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280 エリルのこそ練と権限


 ウッグとの戦闘も久しぶりだなぁ。

 どんな感じだっけ? 訓練の最後のテストで戦ったんだよな。うんうん、そこらへんまでは覚えてるぞ。

 力が強くて、群れで動いて、だっけ。


 並列で思考を処理しながらオークとウッグを相手にしていく。


「ほかの皆は大丈夫かなぁ」


『GBBBBBB!!』


「心配だ」ウッグの拳の振り下ろしを避け、関節の反対側へ押し込んだ「加勢にはいかなくてもいいだろうけど」


 叫び声が耳元で聞こえるが思考の処理を優先。これは余裕ではなく、ぼくのスキルである。

 『並行処理』は中々便利なユニークスキル。今までも戦いながら分析することに使えていたけど、周りを見ることも可能なのは正直にいってすごい。

 ちゃんと戦闘の方は考えながら戦っていますとも。でも、従者さん側の仕事っぷりも見ておきたいんです。


 まずはモンド。魔法が使える。あと、魔素の扱いも上手い。族長との戦いになるだろう。

 ダンカンはぼくからスキルを受け継いだとかはなにもないが、単純に力が強い。あそこまでパワー型なのも珍しい。

 アンは……大丈夫か。そんな心配することもなさそうだな。


「じゃあ、こっちで」


 小刀をクルと手のひらで回し、逆手へ。体勢をグンッと下げ、ウッグの股の下へ潜り抜けながら真上に向かって力のある言葉。


「《火よ(イグニス)》」


 そのまま飛び上がり、発火するウッグの頭を掴んで集団に向かって投げ飛ばした。

 ぼく、力持ちである。成長しましたね筋力も。


「エリル。久々の運動をしよっか。こそこそと練習してたの出していいよ」


「ぎ、ぎくーっ」


 今どき、ギクッを口で言う人なんていませんよエリルさん。

 これはちょっと古いのを見てるな? 昭和の漫画とかを見てるに違いない。


「でもあれは……魔素の消費量がすっっごく多いんですけど〜……それでもいいんですか?」


「使ってみたいんでしょ?」


「はい!」


 うわ、いい返事。新しい事を覚えたら、実践で使ってみたい気持ちは大いに分かる。

 

「じゃあ、どうぞ──」


 ヌッと背後に現れたオークの一撃を小刀で滑り落とし、そのまま流れるように首を刎ね飛ばした。その肩の上に乗ったままエリルに身体を委ねる。魔素使ってもいいよ、という許可だ。


(エリルが夜な夜なレヴィさんのメモ書きがあるティエラリードさんの本を読んでたのは知ってる。あと、ノアとの戦闘の反省会の時にもぶつぶつと呟いていたのも知ってる。……なにが出てくることやら)


 スゥと意識を後ろの方に置いておくと──ピンッ──目の前にボードが現れた。


【個体名:クラディス・ヘイ・アルジェントの身体の使用権限を与えますか?】


「えっ、なにこれ。使用権限……?」


(わたしも初めてみました……なんでしょう)


 エリルも見たことがないらしい。使用権限……そのままの意味なのかな。……まぁいいか。やってみよう。


「【YES】──わ、わっ、ますたーのお体だ……」


 うわ、ぼくが喋ってないのにぼくが喋りだした。あ、こら。どこ触ってんだ。


(エリル〜……?)


「えへへ……いや、ちょっとくらいは堪能させていただいてもいいじゃないですか。ンにしても……こんなのができるんですねぇ〜」ペタペタと胸やお腹や顔を触って、満足そうに鼻を鳴らした。「リンクしてるからできるということはこのエリルさんにしかコレはできないってことですねっ! ちょっと優越感。えへ、借りたからに大事に使わせていただきます」


 ぼくの顔でそんな感じに喋らないでほしいなぁ〜……。と思っていたら、ウッグとオークに向かって手をのばすと、収納袋からレヴィさんの魔法杖を召喚していた。

 魔法をやるのは分かっていたけど、一体なにを──


「『轟くと良い、亜人の私が許可しよう。蜘蛛の様に周到に。聖母の様に泰然に。煽って、散し、雲を割って落とせ』」


 これ、まさか……!!

 

(エリル……!?)


 ぼくの反応が良かったのか、エリルがぼくの身体のままニヤッと笑って最後の詠唱を口にした。


「『──薄れ消え行くことは無し』!」


 魔法陣がズラッと横に並ぶ。見たことのない複雑な魔法陣。

 繋がっているからわかる。これだけで魔素の半分以上が消えていった。


 だって、この技は──あのときの……。


「いきますよぉ〜、せーのっ! 『嵐龍ノ鉤爪』」


 ノアが使っていた技だ。 


(うわあー…………)


 そこからまぁ、もう、本当に一瞬だった。

 エリル(ぼくの体を使ってる状態)が放った魔法が広場の敵対していたモンスターを一網打尽。なんなら『嵐龍ノ鉤爪』が消えることはなく、処理に困るという状態に。


(エリル〜……? これ、どうすんのさ)


 腕を組んで、目の前でふよふよと浮いている鉤爪。はてさて、どうしようか。


「薄れ消え行くことはなしですからねぇ〜……いや、あはは〜、まさかできるとは」


(できたってことはさ……もしかして、レヴィさんの本を読めば原理的は理解できるってことでしょ? となると、レヴィさん辺りもできるのかな)


「いえっ、これは完全にエリルオリジナルです。ノアという魔族が使っていた魔法陣を思い出して、足りない箇所を勉強して、補填して、落とし込んで、それで……じゃじゃーんっ! この子たちができたんです!」


 まぁ、ノアの使っていた技はもっとおどろおどろしかった。こっちはまだ【風刃】味がある。エリルオリジナルっていうのは本当らしい。


(で、ぼくの身体でそんな可愛い感じしないでよ。恥ずかしい)


「ますたーは可愛いでしょうが!!!!!!」


(うわっ)


「うわって。ちょっと成長しましたけど、かわいいですよぉう? もっちりすべすべお肌に、色白な手足っ! 幼い顔ッ!」


(止めて止めて。その体を毎日痛めつけてるんだから。ぼくがひどいヤツみたいになる)


 というか、テンション高いな。相当楽しんでるみたいだ。普段から外を歩きたいみたいなことを言ってたから、舞い上がってるんだろう。


(まぁ、そんなことはいいから)


「よくないです!」


(いや、いいからさ。これをどうするかを考えないと)


 このエリル作成『嵐龍ノ鉤爪』は魔法として完成しちゃってるため、こっちが魔法の仕組みを変えて、消す用の魔法を作る必要があるかもしれない。火の魔法を作ったので、消火用の水魔法を作りましたって感じに。


 時間経過で消えるとか、打ち消しで消えることとかはないだろうし、本当にずっとこのままとか。世が世なら開発者責任に問われるレベルだな。


(……あ。魔素ならダンジョンが吸収するんじゃない?)


「わわ、そうかも。やってみましょうか。えいっ」


 下に行くように命じると、雪の中にズボッとハマっていき、やがて何もなくなった。これなにもないところで出すと大変だぞ……。


「あるじ!」「旦那」「ご主人さま」


 そう思っていると、戦いが終わった三人が近寄ってきた。みんな心なしか楽しそうな顔をしている。

 労おうと思って、今はぼくの体の権限はぼくじゃないことを思い出した。じゃあ、エリルに労ってもらおう。


「お、みなさん。お疲れさまです〜。見てましたよ〜、えへへ」


「「「!!!??????」」」


「あ」


 【クラディス・ヘイ・アルジェントに権限移譲しました】


「あっ」

 

 エリルめ……変なところで投げて返してきたな。

 どうすんのさこの雰囲気。

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