264 訓練を覗いてみよう~!(まだ訓練するのか)
こうしてまた訓練の日々が始まりました。この世界に来てから、修行ばっかりだよー……そんな愚痴がでてしまいますが、仕方がありません。
弱いのが悪いんだ!! って言われたらそれまでだし。戦いの中で常に進化し続けれるような主人公補正もお持ちではないので……コツコツとがんばります。
今日は、そんな日常をかいつまんでご紹介したいと思います。
まずは早朝。
ぼくが朝起きて色々と支度をしていると、家のドアがノックされる。アルマの先生だ。
「やぁ、坊や」
「おはようございます。先生」
だいたいアルマはこの時間は寝てる。どうやら夜遅くまで勉強をしているみたいだ。文字が分かるようになってきたら「やばい! 分かる! 楽しい!」と勉強への意欲が湧き上がってきたらしい。ある程度分かると、やる気がでるのはなんとなく分かる気がする。
そんなアルマを起こすつもりはないようで、起きるまで世間話的な時間で話すことにしてる。
アルマさんから「じゃんっ! 紹介しますっ! 蕎麦先生でぇす!」って聞いた時は可愛らしい名前をつけたと思っていたが、ソバドアという名前だと聞いて、ぼくでも同じ名前を付けるだろうなぁって思った。兄妹って恐ろしい。
そして、話をしていると分かる。ティナ先生とは少し方向性の違う厳しさを持っている人だなって。
「アルマ姉さんの勉強の方は順調ですか?」
「順調っちゃあ順調だねぇ」
見た目はすごく厳しそうな細身のおばあさんだ。
だけど……これは気品というのだろうか。紫色が似合いそうな雰囲気を持っていて、博識であると体全体が表現している。
本人はそういうつもりは無いのだろうけど、本に出てくる鼻が大きくて細身の魔女と瓜二つの印象がある。
「姉さんは頑張り屋さんなので手間がかかると思いますが、どうかよろしくお願いします」
「……本当に、あんたが弟なのかい?」
出したホットコーヒーを飲みながら、目を細めて疑うような目を向けてきた。
「ハハハ、よく言われます」
「はぁ〜……まぁ、私はあの子のことは好きさ。あんたに言われんでも立派に育ててみるよ」
「ありがとうございます」
厳しいと言われていても、ティナ先生の知り合いの人だ。悪い人ではないのは確かだ。
その後すぐにアルマさんとアンが起きてきて、朝ごはんを簡単に食べた後に各々の訓練に行くために解散をした。
三人の今のスケジュールはこんな感じ。
僕は朝はペルシェトさんとの勉強会で、夜にナグモさんとの訓練。
それで僕は一度、体を壊したから二日に一回になった。
アンは朝は僕と一緒で行動して、昼以降はティナ先生の……あの、きつい訓練。
こちらもティナ先生が毎日やらずに二日に一回になったみたい。
アルマさんは朝から夜までソバ先生とのお勉強会。
こちらは毎日だ。
それぞれに専属の先生がついたことで、流れで下位ダンジョンの予約を取ろうとしたら丸さんに止められた。ぼくらはまだ行けないみたいだ。まぁ、忙しいみたいだからこれ以上、仕事を増やすのもなぁって。
ということで、いつに行けるか分からない下位ダンジョンの攻略をとりあえずの目標に掲げて、努力をしていくことにしました。
はいっ、報告終わりっ!!
ぼくもナグモ先生にボコボコにされにいってきますっ!!!
◇◇◇
「ほれほれほれ!! 主を護るという胸臆の丈はこの程度か!!」
「まさか……! お前の差しでは計れないほどの丈にきまっているだろう……!!」
雪が積もり、除雪なども一切行われていないデュアラル王国の森林地帯『イニシアの大森林』でそれは行われていた。
昼から夜へと行われるティナからアンへの訓練内容は、クラディスに行われていた内容とは少し異なり、
『気配を消したティナと魔物の同時攻撃を捌き、殺す気で反撃する』
というものだった。
気配を消しているティナの攻撃はアンはおろか、同時に攻撃をしているはずの魔物ですら存在に気が付かないほど。
だが、アンの方はクラディスの時とは違ってスキルの使用許可が出ている。アンに足らないのは『持久力』と『魔素の使い方』『スキルの使い方』だ。それらを伸ばすためにはスキルの使用が必要だった。
「ワタシに一撃でも当ててみろ」
姿が認識できないティナの言葉が聞こえる。
体勢は不利、敵の姿は見えない、こういう時に闘技場にいた自分であるならどう裁くのかを考える。
そして、1つの回答に思いつく。
迫り来る魔物に一瞬目をやり、両手に力を込めて地面に振り下ろした。
地鳴りが響くと、雪が舞い上がって小規模のクレーターを作りあげた。
その衝撃で周りにいた魔物は吹き飛ばされて行き、ティナだけに意識を向けることが出来る。
「悪手じゃの〜」
しかし、舞い上がった霧のような雪で視界は遮られた。
その雪霧から伸びてくる木槍。
本来であるなら直撃をするタイミング、回避不可能な一瞬の隙を狙って撃ち放った攻撃だった。
「そこにいたのか、クソガキ」
槍の太刀打ちを脇で固め、グンっと上へと梃子の原理で放った。
空中に浮かばせたティナへと追撃をするように高く飛び、両手を頭上に結んで上体を反らした。
「ふむ、あのような環境作りはわざとか」
言葉を無視し、空中へと放り投げられたティナの体へと振り下ろされる二つの拳――
その瞬間、アン体はティナの体よりも高速で地面へと叩きつけられた。
「ぐっ……!?」
「ぬはは、先読みはワタシのほうが上手みたいじゃのぉ、クソガキ!」
何が起こったのかと情報を得ようとすると、ティナの片手にもう一本の木槍が握られているのが見えた。
アンが粉塵を巻き起こした時に、予備の槍を手に持っていたのか。
「それで……どうやって……先手はわたしが」
「ほれ、先読みはワタシじゃ。ワタシが無作為に上空へと放り投げられるわけなかろう」
「……分かってたのか」
「お主が攻撃を仕掛ける前に槍を振り下ろしただけじゃ。そんなものも見えぬほど作戦が上手くいったと思い込んでおったのか? 視界が狭いのぉ。視界が狭くて良いのは肉食動物だけじゃぞ。お主のような……草食は視野を広く持たぬとなッ──!」
喋りながらもアンの体を槍の石突で魔物のいる方向へと投げ飛ばした。そのモンスターは先程の衝撃で狼狽えてはいるものの、目の前にゴロンっと少女が転がってきた。
アンへと一気に襲いかかる魔物達。
「……!!」
「ほれ、まだ訓練は始まったばかりじゃぞ。お主の舐め腐った態度と根性を叩き直してやるから、まだ音を上げるなよ?」
──考えを改める必要がある。
クラディスがティナの訓練を「今まで感じたことがないほどキツイ訓練」と言っていた。でも、大丈夫だろうと。主人のことは信用はしているのだが、なにかぼやっとした自信があったのだ。
が、違う。
これは、気を抜くと死ぬし、気を抜かずとも死ぬ。
ティナが手を抜いているのは感じている。それでも、グレードを落として全力で戦っているような手応えがするのだ。
コレは訓練なんて生易しいものじゃない。
ティナが今のアンよりも少し強いレベルの相手になり、武器を振るってくる。つまり目の前にいるのは……全力を出し、思考を回し続けないと勝てない相手。
アイツは訓練相手なんかじゃない。ただ戦闘を楽しんでいるだけ。まだナグモという先生のほうが理性的で、課題を明確にしてくる。
ティナのスタンスは「課題解決は自分でしろ。相手はする」といった放置主義もいいところのやり方。要するにコレは「オマエの訓練を手伝うのだから、私の娯楽にも付き合え」というワガママなのだ。
「上等だよ、クソガキ……ぶっ殺してやる!」
そんなワガママお嬢様を前にして、いつかその余裕な面を歪ませてやる、とアンは誓った。




