265 蕎麦先生との訓練の様子
ソバドアがアルマへと死霊術士の勉強を始めてから数週間がたっていた。
勉強外でも新聞やソバドアが置いていっている勉強の資料などに目を通し、以前は読めなかった言葉や文章が読めるようになって、読む速さが早くなり、頭で一々翻訳をせずとも自然と理解できるようになってきてからは学習スピードが一段と上がった。
さすがは勉強熱心な日本産まれ、日本育ちの女子高生である。
死霊術士の勉強も文字と魔導の初期段階を終え、簡単な死霊術ならなんとかできるという段階へとステップアップしていた。
これもソバドアの指導力の高さと嫌われるのが前提の教育方法の賜物だ。
しかし、朝から晩までの休憩を挟みながらも勉強だ。
アルマも転生前は兄も通っていた進学校の勉強について行っていたとはいえ、それは想像以上に過酷なものであったはず。……いや、普通の身体なら耐えられないハズだ。
「ほら、ここなら人目につかないから魔法を使ってみな」
「えー! クラディスくんに外で魔法を使うなって言われてるんだよ!」
アルマの種族名は『理外者』。
死なぬ体を有す魔族。
過酷であるハズの勉強内容、勉強時間、それらを耐えることの出来る耐性がほかの種族と比べて段違いで高い。
『痛覚無効』『疲労無効』『虚弱無効』『熱無効』『寒冷無効』『隷属化無効』『状態異常耐性無効』.......etc
アルマが『観測者』によって殺された時の痛み、体が熱くも寒いあの感覚を二度と味わいたくないと耐性に全振りをして自らを死なぬ体へと設定。そして自分のLuckのポイントを削って『死霊術』を取得。
クラディスとは違い、スキルに全振りで転生したアルマは一般的な『転生者』としてこの世界へと転生をした。
「いいから、やってみな」
「うー……分かったよ……」
ソバドアの言った通りに死霊術を発動をすると、白銀の世界に黒炎ノ骸骨騎士が降り立った。
「ほぉ、立派なのが出た。前から発動できてたって言うのは本当なんだねぇ」
「ふふん! あ、でも、魔素とか発動までの時間とか色々を短縮するためには基礎の勉強が必要なんです!」とクラディスからの受け売りを堂々と言ってみる。
「だから勉強をしてるってこと、か」
ソバドアは頷くと黒炎ノ骸骨騎士の方に歩いていき、ぺたぺたと体を触っていくと中央の肋骨の中心にある魔石《心臓部分》に手を伸ばした。
「はぁ〜……根本的な魔素量が桁違いなのか」
「そうだ、私がやったんだからさ! せっかくだから蕎麦先生はどんなのを召喚できるのか見せて欲しいなー」
「私のかい?」
「うん!」
「ふむ……」少し首を捻ったが。「まぁ、それくらいならいいか」
黒炎ノ骸骨騎士から離れていき、広場の中央までいくと立ち止まった。
「『出てきな、十夜』」
ソバドアが言葉を発すると黒の魔方陣から翼の生えた黒い悪魔が現れた。真っ黒の瞳。筋骨隆々な身体。
「わぁ……! 悪魔? いや、なんだ? デーモン……」
悪魔もデーモンも意味的には同じだが、アルマが生前の世界でみたことがある「悪魔」というのはやせ細った身体で、トランプに書かれているようなものだ。
だが、目の前にいるのは……存在感が違う。
「死霊術は分類上は闇魔法だから、霊体を呼び出すとこうなるのは当たり前だろう。人によっては降ろすやり方が違って、完全に影みたいな奴を呼び寄せる者もいるが……まぁ、それは追々さね。あと、同じ魔法陣って一緒くたにするのは勉強不足だよ」
現れた十夜という悪魔のような見た目のモノに指示を送ると、黒炎ノ骸骨騎士を手に持っていた大きな鎌で切り分けた。
アンの攻撃やクラディスの攻撃……それにあの迷宮にやってきていた冒険者たちの攻撃を防いでいたボルルの装甲がいとも簡単に。
「ちょっ! いきなり攻撃を!……いいのかなっ! やり返しちゃうよ?」
「いいよ。やってみな?」
修復させた体で、十夜という悪魔みたいな奴に攻撃するように命令を飛ばす。目の奥に鬼火が宿り、武器を構えて振るった。
「止めずに受け止めな」
刃を止めようとしていた十夜はソバドアの命令で手を下ろし、黒炎を纏っていた大剣は十夜の肩に当たって……。
「えっ? 止まった」
「じゃあ、これでもう恨みっこなしだろう。いいよ、十夜」
「ボルル君っ! 防御で!」
十夜が動くと骸骨騎士に抵抗するように指示を飛ばした。
だが、格が違うのか。能力値が違うのか。触れれば消えぬ炎ごと吹き飛ばすような勢いで振られる手刀と、片手で握られている大鎌の連撃で、修復が間に合わずにそのまま消滅をしてしまった。
「えっ、うわっ……ボルル君が……」
「死霊術は高度な者を召喚しようとすると死霊との契約をしないといけなくなる、それが上級の死霊術士への第一段階さ。この十夜はかつての英雄だった男の成れの果て。悪魔じゃあないよ。といっても、暗黒森の番人ではあったがね」
かつての英雄の成れの果て……言い換えれば、死亡して、ソバドアにこうやって呼び出される前は英雄だったということ。
「そういう奴らと交霊をしないといけないのにアンタはまだそれが出来ない。まぁ、直ぐにできるようになるだろうけどね。それができるようになれば、単純に死霊術をするだけじゃないようになくなって……そこから先はお楽しみさね」
後ろに手を組みながら、ひっひっひと笑うソバドアにアルマは首をかしげた。
「交霊……会話するってこと……?」
「あぁ、そこらは召喚術となんら変わりない」
手をクイと動かして十夜を消すと、ソバドアは楽しそうに口角を上げた。
「だが、死霊術士はそこで終わらない。アンタが持ってるのを上手く使っていけば最強の存在になれる。そんじゃそこらの魔導士なんか目じゃない、アンタの弟やあの森護黒半人よりも強くなれる職業さ」
「最強に……ホント?」
「あぁ、私は嘘をつかない主義だよ。だから、あたしゃあのお嬢様に仕えてんのさ」
「〜!!」
最強と聞き、喜ぶアルマ。
今の自分の実力はそれほど高くないと感じている。基礎的な部分が吹っ飛び、いきなり応用が使えるのだ。
何かしらほころびが出てくるだろう。そんなことはわかっている。
だが、突き詰めていくと……最強になれる可能性がある、と。
「ので、これからやっていくのは私が契約してる奴らとの交霊と契約をして……」
と話しかけたソバドアにアルマは抱きついて、顔を見上げた。
「蕎麦先生! 私、強くなるためにはもっと頑張れるよ……! もっとみんなの役に立ちたいんだもん!」
「いい心意気だ、それに応えれるように私も頑張らないとねぇ」
その言葉を聞いて満面の笑みを浮かべ、頭を撫でて。
「うん! 蕎麦先生も頑張ってほしムグッ――」
「アンタの弟は口の利き方がちゃんとしてるのに、アンタはどうしてそんなに我が強いんだろうね」
喋る頬をつまんだ。あうあうと言うアルマは、笑いながら。
「兄さ――クラディスくんは自慢の弟だよ。弟のことを褒めてくれて私は嬉しい」
「私はそんなアンタのことも嫌いじゃないけどねぇ」
「おっ、ほんとですかぁ!」
「うるさいのは嫌いだけどね」
「えぇっ」
順調にネクロマンスを学んでいくアルマは、ソバドアの指導の元、成長を続けていた。




