284 最西の異常再び?
渡黒鴉の話で背筋が伸びてから数日が経った。
その間に何回か襲撃があったけど、上手く皆が凌いでくれていた。
南は元々ぼくたちの縄張りになってるけど、東と北はまだまだ他のモンスターの縄張りだ。
北にはあの時の襲撃に加わっていないコカトリスとシュルペーの残存勢力。東にはオーガと主戦力を残したままのオークがいる。
なので、ここでの生活が慣れてきた今日この頃に、手分けをして縄張りを荒らすことにした。
北のコカトリスにはガイドと十六、アン、そしてスノーウルフの上位個体たち。
東のオーガにはダンカンとハウルが率いる連合部隊で挑むことに。
「みんなが帰ってきたら宴を開こう! だから、みんな生きて帰ってくるように!」
「「「はいっ!」」」
そういって皆の背中を押し出した。その間のダンジョン上の防衛はぼくとモンドだけだ。
とりあえず動きやすいように雪かきをしておいた。スコップなんてないから手袋がぐっしょりと濡れて、今乾かしてるところ。日当たりはいいからすぐに乾くでしょうよ。
「モンドっ! 魔素を出してみて欲しいんだっ!」
「お任せあれ」
そんな中、ぼくは空き時間を使ってモンドの黒い魔素を眺めていた。
ふむ。やっぱり、白い魔素と何が違うのかわからない。だというのに、この黒い魔素は魔法に巻き付いて貫通力を増したりすることができる。触れるし。
「ちょっと失礼しますね……うん、やっぱり【魔素操作】だよな」
モンドのスキルやユニークスキルには気になるところはない。
前はこんなことはできなかったという話だし、ボクから受け継いだ魔素操作が影響しているのか。
「うぬぅぅうううううううう……ぼくがやろうとしてることをモンドはすぐにできるようになったっていうことかぁ……!!」
「ご主人もできますよ!」
「慰めはやめてっ!」
ボクが理想とする【魔素操作】はモンドのソレ。というか、ノアがやっていたことをやりたいのだ。武器を持たずに、黒い魔素を武器の代わりにすることができる。
その挙げ句、魔素だから、そのまま魔法にできちゃったりするのだ。なーんだそれ。ずるじゃん。
「ふぐっ……!」
魔素を出してみる。うん。いつもみたいに、出てきたりはする。
武器に纏わせて、そこで魔法を発動とかもできる。できるけどさぁ……ちょいちょい。触ってみてもこれだもんなぁ。
何の感触もない。これは霧です。スチームだ。保湿かな?
「もおおおおおおおおおンドぉ……いいなぁ」
モンドの前足を枕代わりにして、倒れ込んだ。
「黒い魔素、白い魔素。それが肝だと思うんだけどなぁ…………霧とかだったら、冷やしたら黒くなりますかね」
ふよふよと出してみる白い魔素に、フゥと息を吹きかける。散って行った。なんだよぉ。隣の黒い魔素みたいにがっしりとしてくれよぉ。
「……モンドはなにか特別なことをしてるワケじゃないんだよね?」
「はい」
「天才肌ってことか……? いや、んん」
もうわかんないです。結局、只人は白い魔素だからできないってことですかい?
くそぉ。種族差別じゃないか。ぼくだって魔素で武器とか出してみたいんだぞ!
──ピンッ。
「っ?」
「ご主人……?」
久々に反応したそれは、魔素感知。
というか、今まで感じていた魔素とは違う反応だからすぐに気付けたというのが正しいか。身体を起こして、収納袋からあるものを取り出しておく。
「モンド。渡黒鴉を護って」
命令を飛ばし、取り出したものを身に着けた。
ケトスからもらった外套と仮面。……目立つ時に付けるものだ。
──こんなみんなを出払っている時に来るのは、狙ってのことなのか……?
武器は構えずにその者の登場をダンジョン上の広場で待つ。
そして、顔が見えると、仮面の下で苦い顔をした。
(どこか、感じたことのある人の魔素だと思ってたんだ)
出てきたのは、始まりの地を拠点にするあの冒険者だった。
◇◇◇
始まりの地では異例の依頼が張り出されていた。
ここ最近、山に登った冒険者が装備や備品を盗まれるという事件が続出。おかしな点は、命までは獲られてはいないということ。
山賊か? という話もでているが、わざわざ『生きて帰す』ようなことをする奴はいないし、生きて帰ってきた者たちの証言では「ゴブリン」「ウルフ」という二つの種族の名前が上がっていた。
こうなってくると、ある一つの考えが浮かぶ。
『この地に再び、魔族が襲来したのではないか』と。
この前の始まりの地での上位魔族出現報告。
そして、一年近く前の話。始まりの地の北東部にあるユシルの村が、魔物群襲撃によって壊滅した。その首謀者も魔族なのではないかという仮説も出てきている。
始まりの地の真上は、魔王デストロイの領地。手薄な街を襲撃するためになにかしているのでは……となるのは当然だった。
新人が多い街であるため、頼れられるのはこの街を拠点にしている血盟になる。
「……下位魔族なら相手にできるだろうが、上位魔族なら手出しができんぞ」と愚痴をつぶやきながら依頼を受けた。
数ヶ月前にアサルトリアと上位魔族の戦いを立って眺めていた血盟だ。
以前の下位ダンジョンの時ですら、向かわずに外部に依頼をしたというのに……今度は下位ダンジョンの更に上の上位ダンジョン周りで起きていることだと。
が、毎度毎度、外部に依頼をしていたら面目も潰れてしまう。
それに現段階ではまだ『調査依頼』だ。『討伐依頼』ではない。装備を固めて、異変があれば通信魔道具でギルドへ連絡を飛ばせれるように常に形態をしておく。
「なんのために俺らが始まりの地に拠点を置いてるっつー話だよな……ったく」
血盟員全員で冬山を登っていくと、すぐにおかしな点に気付いた。
「モンスター……いなくないか……?」
いつもなら縄張りに入ると、雑魚モンスターが泣き叫んで上位個体やら進化個体やらがすっ飛んでくるというのに。異常事態であるのは明らかだった。
「団長……まだ行くんすか?」
「引き返すと街での居心地が悪くなるだろうが」
そこから気を引き締めて登っていった。
南から、西により、北へ向けて。ダンジョン上の広場に向けて──……。
そうして、ぶわ、と視界が一気に広がると、一本の巨木が視え──心にあった不安が広がっていった。
(ついた……ここが、上位ダンジョンの広場……)
下位ダンジョンのものとはまた違った光景だ。
似ているようで規模が違う。
大きさも、肌に伸し掛かる圧も、なにもかも。
神秘的だと感じる余裕なんてすらも奪い去る重圧。只人など小さな存在なのだと世界が示しているようにも思える。
その中に、見覚えのある形の影が一つ。
「……!?」
そんな景色に立っていても違和感すらなく、馴染んでさえいる人影。
仮面を着けていて、その立ち姿は違和感がなさすぎるのが違和感と言うべきか。女性か男性か。敵か味方か外見からでは分からない。
ただ分かることは、近寄りがたい、ということだけだ。




