268 冬山サバイバルスタート!
「──ということです」
「はぁ……あのクソガキ」
目を覚ましたアンに事情を説明すると、見たこと無い顔になって感情を吐き捨てていた。
その反応だけ先生からのボコされ具合がよく分かる。うんうん。あの人の訓練は本当に痛いし、しんどいし、腹が立つこともある。分かるよぉ。分かる。
「で、今の自分たちの手持ちを照らし合わせたいんだけど……こんなもんかな」
適当に見つけた洞窟内で広げてみて笑った。
大阪の人がいたら突っ込んでくれそう「武器だけやないかーい」って。
収納袋は持ち歩いていたけど王国内で訓練をするから、鍋とか、水とか、そういうのも持ち歩いてなかった。あるのは料理をする時に食卓のスペースを食ってた自分で制作した秘伝のタレとか、簡単な調味料だけ。
あとは、あれか。アイリスの変身セット。まぁ、これがあったところで腹の足しになるわけでもない。
「アンはさ、サバイバルやったことある?」
「いえ」
「だよねぇ」
サバイバルってどうやるんだっけ? 動画配信サービスでサバイバルをしてる人の動画がオススメに流れてきたことはあるけど、それも詳しくはみてないしー……。
早々に行先が真っ暗な気がしてきた。通信魔道具も置いてきてるし。
「ぼんやりとした知識でさ。食料がなくても二週間は生きられるってきいたことがあってさ」
「はい」
「で、水がなかったら最大で七日くらいしか生きられないって聞いたことがあるんだ」
「なら、水が先ですね」
「じゃあ川……かな。でも川なぁ〜……絶対に冷たいと思う。冬山で体温を奪われるのはどうなのかな。容れ物とかなにかあれば温めれるけど」
川をとりあえずは見つけておきたいのはそうだけど……あとは容器とか、調理する器具があればなおよしって感じか。
「山賊とかいるんじゃないですか? 襲いますか」
「えっ。そんなの……あー……うーん、その手も考えとかないとか」
一瞬否定しようとしたけど割と死活問題だしな。山賊か。
「それは最終手段にしとこう。僕たちの目標はサバイバルだけじゃないってことも意識しておかないとね」
「雪山の長になる、ですか……」
「はい、そうです」なんか敬語が出てきた。真面目スイッチが入ってしまったみたい。「ふわっとした課題だけど多分、重要なのはそっちだと思う」
雪山の長ってなんだ。あのイニシアの森でも長になれない気がするし、そもそもどうやってなるんだ?
「でしたら、モンスターを殺すということになりますね」
「野生動物的なアレで、縄張りを拡大していくってことになるのかな。じゃあ、モンスターを倒し、生活を安定させるのが僕たちのするべきことになる」
話は概ね固まったので、次は役割分担だ。おじいさんは山へ、おばあさんは川へみたいに手分けしてみるか。
「アンはどっちしたい? 食料か、戦闘か」
「戦闘です」
スパッとした回答。ティナ先生の鬱憤を暴れて発散したいという顔をしてる。その気持ちを組んでやりましょう。
「じゃあ、ぼくが川に魚とか探してみるよ。イノシシとか、その手の肉系はこの時期いないだろうし」
「では、ここに辺りが暗くなる頃に再びここに集合ということで」
ヨイショと腰を持ち上げて、ぼくは川へ魚とりへ。アンは山へおでかけすることになった。
◇◇◇
魚を外で食べる時は、なんか竹串にぶっ刺して塩焼きをしているイメージがある。ので、竹らしきものを見つけて割ったのがこちらです。
「この世界に来て、やたら行動力が高くなった気がするのはきのせいじゃないはず……」
平野明人が雪山に放り出されたら、今頃洞窟も見つけられず明日の朝には死体になっているだろう。もしかしたらぼくは適応力が高めなのかしら。
「何本いるかなぁ……いっぱいしておけばいいか。使いまわしたいし」
更に細かくする作業は後で地道にしていけばいいから、適当な長さの奴を仕入れておこう。殺菌とかは治癒魔法の万能な技、その名も「浄化」をしたらいいだろうし。うん。後で考えよう。
そんなこんなで目的の川にやってきた、けど。
「魚釣りなんてやったことないなぁ」
寒いし、辺りは既に暗くなりかけている。早くしないと山の暗闇は怖いぞ。それにこの山がどんな山なのかもしらないし、警戒は怠ったらダメです。魔素感知くん、頼みますよ。
「桃とか流れてこないかなぁ」
こんなでもちゃんと警戒はしていますとも。えぇ、ほんとです。
なんかキャンプみたいでテンションが上ってるとかそういうのは一切ないです。久々の自然だぁ〜とかそういうのじゃないです。いや、ほんとに。
(ますたーますたー)
「はい。なんでしょうか、エリルさん」
(今、起きたんですけど……)
「よく眠ってましたね」
(これはいまどういう状況で……?)
「いまは魚をどうやって取ろうかと悩んでるところです。寒いし、冷たいしなぁって」
しばしエリルは悩んでいたけど、なんとか納得したらしい。記憶とかを覗いたかな?
(でしたら、雷魔法で一撃かと)
「……感電か」
泳いで魚を見つけて〜って思ってたけど、そんな原始的なことをしなくても魔法があるんだった。
もしや、ぼくはまだこの世界に慣れてないのか? 適応力があるとかさっき思ってたのが馬鹿みたいだ。
ちゃぽん、と人差し指を川に付けてみる。
「ちべたい」
こんな冷たい川で泳ごうしてたと思うと笑えてきた。まぁ、反省は次に活かそうじゃないか。……とりあえずは、
「……《雷よ》」
力のある言葉。川全体に紫色の電気が走り、魔法が届いた範囲に蒸気が立ち上って、ジュゥゥと焼ける音が聞こえた。
「出力……間違えた? 乱獲どころじゃないなコレ」
川魚がプカプカと浮かんで流れていく。あぁ、待っておくれ。あとは君たちを取る方法を思いつけばいいんだけど、それまで待ってほしい。
「取るのもなにか魔法でできないかな」
(それならいいのがありますよ)
「いいの?……あっ──」
「(《風よ》)」
思いつきで発声してみると、エリルと声が重なって川魚達が川の流れから離脱し、空中に吹き飛んでいった。
「わあ……出力よ」
(同時にやっちゃった結果ですね)
でもやってみるもんだ。これなら食料の確保はしばらくは十分かな。
ふよふよと手前側に運んできて、魚を収納袋におさめる。半焼けじゃないか? 竹串とかもしかしたら要らなかったかな。
「……んっ」
なにか『魔素感知』にひっかかったのを感じ、顔を上げた。
「──これ」
北東方向で戦ってる動きが見える。
いつもの癖で付けていた眼帯を外し、魔素感知に集中してみると分かった。一つの魔素を除いて、他は同じ魔素がたくさん。
「アンじゃないな。モンスター同士の戦いってこと……なら」
食料調達も順調に終わったし、久々にモンスターと戦ってみるか。
手元に短刀を召喚し、魔素感知の方向へ向かっていった。




