272 主従契約を結んでみることに
今日はこの世界に馴染んだか、馴染んでないかを色々と考えることが多かった。でも、いま、結論を出すことができました。
ぼくは、この世界に馴染みました。絶対に。
なぜなら、死体があるところで普通にご飯が食べれるようになったんだから。適応というのか、おとなになったと言うか、我慢ができるようになったというか。……なんとも感慨深い。
今、ぼくは竹串を地道に作成していってるところ。その横ではアンに魚の腸を取ってもらってます。
おいおい、クラディスよ。塩焼きの塩がないじゃないか、と。いや、調味料は持ってきてますのでご安心を。
ご飯を作る機会が多いから、調味料は持ち歩いてるんですよ。ケトスにご飯を振る舞った時も使ったし、アイツは「ちょっと味違う!」とか言ってくるから困るんだ。
でも、初日から安定してご飯を食べられるとは思ってもみなかった。こういうのってもっと苦労する奴だと思うけど。
「ま、いいか」
エラから背骨の下くらいに差し込んでみる。うん、動画とかで見たことがある奴だ。微妙にブサイクだけど。
「ン。食べてごらんなさい」
「い、いいのですか?」
若い声。ホブゴブリンは青年くらいか。うんうん。
じゃあ、ゴブリンの声が割と僕らくらいの声なのは当然だな。
「毒味の意味も兼ねてるから」
ぐへへ、と笑って見せるとホブゴブリンは呆れたように口に入れた。
「どー? うまい?」
「…………」
ごくりと喉を通った瞬間、ホブゴブリンはボロッと泣き出した。
「うまい、です……っ」
隣でヨダレを垂らしていたゴブリン二体にも渡しておく。食べた後は同じ反応を見せてくれた。
普段はどんなものを食べてるのか。彼らを前にして申し訳ないと思うが、ゴブリンは不衛生のイメージが強い。ぼくが最初に倒したゴブリンなんかは、ものすっごくドブの匂いがした記憶がある。
まともなものを食べてこれてないんだろうなぁ。
「じゃあ、おおかみくんも……竹串が無いほうがいいか」竹串を抜き、焼き魚をつまんで持った。「口開けてごらんなさい」
おそるおそるグアと口を開けたウルフの口の中に放り投げる。
『! うまいっ!』
ぺろと舌をだした。舌鼓ですな。ウルフとかも普段は肉とか食ってるのかな。じゃあ、モンスター達から好評の魚のそのまま焼きを食べてみるか。もぐ、もぐ。
「うん。野生な味わいの中に、塩っていう文明の味がする」
「おいしいですけど、あるじのご飯が食べたいです」
「一応、これもあるじのご飯だよ」
「あるじのご飯が、食べたいです」
この食いしん坊め。
でも、サバイバルが終わるまではこんな調子だ。調理器具もないし、野性的な味を調味料でごまかすしかない。いや、それでも贅沢なんだろうけど……トホホ……。
◇◇◇
飯を食い終わり、みんなで寝ようというところ。
だが、そのまま寝られる訳もない。安心はできないから。
「契約を結ぼうと思う」
ゴブリン二体、ホブゴブリン一体、スノーウルフ一体。彼らから返ってきた反応は「?」というものだった。契約というのを聞いたことないだろうから仕方ない。
合計四体を目の前に座らせて、エリルの解説を聞きながら契約について進めていく。
(主従契約というのは、一般的に心を許した相手としか結ぶことのできない契約と言われています。そして、契約は主に魔素を使って用いられます)
(契約を結ぶとどうなるの?)
(主人と従者という状態になります。モンスターでいうと、従魔ですね。そして、双方のステータスが上昇します)
えーと? ステータスが上がるっていった?
(なんで?)
(魔素を分け与え得ることによって、主人のレベルやステータスに応じて上がるようになるんですよ。つまり、レベル1のモンスターと契約を結ぶと、そのレベル1のモンスターはレベルが上昇し、種族昇華も起こす可能性があります)
種族昇華というのはアレだ。グレードが上がるってことだ。上位が進化個体に。進化個体が上位進化個体に。
(あと、従者側の魔素は契約の種類によっても変わるんですが、半分は主人側に渡されます。なので、主人側もレベルが上がるって感じで)
(魔素を交換してレベルアップ? でも、それって別にステータスが上がる訳じゃあ……あ、でもそうか。魔素を与えても回復するし、魔素をもらった分がステータスにプラスの影響を与えるって考えると)
(ですです。契約の種類に結構左右されますけどね! 一切、魔素を受け取らない契約もありますので、それはまた別の機会にでも)
なるほどなぁ……。それは面白い仕組みだ。
そこから説明が進むと、契約の種類について聞けた。
◯片与ノ契約:魔素の20%を契約料として用いる。
◯殆与ノ契約:魔素の50%を契約料として用いる。
◯血与ノ契約:血液を契約料として用いる。
◯侵奪ノ契約:生殺与奪を契約料として用いる。
上二つは聞いてる時になるほどなぁ、って思ったけど……下二つよ。血液と生殺与奪って。物騒すぎるでしょうよ。
(殆与ノ契約ってやつが魔素の50%ってことはさ。2回渡すと魔素ロストになるってこと?)
(厳密には少し違いますが、概ね合ってます! だから一気にはやらないようにお願いしますね。倒れちゃうので)
倒れちゃうか。ふむ。
「なら……とりあえずは『片与ノ契約』かな。ゴブリンの二人はこっち来て」
おずおずとやってきたゴブリン二人の額に手を当てる。
──えーと、ここからどうするんだろう。
「…………【片与ノ契約】」
パッとボードが浮かび上がった。
【個体名:ゴブリン と 契約しますか?】
【個体名:ゴブリン と 契約しますか?】
ということは、契約できる状態ってことか……ゴブリン達は少なからず心を許してくれているらしい。そう思うとなんだか嬉しい気持ちになる。
「【はい】」
承諾されたようで、ほっと安心していると──
「!?」
自分の中の魔素がごっそりと抜けていくのを感じた。
やっば、これ! 身体が削られたのかと思った。大丈夫、穴とか開いてない……!?
胸に手を当てて焦っていると、こちらを見つめているゴブリン達の姿。
「……あ、あー、う、うん。これで、一応は君たちはぼくの従魔ということになるから。よろしくね」
『は、はいっ』『わかりました』
物分りが良いゴブリンもいるのだな。
もっと、契約書みたいな詳細な取り決めがあるのかと思ったけど、案外アッサリしてる。
(それに……これができるなら、そこらへんの人たちと主従契約したら、みんなレベルアップできるじゃん)
なんでみんなしないんだろうか。……まさか、心を許してないからとか……? ギスギスってことかもしれないな。
「次は……そうだな。ホブゴブリンとスノーウルフ。二体同時にしよう」
手招きして近くによってもらった。二体とも従者のポーズみたいなのを自然にやってるし。
アイリス側のぼくが『オーキッド』の件で王城に呼ばれた時もこんな感じだったんだろうなぁ。あのガハハって笑いそうな中将目線がコレか。悪くない。
二人の近くに手を伸ばして……止めた。
「……もしかしてさ」
そこまで声にだし、エリルに問う。
(一気にやるのは倒れるだけで、不可能じゃないってこと?)
(え? あ、まぁ……そうですけど……どうしました?)
いや、それだけ聞けたならいい。
ちょっと初めてのことでワクワクをして、ぼくは契約の種類を口にする。
「【殆与ノ契約】」
(ますたー!? ダメですよ!! 倒れちゃいます!!)
エリルの反対の声をよそに、ボードは表示された。
不可能ではない。ということは、できるということだ。
魔素の50%を同時に分け与える。それも……既に40%がなくなっている状態で。
【個体名:ホブゴブリン と 契約しますか?】
【個体名:スノーウルフ と 契約しますか?】
(ますたー! ダメですって!!)
(ごめんエリル。ちょっとやってみたい、から──怒るなら目覚めた後で!!)
ニヤッと笑って、目の前の二人の従者候補を見て口を動かした。
「【はい】」
その瞬間に視界が真っ暗になって……ぼくの意識は消し飛んでいった。




