274 亜人の種族値が解放……と言われても
「ますたーの身長が高くなった理由は簡単ですよ。成長期ですから」
「で、本当のところは?」
「ぶー、いつもならノッてくれるのにぃ……。契約の影響ですよーだ」
エリルに解説を求めても意味がわからなかった。契約とか変にやらないほうが良かった? というかノッてあげられなくてごめん。そういうテンションじゃないの。
(起きたときから腰に違和感があったのはそういうことなのか……? 成長痛? でも痛いってわけじゃないけど)
いたよね、成長期で腰痛持ちになる子。ぼくはそんな急成長した方じゃないからそんなのなかったけどさ。こんな感じだったんですか? 走るのもちょっとしんどいって言ってたけど……そこまでじゃないから違うのかな。
「……契約解除したらもとに戻る?」
「契約解除はできませんよ。どちらかが死ぬまでは永続的に契約が続けられます」
「そういうのはもっと早く言ってよ!!」
「あるじっ!? どうしましたか!?」
「い、いや……なんでも、ちょっと……いろいろと」
いまは、ゴブリンキングが座っていた椅子の裏──アンの攻撃で上部がすっ飛んでるヤツ──でエリルとこそこそと話してる状況。
「大声出しちゃいましたねぇ〜ますたー」
(じゃあ、体内に戻る? 出てきたのはエリルでしょ?)
「声出してお話するのと、脳内で会話するのはまた違うんですよ! あと、成長したかどうかなんて内側からはわからないので! ほら、ますたーも声を出して出して!」
「ぐぬ……」
アンは心配そうにこちらを見つめてる。そりゃあそうだ。エリルの姿はアンには見えてないんだから。傍から見たら急に一人でブツブツと喋りだして叫んだヤツだ。「頭が……」となってもおかしくない。
実際、頭がどうにかなりそうではあるんだけど!
「そもそも! 契約のことを詳しく説明しますと、契約っていうのは上位種と下位種が結ぶ契のことなんですよ」
「……? 上位種と下位種って言われても、ぼくゴブリンキングでもウルフキング……そんなのいるのかわからないけどさ。そんなんじゃないよ?」
「分かってますよ。で、奴隷契約っていうのは同列の種でも結ぶことができる契約。えーとつまり、同列なのに人間側が作った「序列」というものを当てはめた契約のことを指します」
「奴隷、市民、貴族、みたいな奴だよね」
ゴブリン、ホブゴブリン、ゴブリンキングという序列と奴隷、市民、貴族といった序列は違う。「種族という明確な差に基づいて定められた序列」か「勝手に作った階級システムの序列」は違うのだ。
「そこは大丈夫なんだけど。それで?」
「それで、ですね。主従契約というのは魔法とかではなく、ステータスボードを介して行われる……えーと、この世界にもとよりあったモノで、システムって言えば分かりやすいかもしれません」
「あーー、なんとなく。分かってきたような、分かってきてないような。要するに奴隷契約と主従契約は違うって話でしょ?」
「です!」
なんとなく終わった雰囲気。でも、聞きたいのはそこじゃないんです。
「……上位種、下位種の話は?」
「はぁ〜……ますたーは、ご自身の種族をおぼえていらっしゃいます?」
「只人だっけ」
「亜人です。最上位種の!!」
「そうだっけ。忘れてたや……あはは」
だって、なんの効果もない奴だもん。只人よりまぁ成長速度が早いかもね? って感じだったもんな。
忘れるよ。押入れの奥にでも入れてたのが出てきた気持ちだもの。
「この主従契約っていうのは一般的に『魔族とモンスター』『上位森人と森人』のような、明確に種族の中の序列が分かれているところで使われるものですが、ますたーの『亜人』は文字通りの最上位種族ですので、モンスターとも結ぶことができます」
「意味分かんないけど。じゃあ……魔族と人は結ぶことはできる……?」
「立場として魔族と只人は対等ではありますが、前もご説明したところの話で、契約の種類によっては結ぶことができます。もちろん、いろいろな縛りはありますが」
ほう、縛りとな。
「どんなですかね」
「レベルが自分よりも低いーとか。あとは忠誠心があるーとか色々ですね。レベルが低いだけでは契約ができないことがほとんどです。ここらへんは難しいところなので割愛を!」
ふぅーん……まぁ、レベルとかは出てくるか。そういえば、忠誠心のどうのこうのも話をしてたな。
「そして、今回、ますたーの身長が高くなった理由はっ……!」
「理由は……!」
「ドゥルルルルッルル!!」
「ドラムロール!!」
エリルめ。暇な時に地球の勉強しすぎて、意味のわからない分野にまで手を出し始めたな。
帰ってきておくれ。ドヤ顔でドラムロールしないで。そんな顔でするやつじゃない。そんな「これ、覚えたんですよ」ってお披露目するヤツじゃないから。
「ドゥルルルルッルル……」
初めてだからどこでやめたらいいのかわかってないし、長いし、口元もたもたしてるし、巻き舌とかじゃなくて、ちゃんと「るるるるるる」って発音してるし。
あ、困ってる。顔で「これいつやめたらいいんですか?」って。
「えーと、バンッ! はいっ!」
「わ! ますたーの身長が高くなった理由はっ! 種族の値が開放されて、そこに加算されたからでしょう!」
「わーーーー、そうなんだ。意味分かんない。なにそれ」
「今までほとんど意味のなかった【亜人】ですが」自分でいうのはいいけど、他人に言われると刺さるってそれ。「初めての従者を得ることで、効力を発揮したって感じです。眠っていた力が湧き出てきた……! って感じですか?」
「従者を得ることでデカくなって、眠っていた力が……」
と言われましても……。とりあえずは、まぁ、えーと。
「契約でステータスに+もされたし、亜人という種族値? みたいなのが大きくなって……結果、でかくなったと」
「そんな感じです!」
「悪いことではないんだね?」
「いいことです! 亜人としてようやく活躍できそうですね!! ぶいぶい言わせちゃいますっ!? もう気に入らない敵とか吹き飛ばしてやりましょうよ! オラオラッ!」
シャドーボクシングを始めたエリル。前よりかは上手くなってる。でも、うーん……。
「ぼくが最弱の転生者じゃなかったら、活躍できるだろうねぇ……」
「あ」
そんな露骨に「しまった」みたいな反応されたらさすがのぼくも傷つくよ?
「エリル? エリルさん? 可哀想……みたいな目で見てこないで?」
「……ますたー…………ほんとなら今頃ぶいぶい言わせて、女の子をはべらせて、男たちに慕われて、ウハウハしてるだろうに……」
「うっせ。そんな生活なんか送りたくないやい」
女の子を侍らせる前に自分の身の回りは自分でするよ。男に慕われるのも……筋骨隆々がたくさんいる世界で「兄貴!」とか言われるの怖いよ……。
「まぁ、事情が分かったからいいや。で、ぼくはどれくらいの期間眠ってたのかな」
「3日」
「みっか」
「魔素を使いすぎるなって言ったのに! 寝ながらゲロしてましたよ。魔素がないのに、ゲロは出るって」
「こら! エリル! ゲロとか言わないの! でもそうか……はぁ……3日か」
アンに心配をかけたな。
身長がデカくなるのは悪いことじゃないしな。エリルに色々とお話を聞くのもここらでいいだろう。
ねぼすけだった亜人が頑張ってくれた。それで解決だ。棚にしまい込んでいたらぼたもちが上から降ってきましたな、はは。って、なんだそれ。
「っと……」
エリルとの話し合いを終えて、のそと外に出てみると、言われてみれば確かに目線が高い。
「アン、かわいい」
「ふあ……き、急に……」
「なんか契約の影響でデカくなったんだってさ」
「しょ、しょうですか……ふへへ」
服で笑顔を隠すアンに、ぼくもクスと笑った。
今までが12歳にしては小さかったからなぁ。これで、いいくらいだろう。みんなには成長期だって言えばいいし。
「この匂いッ! ご主人さま、おめざめですか!!」
「クラディスの旦那! 目が覚めたか!」
入り口の方から聞こえてきた声。
聞き覚えがある。スノーウルフとホブゴブリンだね。でも、なんかちょっと声質変わってる気もするけど。
「うん。お目覚めだよ……って」
ヌッと出てきた二体をぼくは見上げた。
「でっか……」
もう、わけ分かんないって。




