269 突撃っ、隣の縄張り争い
冬山のことは何も知らない。が、その戦いを見てその戦闘が「何を意味する戦いなのか」がすぐに分かった。
劣勢のウルフ。攻勢のオーク。
(縄張り争いか)
一匹だけでオークの縄張りに近づいたウルフを袋叩きにするオーク……みたいな感じか? 残虐な笑みが浮かぶ豚面に正義の色が見え隠れしてる。気の所為かもしらんが。
あの絵面も懐かしいなぁ。オークとウルフなんて、イブとケトスと一緒に戦ったぶりのアレだ。
──スノーウルフ:進化個体
──オーク:進化個体、上位個体、進化個体、進化個体……上位進化
ついでに鑑定もしておいた。こんな離れた場所でもよく見えるもんだ。
「あと、うん。この山はやばい」
遠目で見ているだけでこの迫力の戦闘。
モンスターが平気に魔法を打ってるし……あの奥にいる一際デカイオーク……初めて見る、上位進化だ。モンスターは通常個体と上位個体が存在しているのは以前に勉強をした通り。
《通常》《上位》《進化》《上位進化》《王》《統括者》
ケトスとイブと一緒に戦ったのは、下から三番目の『進化個体』の二体だった。つまり、あの奥にいるデッカイのはあの時よりも強い個体ってことになる。
「はあ〜……どこの山に放り出されたんだか……大変だよぉ、これ」
でも、この冬山を攻略するには、どうせあの群れとぶつかる運命。
ならば、することは一つしかないでしょう、と。内なるケトスとナグモさんが囁いている。ええい、うるさいぞ。分かってるって。
「……戦いますよ」
それにしても不思議だ。前は強敵を前にしたら手に汗をかいてたのに。
しっかりと小刀を握れている。気持ちも不思議と落ち着いてる。冬だからかな。
(ますたー、お助けは?)
「いいや、いいよ。ぼく一人でやってみたいんだ」
前のめりになり、グググッと足に力を込める。筋肉が緊張し、縮み、血管が血液を大量に送り出すのを感じる。
「行こう。──《身体強化》」
踏み台にした大木が折れた音が遥か後方から聞こえてきた──その音に戦っていたモンスター達も気がついたらしい。
が、それと同時。弾丸のような速度で群れの中に突き刺さっていたぼくは、オークの進化個体の首を跳ね飛ばしていた。
「っと、調整がムズいか」
『!!?』
着地し、軸足を捻る──ギュルッと音が鳴り、そのまま握っていた小刀で、振り下ろされる大剣をいなした。
綺麗な雪が舞い上がり、それらをかき分けて落ちてきたオークの首をオークの上位進化個体に向けて蹴飛ばした。まぁ、牽制みたいなもんだ。
「お試しセットだ。だから、踏ん張ってくれよ」
白い魔素を放出し、小刀に魔素を纏う。オーク達の標的が自分に変わったのが分かった。まぁ、真ん中に降り立ったから当たり前だ。
後ろで握っていた混紡を横に薙いだオークの攻撃を飛んで避け、二本の小刀を前から後ろに目掛けて突き刺す。それを引き抜きながら腕を蹴り、頭の後ろに回った。
『ブモオオオオオォオオオッ!?』
「お前さんは上位個体だったか」
この攻撃で両目が潰れてしまったようだ。ちょっとひどいことしちゃたと。頭の上に乗ったまま考え、小刀の血を落としておく。
「殺すなら一気に、一思いに」
そこからもオークの攻撃を避けつつ、最初に倒した個体の混紡を蹴り上げて握った。デカいし、重い。持ち手がでかすぎて握れないけど、両手ならイケるか。
小刀を収納し、跳躍。暴れまわっているオークの頭上へ照準をさだめ、両手で握った混紡を振り絞った。
「一瞬で」上位個体に振り下ろし、脳天をかち割った「終わらせるから」
潰されるように押し出された血液が地面に広がる中、残った三体に目を向ける。仲間がやられたというのに焦りはない。
頬に着いた血液を拭い、再び二本の小刀を手元に召喚。やっぱり、大きな武器よりこっちのほうが合ってる。
でも、もう多分、すぐ終わる。
「纏え」
号令で魔素が魔法陣を作り出していく。が、それにオークたちはようやく気付いたようだ。
白い魔素を放出していた先は地面。血で塗られた箇所は見えるだろうが……そもそも、オークたちにこの魔素ってのは見えないのか。この工夫も意味無しか。
「行け」
作り上げられた魔法陣から槍が無数に出現し、オークの身体を上方へ穿った。
降りようとしても突き上げられた身体で下へ行こうとすると、傷口が開いていくだけ。だが、さすがに進化個体がこれだけでやられる訳もない。
槍を駆け上っていき、オークの掴みを避け、その大きな背中に立つ。
「一撃でやれるように頑張るからさ。──暴れないでね」
軸足を固定するように捻ると、オークの背中の皮が奇怪な音を立てて、剥がれた。
「うわ、ごめん」
急ぎ早に小刀を振り下ろすのはウナジを目掛けて──首を落とすように。
スパンッ。
一撃。魔素を宿してる方が切れ味がいい。いつもは硬いオークの首もキレイに落とせる。
「うん。じゃあ、次は」
振るった後は次の個体の上に飛び乗り、刺さってない箇所の槍は解除すると。
『ブモオオオオオオォォォォオオオオオオッ!!!!』
「!?──っ〜!!」
上位進化個体の咆哮でぼくの身体は吹き飛んでいった。
空中で体勢を立て直すと、上位進化オークは倒れていた仲間の武器を拾い上げ、両手に武器を構えた。
「おぉ……もしかして、ぼくの真似?」
両手に大剣。力持ちなのがよく分かる。
というか、いつの間にあのオークは槍から逃げれてたんだ──……って、折ったのか。握力で槍を折るってどんな力だっての。
『ブオオオオオオォオオッ!!!』
怒り狂い、味方の死体を踏みつけながら接近するオークの足元を確認し、展開していた槍を解除した。頭上に進化個体を落とすためだ。
だが、彼は物ともせず、武器を振るった。すると、どうなるか。
『グオオォオオオオッ!!』
硬いオークが真っ二つになるところまでは僕の目で追えた。そして、そこからは見えなくなった。次の瞬間には、まるで風船が爆発したかのような勢いで体が弾け、空間を彩るように鮮血が散ったのだ。
「血が──」
思わず目を瞑ると、二本の内の大剣が振られる音。
防御をするために武器を構えると──身体が浮いた。
「……?」
飛ばされた訳じゃないし、蹴り飛ばされた訳でもない。
ただ、グイとなにかに持ち上げられ……移動させられているという感覚。軽やかなリズムで体が上下する。
血を拭って目を開くと……。
「え」
ぼくは、スノーウルフに跨っていた。
「なんで? 助けてくれた……の?」
驚きの声を上げると、スノーウルフは一回だけ吼えた。
まるで、共闘をしよう、と言っているかのような声だ。
こんなことがあるのか? でも、コイツはぼくに危害を加えようとはしていないし、あのオークの一撃から助け出してくれた。
「……」
風で上体が煽られながら、ぼくはウルフに聞いた。
「一緒に戦うか?」
『うぉふっ』
もちろんだ。と言っているような気がした。
「よし、じゃあ……共闘だ」
頭を撫で、飛び降りた。
数秒にも満たない移動だというのに距離が取れた。息を整える時間には十分すぎる時間だ。
本当はスノーウルフも倒そうとしていた。なんて目の前で言えるわけもない。でも、共闘する相手に手をかけるほどカス野郎じゃない。
助けてもらったと思ってるのかな? そこまでいいヤツじゃあないんだけど。
「じゃあ、頑張ってアイツ倒そう。で、オークの縄張りを手に入れよう」
拳を合わせるように手を上げると、首をかしげて舐めてきた。
「うぇ、すごいニオイ」
そりゃあ野生の動物の口臭なんて言ってられないか。パーフェクトコミュニケーションはまだ早いみたいだ。
『GRRRRAAAAAA!!』
遠くで吼えたオークの上位進化個体を見て戦闘態勢に入った。隣のウルフも毛を逆立て、歯茎を出して唸りを上げる。
喧嘩両成敗をするつもりだったけど、予定変更だ。
「──行こう」
オークを殺し、縄張りを奪う。
まずは自分の縄張りを持つことから始めよう。




