271 南部の縄張り争い
魔素感知でゴブリンの歩いていった方向へ進んでいくと、ちょっとした砦があった。
雨風を凌ぐにはうってつけの場所だろうなぁ、と見上げる。古びてるから風通りは良さそうだし、雨漏りとかすごそうだけど。こんな積雪で潰れないのがすごいな。建築がお上手なんですね。
「まぁ、鉱人が造ったんだろうけど」
そんな感想を抱きつつ、入り口に手をかけた。
開けた瞬間、玉座の間のような空間が広がっていた。
「砦じゃないのかな」
これが砦なら防衛機能なんてあったもんじゃない。いらっしゃいませって言われてるようなもんだけど。こういうものなのかな。よく分からん。
「……仰々しい装飾だな」
ゴブリンの巣にしてはヘビメタル好きが装飾したんじゃないかと疑うレベルで骸骨が転がってる。
松明の明かり。……ということは、少なからず火を付ける知恵があるということか。
空間全体に目を向け、情報収集。そして真正面を見ると……古びた椅子に座っているデカイゴブリンの姿。
「あなたかな。ぼくたちを呼んだのは」
「……人だと言うのに、我々の言葉を理解する者か」
しっぶい声が聞こえた。振り返ったところにいるスノーウルフといい勝負だ。あ、律儀に扉を締めてくれてる。ありがとう。
「で、呼んだ理由っていうのは?」
「まずは感謝をしよう。貴様らが殺したのは族の長達よ。女が我らの片割れを。そして貴様が憎き豚どもを」
指をさされて、野球部のような相槌をうってしまった。モンスターに感謝される日が来るとは。
「おかげで我らの縄張りを広げることができる。あとは、そこの狼を殺せば、この南の地は我々の物となる。感謝しよう」
理性があるゴブリンか。それに気のせいかもしれないけど、今まで出会ったゴブリンキングよりも大きい。
鑑定結果――ゴブリンキング。
あ、でもキングなのか。
というか、南はウルフとオークとゴブリンで縄張りを争っていたわけか。なるほどなるほど。
(……それにしてもアイツだけよく肥えてる。他のゴブリンはやせ細ってるっていうのに)
この砦に案内してきたゴブリンや、ホブゴブリン。他のも可哀想なくらいにガリガリだ。
「それでは終わりにしよう。そこのウルフを」
「ヤダ」
「……なんだと?」
ゴブリンキングの眉間のシワが深まる。堀が深いってレベルじゃない。
あとは首ぐらい太い腕に力がこもって、椅子の手置きが軋むのが見えた。怒り方があれだ。怖い人の怒り方だ。でもなぁ……。
「こっちは疲れてる。戦うのも、この子を渡すのもヤダ」
「ご主人……」
「只人の小僧が、我々に勝てるとでも……?」
「すぐ勝つとかそういう話になるじゃん。戦う気はないの。こっちだって平和的に解決出来んなら解決したいよ。ほれ、会話ができんだから。平和にさっ! 平和!」
『……』
「……そーかい」
ぽりぽりと髪をかいて、踵を返した。
「帰ろう。今日はゆっくり寝たいんだ」
「そうですね。帰りましょう」
「つけ上がりよって只人が――」
「大砲」
横から布の擦れる音が聞こえると、アンの声が追って聞こえてきた。
──ジッ。
アンの拳から放たれた衝撃破はゴブリンキングの頬を掠め、椅子の上部を吹き飛ばしていた。
椅子の破片が壁にぶつかり砕けた音で、その場にいた者たちは何が起きたのかをようやく理解。
「……ッ!」
攻撃されたことに気付いたゴブリンキングは瞠目し、額に汗を浮かべる。
「戦わないとあるじは言った。聞こえなかったのか」
アンが瞳で凄むと、顔を真赤にさせたキングは叫んだ。
『ぐっ──ぐっ……!!! 貴様らァ!! 殺せェッ!!!!』
一斉に襲いかかってくるゴブリンだが動きが遅い。動きの速さだけで言えば、イニシアの森のゴブリンの方が素早く、力強そうだった。
「アン。お願い」
「承知いたしました」
ゴブリン達をアンに任せ、ぼくはゴブリンキングの元へ。
「一人だけお腹大きくしてさ。みんなの分の食料とか残してた? 冬だもんね」
「我さえ生き残ればよいのだッ!!」
典型的な独裁者というかなんというか。
それにしてもゴブリンキングか。本当に懐かしい。
最初は絶対、こんな奴に勝てるわけがないって思ってたけど、今は……なんか普通に倒せそうだ。
魔族とかと戦ってきたからかなぁ。これが成長か。もしくは感覚の麻痺か。それは戦ってみれば分かるだろう。
『小僧ォ!!!』
大ぶりで剣を振るうのを拳でかち上げた。うまく軌道を逸らすことができた。
「うん。行けそうだ」
左手に小刀を召喚し、低く駆けてキングに無数の傷を付けていった。
「フゥッ──」
キングの肩で上空に舞い上がったところで息を吐いた。
速さも上がってる。あれからレベルが上がってるみたいだ。
自分がイメージした動きに、体が着いてきてくれる。それに……この速さはまるでホワイトボグと戦っていたエルシアさんのソレに近い。
「なら──」
僕の姿を見失っているキングの頭上から降り、腕を切りつけ、関節も断った。力が入らずにだらんと下がってきた大きな腕をまた駆け上り、顎を蹴り上げる。
「グゥ!?」
上を向いたゴブリンキングの口端を両足で踏んで広げ、口の中に手を突っ込み、力のある言葉を発動。
「《火よ》!」
顔、喉、腹部にかけて体が真っ赤に光り、黒くなり、目や鼻から煙が登る。
『GAAAAAAAA…………』
言語理解を切っててよかった。
多分、ひどい断末魔だったろうから。
「こちらも終わりました」
手首を検めながらアンが死体の中に立っていた。ウルフも協力したらしく、鼻先や口周りが紅く染まっている。
「それで……戦意のないものはどうします?」
「殺してもいいんだけどー……」
糸が切れたように崩れ落ちたゴブリンキングの死体から飛び降り、リーダーっぽいゴブリンを見つけて近寄る。
戦うわけでもなく、逃げるわけでもなく、端っこで震えていたホブゴブリン一体に問おうとして。
『GAAAAAAAA……』
「あ、言語理解切ってた」
ちょっとまってまって。手を出して待ってもらった。
うん、これでよし。
「はい、喋ってみて」
『…………おれたちを、仲間にしてくださ、い』
「!」
自分から提案をしてくるとは思っても見なかった。
その瞳の闘志は消えていない。
怯えていながらも、真っ直ぐ向いている。強い瞳をしてる。
「うん。よろしくね。じゃあ、さっそくご飯にしよう!」
いい砦も手に入ったことだし、晩ごはんといこう。




