289 アイリスVS昇華スル者
血盟順位八位『エヴァーチェ』。
彼らの強みは連携力だとギルドの職員から聞いたことがある。
実際、武器を交えて分かったこともある。
聞いていたのは「団長の『ユットロール』の放つ魔法攻撃と物理攻撃の波状攻撃は『魔法剣士』を彷彿とさせるもの」だと。
が、そのバランスは物理攻撃が多く、魔法攻撃はそこまで多くないと分かった。身体能力を活かしたぶん回しのちょっとした間を潰すために放たれる程度だ。
先陣を切る彼の補佐となるのが副団長の『エマ』。金髪の魔法使い。
弧を描いて敵に放つ魔法は『ユットロール』に当たらず、敵の意識を反らす役割を持つ。だが、十分に有効打となりえる火力だ。
その『ユットロール』を避けて『エマ』を攻撃をしようとしても、重戦士達が『エマ』とその他の魔法部隊の盾となり、近づくことは至難の業だ。
普段なら重戦士の人たちも攻撃に加わるのだろうが、今回ばかりは敵が僕一人だけ。だから、防御に専念しているという状態なのだろう。
「そんなものか、転生者の力というのは──ッ!」
「ぼくをあんな奴らと一緒にしないでください……! 話を聞いてくださいよ! ぼくの話を──」
「聞いたさ! が、結果がコレだろう!!」
武器を交えたら腕が持っていかれ、あの腕に掴まれたら『死』のイメージが湧いてくる。
そして、硬直状態に陥るとエマの攻撃が頭上や真横から降り注いでくる。
鎧を蹴り飛ばし、ふわ、と浮かぶと他の魔導士部隊の攻撃がグンッと眼前に伸びてくる。
「ぐっ……!!」
小刀で打ち消すと地面で地響きが鳴り、大砲のような身体が目前に迫っていた。
「──っ!!」
捻られた身体のエネルギーから放たれた大振りはぼくの横腹を捉え、軽々と大木まで飛ばした。
受け身なんて取れるような速度じゃない──呼吸がっ……できない。ぶつかった衝撃で脳味噌が揺れる。
「ぐぅ、あ、ふっ……はぁっ!!」
喉が締め付けられているかのように息苦しい。
頭も痛い。
ぼくの攻撃は届かないのに、相手の攻撃はぼくを捉えてくる。
「くそっ──」
ブンッ。
「って」
再び、目の前に飛び上がっていたのは──武器を大きく振りかぶっている『ユットロール』で。
「ぐっ──!?」
武器が皮膚に触れる寸前に打ち付けられていた大木に『衝撃』を放ち、その軌道からズレた。
──ガガガガガガガガガガッ。
鬼火を宿した彼の剣はモンスター達がどれだけ攻撃しても傷をつけられなかった大木に切開をしたような傷跡をつけた。あれがぼくに向かって振られた威力なのだ。
殺す気で振る剣というのはまさに命を刈り取る凶器だ。
「なんでっ、話を聞いてくれないんだ……!」
間髪入れずに放たれた魔法を撃ち落とし、軌道をずらし、地上に足を付けてバックステップを踏んだ。息を整え、叫んだ。もう、ぼくの力だけでは彼らと戦うことなんて不可能だ。
「エリルッ!!」
【クラディス・ヘイ・アルジェントの権限を譲渡しました】
声掛けなんて要らない。彼女を頼らない訳にはいかない。手加減なんて必要ない。
「『轟くと良い、亜人の私が許可しよう。蜘蛛の様に周到に。聖母の様に泰然に。煽って、散し、雲を割って落とせ薄れ消え行くことは無し』──」
飛んできた魔法攻撃を皮一枚で避けながら、エリルは迫ってきていたユットロールに目掛けて魔法を放つ。
「『嵐龍ノ鉤爪』!」
「!??」
ぶわ、と一瞬にして空間に展開された魔法陣から発せられた爪のような形の魔法に、ユットロールは踏み込んでいた足を軸にして、振りかぶった。
「これなら、すこしは──」
そんな淡い期待は、一振りで消え去った。
「魔族の使う技か。……面妖な」
合計五つ展開されていた嵐龍ノ鉤爪は────ユットロールの攻撃で全て相殺された。あれだけモンスター相手に猛威を振るっていた魔法が……たった、一回の攻撃で。
「やはり、魔族と通じているというのは本当らしいな。屑め」
(エリル! 変われ!)
【クラディス・ヘイ・アルジェントの権限が返還されました】
「くっそが……!」
ダッと駆け出したのを見て、急いで身体を戻して武器を構えると──上から魔法攻撃が降り注いできた。
「っ……!」
無視ができない程度の威力で、質ではなく量を重視した攻撃。武器を使わなければ叩き落とすことはできない。
そうしている間に、ユットロールが瞬く間に地面の上を滑るように移動して、近接戦闘に持ち込まれる。
だが、近接戦で戦うのは不味い。
「【多重鉄壁】……!」
「ぬっ!」
距離を取ろうと展開した鉄の壁を、彼は避けるために高く飛び上がった。そして、その周りに浮かぶ、魔法部隊が援護目的で放った無数の槍。
「──衝撃」
ユットロールが後方に向けて発動した無属性魔法──【衝撃】により、彼の身体は弾丸のように鋭く空を裂いた。
「!!」
本能で感じた。この攻撃は受けることはできない、と。
「……【鉄壁】ッ!」
足元に後ろ方向へ出した鉄の壁で身体を持ち上げ、そのまま飛び退いた。刹那──鉄の壁もろとも、大地が割れる音が響き渡る。
「〜ッ!! 威力が……」
足元で地震が起きたのかのような揺れが届き、身体を風よで浮かして硬直から逃れようとすると──
「来るとは思ってたよ、ほんと……!!」
ユットロールが前線にいるから魔法の攻撃は抑えられていた。
だが、彼に当たる心配がないとなると、加減のない魔法が飛んでくるに決まっている。
左右、そして上。それらの空間全てに槍や火の玉が浮かび、その最奥では副団長であるエマが指を銃のように構えていて《力のある言葉》を放とうとしていた。
「《雷よ》ッ」
「『火穹窿』!」
全力の『火穹窿』で空中の魔法攻撃を打ち消そうとして……。自分の魔導士としての実力を思い知った。
消せれたのはほんの少しだけ。そして真っ直ぐに伸びてくる雷よ。
「《雷よ》──【多重水壁】ッ!」
他の魔導士の魔法は水壁で打ち消すのに成功した……が、雷に水は効果は薄い。そして、真正面から同じ《力のある言葉》をぶつけたが出力が段違い。放った雷が二つに裂けていくのが見えた。
「副団長と力比べは無理か……!」
勢いをなんとか殺し、身を翻して避けたのだが、遥か後方にあった森林地帯が焼ける音がここまで聞こえてきた。
隙がない──攻撃回数が多すぎる……!
モンスターの連携なんて比じゃない。
距離を取れば魔法で足止め。距離を詰めようものならユットロールの攻撃が飛んでくる。
魔法部隊の攻撃ならまだなんとかなる。でも、アイツの攻撃は……もう一回食らうと無理かもしれない。
「よく逃げる。戦いには慣れてるようだが手が出ないか。……いや、違うな。別に意識を引っ張られてるのが原因か?」
彼がチラと視線をやった先には、ぼくが常に風よで運んでいる渡黒鴉の赤子がいた。
白い魔素を常に繋ぎっぱなしで、魔法攻撃や物理攻撃に当たらないように場所を移動させ続けているのだ。
時々、魔法部隊の攻撃が来てるからな……。自分の体の心配だけでは足らない。
「それほどに大事か。その赤子が」
「はあ……は……っ、そりゃあ、そうだろ……。殺される謂れなんてないんだから……っ」
「ふむ。いいヤツかもしれない、という話か」
つ、と口の横から血が垂れてた。さっきの横腹のがキテるな……。
息を整えながら、自分の首が落ちるのを必死に堪えながら渡黒鴉の子を遠い場所に運んでいく。
視界もぐらついてきた。並行処理をこなしてる頭もそろそろきつくなってきた。
「……ふっ……はあ……っ」
たった数分の戦闘で体力が持っていかれすぎた。
「そのいいヤツってのは……転生者からしていいヤツって意味なんだろ?」
「…………?」
「お前らにとって都合のいい奴を、そう言ってるだけなんだろう?」
姿勢を崩しながら血が滲んだツバを吐き出し、口を拭って。
聞き間違いかと思って、顔を歪めた。




