270 ゴブリンの案内人と言語理解
「ただいま〜。大漁大漁」
集合場所に指定していた仮拠点に帰ってくると、アンが先に戻って火を起こしていた。出ていった恰好のままだったから、戦闘はしてないのかな?
「おかえりなさい。わたしの方はあんまりでした……」
「そうなんだ。まぁ、初日だし」
「ゴブリンの群れを潰しただけで」
「いや、戦ってるっていうよソレ」
思わず突っ込みを入れるとアンもクスと笑っていた。狙って言った冗談だったとは!!
身体がキレイなところをみるとボコボコにしたんだろう。返り血とかって普通つくと思うんだけどなぁ。特にアンは近接戦闘型なんだから。
パチッと火が散ると、アンはぼくの後ろを見るように顔を覗かせて。
「で、それは……えーと」
さすがに気づくか。足音がいっぱいあるもんな、四足歩行だし。
ちょっと離れてもらってた彼を呼ぶと、ダッシュで駆け寄ってきた。
「なんか懐かれちゃったから連れてきた」
ペロと頬を舐められ、下顎と上顎をよしゃよしゃと撫でた。一緒に戦ったスノーウルフ君の進化個体だ。
「あと、オークの群れを倒してきた。あれで全部だったかは分かんないけど、縄張りゲットに一歩近づいたかも」
ゆっくりと腰掛けると、隣にスノーウルフも来て身体を丸めた。
こう見ると狼というよりかはデッカイ白犬だ。鼻は犬みたいにゴツゴツしてるし、ふがふが言ってる。かわいい。
「その犬ころもモンスターですよね。殺しておいた方がいいのでは?」
『ぐるる……』
「まぁ、そうなんだけどねぇ……こうもベタベタされるとどうも殺しづらいというか」
『わぉん……』
こんな友好的なモンスターが初めてだからちょっと困ってる。こういう時、どうしたらいいんだよ〜。ということで、困ったときのあの人を呼びましょう〜、せーのっ。
(エリル先生〜)
(主従契約を結びましょうっ!)
(はやっ)
あー、ドヤ顔のエリルが見える。川のところからずっと見てたんだろうなぁ。寝起きって言ってたし。
(それで主従契約とは……えーと、どういう感じのもの? 奴隷の奴とは違うの?)
(ちょっとだけ違います。奴隷の契約っていうのは強制的に行うこともできる、手荒な魔法ですが、契約はまた一味違って、双方の同意がなければなされないものになります)
(ほおほお)
──ざくっ。
(なるほどねぇ。……それで……っと、ちょっとまっててね)
「アン」
「はい。気付いてます」
ついと洞窟の入り口の方に目を向ける。あれは雪を踏みしめる音だ。
この山に着たのが暮れ時。オークの上位進化個体を倒した時には辺りは暗くなっていた。
こんな時間から活動する個体となると……想像はつく。
「……」
洞窟で息を潜めていると、やってきたのは……一体のゴブリンだった。
「やっぱり、ゴブリンか」
「殺しますか」
「いや、こんなに堂々とやってくるんだから、なにかあるんだろう」
──そういえば、意識してなかったけど言語理解があるんだったか。
ボルル君の言葉も理解できたんだ。少し、意識を向けてみてみるか。
「……」
「──……ここは、おれたちの、場所、だ」
聞こえてきた。これはゴブリンの声だな。
ボルル君の時よりもこころなしかクリアに聞こえる。
「だけど、今のオレたちがいる場所だ」
「!? なぜ、こえ、わかる」
「分かる分からないは置いといて。それを言いにきたのか? こっちは疲れてるんだ。戦うなら戦うし、そうじゃないなら帰れ」
ユニークスキルで言葉が分かるんだよ〜、なんて伝わるわけもないし、言うつもりもない。
それに、こっちは雪山に来る前にナグモさんとの訓練をしてたし、アンは魔素ロストの後なんだ。一回、ぐっすりと眠りたい気持ちだ。
あと魚もまだ食えてないんだ。いい加減にしろ。腹が減ってんだ。
「……おまえ、おーく、たおした」
「倒したな」
「長が会いたい、といって、いた。あと、おんな、ほかの群れ、たおした」
「長ね。じゃあ、そいつの元に案内できるのかか?」
「あるじ、ゴブリンの言葉が分かるのですか?」
「言語理解でね。成長よ成長」
最初はこの世界の言葉を理解できるくらいの効力だった『言語理解』君が、今となってはモンスターの言葉まで理解できるようになるまで成長するとは感動です。
ほかのユニークスキルも実はメキメキと成長してるんじゃ……? これは期待が持てますね。最近、まったくステータスボードなんか見てないけど。アレ見てもよく分かんないんだよなぁ。レベルの欄くらいしか分かんない。
まぁ、他の転生者とか称号Ⅰ持ちは最初から強い力を授けられるんだから、ユニークスキル君達が成長してくれないとぼくも困ります。本体がこれだけ頑張ってるんだから──って、色々と噛み締めてしまった。
ちら、とゴブリンを見ると待ってくれてる。ゲームのNPCかな? 案内人みたいだ。
「こっち、こい」
「分かった分かった。待ってくれてありがと」
ゴブリンがクイと手を動かして、暗がりの中に消えていった。どのみち、休むのはもう一仕事してからになりそうだな。
「行こう。ゴブリンの長と会えるらしい」
「倒しましたよ?」
「なんか違う群れなんだってさ。ゴブリンって言っても、派閥みたいなのがあるんだろうなぁ」
せっかく座った腰を上げると、うつらうつらと眠たそうにしていたスノーウルフがパチと目を覚まし、グイと鼻先を当てて座らせてきた。
「うぉ」
ちょっと、立ちたいんだって。というかよく寝てたな。警戒心なさすぎでしょあなた。
グイグイとお腹を抑えて立ち上がろうとすると喉を鳴らしてきた。
「もー……」
「ご主人さま。どこへ行かれるというのですか」
「…………。……? あ、そっか。声。あ……えっ、めっちゃ声かっこいい」
言語理解びっくり。ゴブリンの声が分かるんだから、スノーウルフの声だって聞こえるか。
ってか……ごっりごりのイケオジの声だった。はー……めっちゃ人懐っこいから、子どもかと思ってたけど……そりゃあそっか。進化個体の子どもっているわけもないか。
「ちょっとね。ゴブリンの長が呼んでるらしくて」
鼻先を撫でながら言うとビックリしたように目を丸くしていた。
「ご主人の声が!! そうなんですね!!」
やめて、尻尾ブンブン止めて、ホコリが、あと雪もっ。──ぼっ。消そうと思っていた火を消してくれたのは助かるけど……。
「一緒行く? 縄張り、もうちょっと広げてみる?」
「はいっ!!」
声が分かるとコミュニケーションが取りやすいな。違和感すごいけど。
「じゃあ、ゴブリンのとこ行こうか」
真夜中の雪山に僕たちは駆り出ていった。




