるかは分からないんだろう。そう思うと、この光景は結構な貴重なのでは。
「……よいしょ」
ぼくは根っこ部分にこしかけて、それらの楽しそうな声を聞きながら白湯をごくり。
鍋があると、水を火にかけられるからいいですね。今度からは常に持ち歩くようにしよう。いつ、雪山に放り込まれるか分からないし。
「アイリス。ちょっといいか?」
「ん?」
喧騒から抜け出してきたユットロールさんが、横に座ろうとして、やっぱりしっくりこないのか、ぼくの体を抱えた。
「うぉ」
そう、お姫様だっこである。
血管の走ってる前腕に抱えられたらこんな気分になるのか。悪くない。
でも、なにを話すんだろう。




