259 ケトスは自分探しの旅へ
いつもより、空気が濁ってると感じた。
そりゃあ、魔族に国の端っこが襲撃されたのだ。国全体の活気がなくなるのはそうだ。
日が暮れてきたというのに、カンカンッと工事をしているような音や、せわしなく人々が歩き回っているのが目に入る。
それらも相まって……息苦しく感じた。
「改めて……」仮面を外さないようにはめなおした。「ぼくたちは敵なんだな」
忘れては思い出す。自分たちがいま、どこで暮らしているのかを。
そのフィルターがかかると、街路を堂々と歩くのですら恐ろしい。
クラディス・ヘイ・アルジェント個人はフーシェンに目をつけられ、転生者だから監査庁にも警戒しなければならない。
(ケトスだって……今日、旅立つ予定だったっていうのに……)
宿舎につくとフードを外し、白髪を外に出した。
──ガチャ。
(鍵が……)
誰か帰ってるのかと思い、ドアノブをひねった。
「ただいま……」
「あ、お兄ちゃんー!!」
「あるじっ!! ご無事でしたか!」
玄関まで飛んできたのはアンとアルマさん。
そして、そのさき……居間のテーブルに座っていた人物は、振り返りながら笑った。
「やぁ、元気?」
「……なんでいるのさ」
そこには、さっき連れて行かれたばかりのケトスがいた。
ケトスはクイと指をさすと、窓が開いていた。
イブの真似事か……。
「ぼくがあんなのに捕まるわけないじゃん」
おそらくアルマさんが出したであろうお茶を飲みながら、ケトスはそういった。
◇◇◇
「二人は大丈夫だった……?」
「はい」
「大丈夫だよ!」
「助けに行こうとしたら……ギルドの職員に止められてしまい」
あの流れから逆行しようとしたら、そりゃあ止めようとするよな。
でもアンを止められる人ってなると……ナグモさんとかかな?
「でもよかった。結果、無事だったんだし」
「アイツには厳しくいっておりますので」
「厳しく言われたよぉ〜。結局、最後まで仲良くできなかった」
ハハハと笑うケトスにアンは鼻を鳴らした。
「あと、さっきお兄ちゃんって言ってたけど。ギルドじゃお姉ちゃんとかなんとかって言ってなかった?」
あ、しまった。佳奈もしまったって顔してる。
「……ケトス。紹介するよ。こちらのお嬢さんはアルマさんで、お姉ちゃんではなく、ぼくの妹」
「ってことは転生者?」
ビクとアルマさんの身体が強張る。ケトスって柔和な雰囲気でも圧が凄いんだよ。
「そう」
「妹にしては大きいけど」
「だから今はぼくが弟って設定にしてる。ね、アルマお姉ちゃん」
「く、クラディス……くん」
「面白いなぁ。転生したらそんなこともあるのかぁ〜……」
頬杖を付きながら呟くケトスに、そういえば、と。
「どうやって逃げてきたの? まさか……暴力?」
「いやいや、穏便に済ませたよ。事実、今、調査を受けてるところ。転生者だなんだってね」
少し目を横に流し、うん、と小さく呟いている。
今調査を受けてる……? どういうことだ?
「クラディスに見せたことなかったっけ? コレ」
手を上に上げると、ケトスがもう一人出てきた。そちらの方のケトスに手を振られ、振り返す。
「ケトスが……もう一人……」
「なんの地獄ですか」
「わぁ、凄い! 手品ですか!?」
「あははは、いい反応貰えて嬉しい。最近作ったスキルでね。まぁ、全然使えないの。あの魔族にやられちゃってさぁ〜……見かけだけ。同じくらい戦えたらいいんだけど」
手を下げるともう一体の方が魔素になって消えた。
スキルを作った? デタラメだ。というか、もう一体のケトスが同程度の戦闘力を持ってたら……それこそ、手がつけられないじゃないか。
「えーと、じゃあ……本体は目の前にいるケトスってこと?」
「そうそう。監査庁に連れて行かれた方は分身の方。鑑定をされたらバレるだろうけど……ま、別にいいでしょ。あんだけ強引に連れて行ったんだからさ」
「でも祖国に誓うって言ってたでしょ?」
「それ、言っちゃう? 僕どこ出身か分かんないもん。とりあえずどこかわかんないけど誓っておいたよ」
「まずくない? 監査庁って一応は、その公的な機関でしょ」
「いいのいいの。監査庁っていっても、協会にまではそこまで圧力をかけれないし。掴まってもぼく勇者だし?」
お茶を飲みきり、椅子から立ち上がったケトス。
こういう強気なメンタルを見習いたいよ……。
「それじゃ、僕は馬車待たせてるから。お茶、美味しかったよ。えーと、アルマさん?」
「は、はい! お兄ちゃんのお友達って聞いてたので……」
ジトとこちらを見つめてきた。友達だろうがい。そんなに見るな、恥ずかしい。親友って言ったほうが良かったかな?
「……で、もう行くの?」
「なんだ〜? 寂しそうな顔して」
「うるさいなぁ、はやくいけって。ね、アン」
「そうだ。はやく行け」
くしゃと笑ったケトスは、玄関ではなく窓に乗り出して外にでた。
外に靴を置いていたみたい。変なところ律儀なんだから。ぼくも窓に手をかけ、身体を乗り出した。
「頑張ってね」
「クラディスもね」
と、お別れの雰囲気になりかけた時に思い出した。
「あ、そういえばさ。ケトスがしたいことって結局なんなの?」
アサルトリアに訪問した時に、協会に行く時に教えるって言ってた気がする。今、聞いておかないといつ聞けるかわかったもんじゃない。
「あれ? 言ってなかったけ? 今更言うことでもない気がするけど……ぼくはね……自分が何者なのか知りたいんだよ」
「何者って……自分探しの旅にでも出るつもり?」
「違う違う。死んだ父さんとの約束。この世界で、ぼくのルーツを辿るんだ。どこで生まれ、誰と子どもなのか。母親は誰なのか。……それを知ってどうするって話だけどね」
「それで協会に?」
「協会は踏み台だよ。王国の軍に入れば見られるけど、軍隊ってタマじゃない。だから、協会で名を上げて、王国からスカウトの条件にするつもり──ぼくが誰なのかを教えてくれたら入ってやるよって」
なんだか、想像もつかない話だった。
自分のルーツ……か。異世界ならではの考え方なのかな。
「……知れるといいね」
「うん。逆に考えるとそれしかやることがないから暇でね。だから、クラディス。はやく協会に来てね待ってるよ」
「ぼくが? 無理無理」
「じゃあ一生、この家に住んでろ!!」
「デッ!?」
手を横に振っていたぼくの頭にチョップをして、ケトスは雪道を走っていき、少し走って振り向いた。
「何も悪さするんじゃないぞ〜! ぼくに殺される前に、死ぬなよ〜!」
「しないっての。早く行けって! シッシッ!」
「待ってるからね! 早めに来ないと置いてくぞ〜!」
「はいはい。待っとけって。なるべく早く追いつくからさ」
「ハッハッハ! そうこなくちゃ!」
僕の返答を聞くとまた笑って雪道を駆けて行った。
(最後まで発破をかけるなんて……お人好しめ)
こんな時までぼくのケツを叩いてくる。
ケトスらしいよ。ほんと。
こうして、ケトスは旅立っていった。




