↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

303/550

286 子どもが産まれました!!


 ダンジョン上の広場からゆっくりと南下していた男たちは、飲んでいた息を勢いよく吐き出した。


「はあ〜……」


 感じたことのない緊張感があの人物から感じた。


(あの存在感は魔族なのか……? いや、でも……)


 手に握っていた数本の【ジヒル草】を乱雑に肩掛け鞄に突っ込み、また大きな息を吐き捨てた。

 

「それでも、団長。名演技でしたね」


 一人の男が横にそれながら先頭の男に笑い、話しかけた。

 それに同意をするように笑い声が広がっていく。緊張と緩和によって、彼らは普段よりも饒舌になっていた。

 大きな山を超えた後に気が大きくなった気がするのと同じだ。今の彼らは、苦難を一つ乗り越えたと同じ。


「アイツの手を見て、咄嗟に思いついたんだよ」


 団長と呼ばれていた男は、右手をひらひらとさせて笑った。


「ありゃあ、魔障だ」


「あ、姉さんも言ってた奴。魔障ってなんなんですかい?」


 男は魔法使いの女性を一瞥し、団長に向き直った。


「魔障っつーのは、強いモンスターとか、魔族の放つ強い魔素を耐性のないヤツが受けた時に魔素が身体を蝕むことを言うんだ」


「じゃあアイツは……魔族とかじゃなく、人?」


「だろう。……そうだとは思う。それも、レベル差も知らねぇまま敵の魔族に突っ込んでいくような世間知らずだ」


 だが、そうなるとあの存在感の説明が付かない。


「はぁ……魔族か何かかと思ってたんですが」


「どうせデストロイの領土にちょっかいを出しに行って、逃げ帰ってきたとかだろ。……それでも、あの気配の奴がそんなヘマをするとは思えんから……」


 男は顎に手をやって、可能性を考え……笑みを浮かべた。


「……まぁ、いいか。どのみちアイツは魔障が身体に回っていき、死ぬ。この草の使い方もしらねぇみたいだしな!」


 鞄を上からパシパシとたたき、大きく笑った。


「でも、団長。いいの? アレ、放置しておいて」


「あァ? 誰が放置するって言ったよ。ありゃ放っておいても死ぬが、危険なのには変わりない。モンスターと一緒にいたしな。で、この草がダンジョン上に咲いたってことは……」


 その男の意図を組むと、後ろの者たちも頷いて口元に笑みを浮かべた。

 この草がレアだと言われている理由は、成長が早いというのと、もう一つあるのだ。それをクラディスは知らない。


 ジヒル草が希少だと言われる理由は、上位ダンジョンがクリアされた時にしか咲かない薬草だからだ。

 膨大な魔素が晴れることにより、地上にもその波が届く。押し出されるように魔素が木々や草花に魔素を届け──そして、このジヒル草が出現する。


 つまり、このジヒル草を逃せば、次のタイミングは次に上位ダンジョンがクリアされた時になる。その時まで魔障を患った者が生きておける訳もない。


「あとはそうだな。もしものことがあったら、いけねぇからギルドに連絡を入れておこう」


「なんて報告を入れておくんですかい?」


 ニヤニヤとした顔で団員に聞かれると、団長は通信魔導具を光らせた。


「そんなの分かりきったことだろ?」


 そして、引きつるほど口角を歪めて。


「敵がいました。討伐してください、ってな」




      ◇◇◇




「ぴーっ! ぴーっ!」


「えっ、やばいやばい。どうしよう。かわいい。かわいいんだけど。ちっちゃいんだけど!」


 ペリペリって言ってたのは、卵だった!!!

 卵ってこんな感じに割れるんだ! と思っていたら、中からちっちゃい鳥が!!!!

 うわあああああああああああああああああ!! かわいいいいいいーーーー!!!!! どうしよーーー!


「なに、母乳とか。離乳食、えっと、えっと。佳奈が産まれた時に何してたっけ」


 もう何十年前の話だって覚えてない!! おっぱいをあげるんだっけ! いや、ぼく母乳でないし、いや、それよりも先に……えーと、えーと!!

 顎に手をやって、周りをくるくるくるくると周り、ポンッと手を打った。


「産湯だ!──」


「先に飯を食わせるのだ!!」


「ええっ!?!? うっそだ!!」


 渡黒鴉《レイヴン》がバサバサと翼をはためかせて叫んだ。となりのモンドも頷いてる。


「いいの、ってか食えるの……? だって、ほら、まだ赤子も赤子だし」


「それが普通ですよ」


「それが普通なんだ……」


 本当にそれが普通なんですか? 

 とっておきのあの人に聞くか。てれれれってれー、エリル先生〜。


(解説をお願いします)


(……む、い……ふああ、あ……ぇ、う? え?)


(寝てたね)


(そりゃあ寝ますよぉ……で、解説、ですか?)


(うん。赤子から固形物食ってもいいの?)


(モンスターですから。のびのびと成長してる間に食べられちゃいますので成長が早いです。成体になるのも早いですよ?)


(言われてみればそっか。あっちの動物と同じじゃあないか)


 向こうの常識をこっちに当てはめようとするのは悪い癖だ。 

 ってことは……この状態の渡黒鴉《レイヴン》とかレア中のレアなのでは……?

 かわいい。動物の子どもって可愛いよな。写真とか撮れないですか? 動画でもいいんですが……。


「じゃあ、ご飯でも食べに行く? どうする?」


 振り向きながら入り口でジロジロと見ている二人に問いかけた。

 

「問題はソレなのだ。冬の間の食料確保が難しい」


「だろうねー……」


 冬の間に子どもを産むからですよ、渡黒鴉《レイヴン》さん。理由は重々承知しておりますけども。

 動物を食うっていっても、冬の間に動物もなぁ。となるとモンスターか。


「肉って言っても、どんな肉食うの?」


「なんでも」


「なんでもか。そう言われると困るんだ」


「とりあえず、取ってくる。ウルフ。オマエも取ってこい」


「私もですか……?」嫌そうな顔をして渡黒鴉《レイヴン》を見た。


「鼻が効くだろう。それに、坊やよりも足が早い」


「ご主人の命令しか聞きたくないのですが」


「なら、坊やから命令しろ」


 渡黒鴉《レイヴン》さん顔がこわい。というか、平然と協力を扇いでくるじゃん。

 いや、心許してくれてるんだなぁ〜と感じれて嬉しいけどさ。ぼくら、あなたの傷が治ったら戦うんですよ?

 ……そんなことをうだうだ言っても仕方ないけど。


「なら、モンドも協力してあげて。というか、オークとかオーガの肉なら食べられるんじゃないの? みんなが今戦ってるだろうし、それを取ってきたら?」


「! それだ」


「なら、子育て協力っていうよりも、みんなに加勢するって感じで行けるからいいんじゃない?」


 モンドが嫌そうな顔をして喉を鳴らした。行きたくないんだろうなぁ。

 結局、渡黒鴉《レイヴン》に囃し立てられて、連れて行かれていた。

 泣きそうな顔をしながら「すぐに帰ってきますので!!」って。かわいいなぁ。


「ぴーっ! ぴっ!」


「おー、よしよし。飯はいま、ママとモンドおじちゃんが取りに行ってくれてるからねぇ〜」


 渡黒鴉《レイヴン》からは卵に近づくなって言われてるけど、ちょっとくらいならいいだろう。

 子育て協力してんだからいいだろうってスタンスでいよう。でも腹が空いてるだろうし、何かいいのないかな。


「……お、これとかどうだ」


 ゴブリンとウルフの皆が取ってきてくれてた自分たちが食べる用の木の実。たっくさん取ってきてるし、足が早い物ではないから行けるだろう。でも、一応。


「先生〜、これ、子どもでもいけるかなぁ」


(お肉を食べる赤子ですから、なんでもいけますよ。手だけ噛みちぎられないように!)


「そんなに強いのか。……まさか、転生したばかりのときのぼくより強いとか」


(まさかのまさかでしょうね。赤子といえども、渡黒鴉《レイヴン》ですので。そりゃあもう強いですよ。襲ってこないし、目がまだ開いてないですし、身体の使い方もまだ分かってないだけで、力は強いです)


 さすが異世界。さすが渡黒鴉《レイヴン》の子。成長性◎だ。


「となると……人間の赤ちゃんがどれだけ成長が遅いかよく分かるな」


 人間の赤ちゃんは狭い産道を通るために、未熟な状態で産まれざるを得ないと聞いたことがある。脳を守る骨なんてふにゃふにゃらしいし……外敵がいないからこその進化なんだろうけど。

 過酷な環境で産まれる子どもは、大変だ。サバンナで産まれる動物とかはすぐに歩けれるようになるとか、風のうわさで聞いたことがある。

 子供の時から環境への適応を強いられる。うん、自然は厳しい。


「ほれ、くいなさい。くえくえ。産まれたばっかりだからいっぱい甘やかせたる」


 遠いところで口を開けて泣く子どもに餌を放り込む。


「ぴーっ、ぴーっ!」


「ふふ」


 雑だけどまだ会話もできないから、警戒をしつつだ。

 赤子に警戒する転生者って字面は面白いけど、本当に食いちぎられたらたまったもんじゃないし。


「……まだ目も開かないんだなぁ〜。卵から生まれる生命を見るのは初めてかも……いつも、卵が割れたらフライパンの上だし」


 あ、グロい。自分で言ってグロかった。ごめんよ、渡黒鴉《レイヴン》。キミの子どもをそういう目で見てるわけじゃないんだ。

 

「そういえば、手袋はもう乾いたかな?」


 木の枝に引っ掛けてきた手袋を取って確認。まだでした。風通りが良いとは言っても冬か。右手と腕を外に晒してるのもちょっとなぁ……慣れたっちゃあ慣れたけど。

 

 ──ご主人はもっとワガママでもいいのではないかと思います。


「……それにしても、モンドにも言われるとはなぁ」


 この世界に来て、体を大事にって言われすぎ。それだけ傍から見たら無茶なことばっかりしてるんだろうなあー……。


「……」


 まぁ、ジヒル草はまた生えるだろうし、レイヴンの傷が治るまでは待機だから大丈夫だろう。


「まて。今回に限っては自分の体を大事にしたほうじゃないか?」


 むしろ、争いを避けたし。+か−かでいえば、+が大きい。だってこっちの−なんてまた生えるかもしれないジヒル草をあげたくらいだし。


 うん、こっちに損はない……ハズ。


「でも、ジヒル草がまた生える確証もないのか。みんなソレを心配してるみたいだよなぁ〜。渡黒鴉《レイヴン》もなんか神妙そうな顔してたし」


 手袋をぶんぶんと振り回し乾燥させながら呟いた。いつになったら乾くんだこんちくしょうめ。


「────」


 ピンッ。


「?」


 人の声のようなものと……魔素がものすごく近くで感じた。

 今のはなんだ? さっきの人たちが戻ってきたのか?


「でも、すぐに消えたし……」


 ──ピンッ。


「!」


 バッと戦闘体勢に入った。

 突然反応した魔素感知の場所は……ボクたちの真後ろ。

 さっきの人たちじゃない。魔素の大きさが段違い……。


「ぴーっ!」


 赤子を背中にして、息をゆっくりと吐き出した。

 そして、ぼくたちのいる穴蔵に顔を覗かせたのは──新聞で見たことがある顔だった。


「……!」


 ──未だ上位迷宮から帰還をしていない血盟リスト──

 ──上位迷宮に初挑戦するのは、血盟順位八位の──

 

 新聞の一面を飾っていて、圧倒的な組織力を持つ新進気鋭の準上位血盟。

 

「あ? なんでこんなところに人間がいるんだよ」


 ケトスと並び、今期に協会入りが決定している【ユットロール】が率いる血盟、エヴァーチェだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。