275 従者に名前をつけよう~
「えーと、スノーウルフの君は……キングウルフに」
「はいっ!」
「で、ホブゴブリンだったキミは……ゴブリンロードに」
「そうです!」
「はあああ〜…………なんで?」
いやいやいやいや……おかしいじゃん。だって、契約しただけだよ? 契約しただけなのにさぁ……。
スノーウルフはたしか進化個体だった。それが上位進化個体を飛び越え、王へ。
ホブゴブリンは王を飛び越えて、ゴブリン統括者へ。
(これ、ぼくのせい……だよな)
スノーウルフの身体はありえなくくらいでかくなってる。恐竜ですか? え、狼じゃないじゃんもう。刺々しいし。モンスターを狩人が倒すゲームに出てきそうなアレになってるじゃん。
ゴブリンロードの方は倒したゴブリンキングよりもでかくなって、筋骨隆々に。ムロさんよりデカイし、ボルル君よりも大きい。
「腕ふっと」
「はっはっは」
「声も太くなってるし……」
青年のような声はいかついオッサンの声になってる。凄まれたらビビる気がする。グラサンかけてほしいなぁ。絶対似合うよ。
「……あ、ゴブリンの子たちは?」
「アイツらなら、ホブゴブリンに進化しました」
「よかった……ホブか。うん。良かったよかった」
「今、食料の調達に行かせてます」
「そう……なら安心かな。略奪じゃないよね?」
「魚の捕まえ方や食べられる木の実をおしえました」
アンがスッと出てきて安心する一言を言ってくれた。ぼくがいない間に色々と指導をしてくれたみたい。
略奪してたら今すぐに殴りかかりに行こうかと思った。げんこつだぞ。加減なしだからな。
「そういえば、旦那。オレとこの犬ころに名前をつけてくれねぇかな」
「そうです! ご主人さまからお名前を頂戴できればと!」
名前か。名前……。
(従魔に名付けるのは基本中の基本ですよ! ぜひ、カッコいい名前を!)
そう言われてもなぁ。出会って日も浅いし……この二人のことなにもしらないし。感覚でいいか? 感覚で。
「えー、じゃあ」スノーウルフを指差した「目がアーモンドっぽいから【モンド】で」
名前を付けた瞬間、スノーウルフがほのかに光った。レベルアップでもしたのかと思うほどの演出に目を見張る。
足元から青白いホタルでも発生したのかと思うとすぐに止んだ。ボードが表示された。
【従者のスノーウルフの名前を モンド と名付けました】
これ、ゴブリンロードに名付けても同じ感じになるのか?
「キミは……そうだな、え、えっ、ぐ、ぐぅ……」こんな任侠みたいな人に名前をつけるのこわいぃ……「だ、ダンッ……あ、【ダンカン】で」
【従者のゴブリンの名前を ダンカン と名付けました】
ゴブリンロードの方も光って、名付けが終了しました。
男らしい名前を考えて、何も思いつかずに「男漢」でダンカンにさせていただきました。はい、いい名前が無かったんです、ごめんなさい。殺さないでください。
「……モンド」
「ダンカン、か」
「ふ、不満だった……?」
ビクと身構えた。眉間にシワのよったダンカンの顔こっわ。
「いい名前ですご主人!」
「最高にビタッて当てはまった。感謝するぜ、旦那」
モンドに頬を舐められ、ダンカンに肩を組まれた。
もう、わかんないよ。アンがちょっと遠いところで腕を組んで見守っている。なんでそんな保護者の顔してんのさ。こっちきてよ。
「ま、まぁ……これから、ぼちぼちよろしくね? ふたりとも」
「はい!」
「おうよ」
怖いけど、モンドの毛はふかふかだし、ダンカンは男らしいから一緒にいて安心するし……なにより、この感じは嫌いじゃあない。
……って、なにしに雪山に来たんだっけ?
◇◇◇
「へぇ〜、となるとここは最西の街の上か」
モンドとダンカンの話を聞いていくと、自分たちのいる場所が分かった。
この世界の地図はなんとなくだけど頭の中に入ってるつもり。ほんとうになんとなくだけどね。で、ここは位置的にいえば、佳奈がいたダンジョンの上っ側にあたる。
魔王の領土と面する広大な森の上部。つまりはここは人族達の領土から離れている土地だ。
(強いのが多いのはそういうことか)
南側に下位ダンジョン、北側に上位ダンジョンを持つ森林地帯──【フォリスの大森林】。
また、この前倒したゴブリンキングは「南側が我々の〜」とかなんとかって言ってた気がするから……
「ここから北側に登っていけばアレがあるのか」
「上位ダンジョンですね」
アンの言葉に頷く。南、北、東、西っていうのはなにか「中心地」が定められている。それがおそらく上位ダンジョンであると。目印がソレ以外にあるなら別だろうけど、9割の確率で上位ダンジョンだとは思う。
「ってかそれにしても飛ばされすぎだな。転移の魔法でどれだけ飛ばされてんだって」
こんな長距離移動が可能なら、ムロさん達と乗っていた車なんて要らないじゃないかッ! まぁ、そんな万能なものではないとは思うけどさ?
「………転移は事前に準備する必要があるから、あとは原理さえ知っておけば魔素を注いで完了か」
魔法陣は完成している状態。場所と場所も繋いでいる。としても膨大な魔素が必要になるとは思うんですけどー……。
「……あ”っ」ひらめいた。(上位ダンジョンの魔素を使ったのか!)
「うわ、びっくりした……あるじそんな声、出したらダメですよ」
「ごめん……」
原理はわからないけど、そうなると話は着く。魔導書にも「自然の魔素を使う魔法」というのがあったりもする。その原理を用いたら可能なのかもしれない。
「はあ〜……なんかすっごいな。大掛かりな訓練だこと」
雪山の訓練は実は前々から決めていたけど、いつにするかはまだ決めてなかったって感じかな? 事前準備だけしてたーみたいな。
はぁ〜……そうならそうと言ってくれたらいいのに。
まぁそこらの話はいいか。話を戻そう。
「問題は、この森の長にどうやってなるかって話だけど、わかんないよなぁーーーー」
髪の毛をくしゃくしゃとして、うぁー、と小さく呟いた。後ろにはモンドがいるから、もたれかかる。ふかふか気持ちいい。
眠気を誘う高級そうな毛に包まれながら指を立てて、まわしたりなぞったり。
「…………ダンジョンが北側にある。ということは簡単に考えると【東西南北】にモンスターの縄張りがあると見ていい」
何も考えず、思いつくままに口を動かす。
寝起きでいろいろなことが有りすぎて疲れてるんだよ。
誰かぼくの発言をまとめてくれると信じて……クラディス、喋ります。
「南はなんかわかんないけど、縄張りはぼくたちのモノになったと思うから、このままで。あとはそうだなぁ、順当にいけば、東、西、北の縄張り争いに参加をして勝てばいいんだろうけど……正直、それはちょっと面倒くさいし、力技すぎると思う、から……ダンジョン上にまで縄張りを伸ばしたら、他のやつらが黙ってないと思うんだぁ。あの地を取られてなるものかっ! って襲ってくると見た。そこでいっぺんに終わらせるのがいいと思うわけなのですよ……すぐに片を付けられると思うし、みんながいるならできると思うんだけど〜…………とか、って喋ってみたり、して」
なーんか疲れたから自分が何言ってるのかわかんないや。
ちゃんと喋れてるのかな、これ。
「それは名案だと思います」
お、本当ですか? アンにそう言われると嬉しいなぁ。
「良いですね。それで行きましょう。ご主人様がいれば百人力ですとも」
モンドも乗り気。喋る時にお腹動くのかわいいなぁ。
「ゴブリンの縄張りもあったハズだから、ちくと吸収も考えてみるか」
ダンカンは顎に手を当てて首を捻ってる。かっけぇ。
まぁ、なんか重たい瞼に抗いながら口を走らせてみたけど、三人の反応は嬉々としたものだったし、なんか良かったんだろう。乗り気だし、無難な話ができたんだと思う。
「がんばろぉ〜。また、明日から…………」
「「「おー」」」
むにゃむにゃ。ふにゃにゃ。モンドの毛、ダメだ。気持ちよすぎる。持ち帰ってベッドになってほしい。
その後、うつらうつらしていたら、食料調達をしてきてくれたホブゴブリンが帰ってきて、ねぼけながらも二体に名前をつけることにした。
一体はゴブリンキングの砦まで案内をしてくれたゴブリンだったので案内人という意味を込めて「ガイド」で。
もう一体の方は、鼻が赤いゴブリンだったのでトナカイと名付けようとして、やめて「十六」って名前にした。
エリルに話を聞いてみるとトナカイって別名「馴鹿」っていうらしくて、カリブーと名前を悩んで、そのまま付けるのもあれだったから十六って名前に。
これからよろしく〜。とりあえず、ぼくは寝るよ……。




