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256 現段階で出せる全力


「いつまで逃げるつもりだ……!!」


「うわっっとっと……」


 魔族を連れていくような形でケトスから離れていき、お互いが戦い場所を作った……って言ってもここらへん来たことないな。どこらへんになるんだろ、ここは。


 周りの建物は相変わらず壊されていて、大きな街路を挟んだ向こう側はまだ建物が残っている。

 ……魔族はここから門の方に移動をして行ったってことか。

 

「もう逃げないよ」


 場所的にもここが良さそうだ。ここにしよう。ここなら広いし、人目に付く……ひとめにつく……うーん、まぁ、やるしかない。


 僕以外の人を僕が演じて、僕より目立たせる。つまりこのお面をつけている間は本気を出してもいいんだ。別人格が〜!! ってのをリアルにやる機会なんてないからな、ちょっとワクワクはしてる。


 でもキャラは作っておかないといけないな、声も少し変える必要があるか……? ん、ん”ー……。

 とりあえず男性じゃなくて女性っぽい感じでいってみるか、声もこの体ならまだ出来そうだし。声変わりもまだ迎えてないしな。

 

「なんだ、今更怖気付いたか」


「……?」


 なんで? あ、色々と考え事してたからか。というか、待っててくれたんだ。案外優しいのか? 


「怖気づくわけ。むしろぼ――わたしの攻撃がどこまで通用するかが楽しみでワクワクしてるよ」


「ワクワク、だと?」


「ウキウキでもいいぞ」


 なんだか自分を解放したようでテンションが上がってくるな。


「ホザけ! 下等種族が!!」


 お、剣を使うのか。魔法タイプじゃないみたいだな。

 そして既に目は黒くなって、金色になってるから……ノアが魔素を解放してた時と同じ状態か。黒くなるの分かりやすくていいな。


 ──本気、か。


「ふんッ……!!」


 凄まじい速度で連続的に振られた剣の衝撃波が、幾つもこっちに飛んできた。衝撃波。後ろは状態を保ってる建物がある。避けるのはダメか。


「すぅ……ッ!」


 飛んでくる方向に沿わせるように武器を振るい、全ての衝撃波を相殺。理論上小刀の剣速でも行える。

 重なりながら目の前に来た追加斬撃を全て小刀で殺し、こちらも同じように衝撃波を飛ばしてみた。


「はんっ、真似事を!」


 同じシチュエーション。恐らく魔族は同じように剣で消すようにするだろう。それを予測し、一気に魔素を使って自己強化スキルの重ねがけを行い、地面を蹴った。


「プライドが高い奴は、次の動きが読みやすいっていうけど」


 案の定、剣を構えている魔族が見えた。


「やっぱり」


 じゃあ、試したかったことを試すか、と。


 ――って、アレっ? なんか魔素が感じやすい……。


 なんだこれ、何が起こってる? 

 体が軽い、体に流れる魔素が明確に明瞭に分かる。

 相手が纏う黒い魔素も同時に見える。


 ……つまりは、調子がいい。


 違和感は違和感ではあるが、これはいい違和感だ。


「……これなら」


 試したいと思っていたことを急遽変更することにして、魔素を線状に伸ばすことにした。

 武器に魔素を纏うのを試したかったけど、せっかくなら挑戦だ。


「──」


 空中の魔素と僕の魔素の差別化。

 反発をするように。

 自分の魔素が自我を持つように。

 自然の魔素に包まれるように……。


「シッ!!――どうだ!! 同じように相殺をしてやったわ!!」


 魔族が何か言ってるがそんなことどうでもいい。

 とりあえずは、想定通りに動いてくれたみたいだな。


 ――ピンッ。


「できた……っ!」


 お世辞でも綺麗だとは言えない。

 ぼやけてるし、長さも足りない。

 だけど今まで練習していた中で、最もいい出来だ。

 

「貴様、なにを……」


「以前にオマエら魔族が見せてくれた技さ」


 伸ばした線に魔素を追加投入後、膨張させて魔法へと転換させる。

 僕はこれが成功した時にやってみたい技があった。この技なら見栄えがいいと思う。


「……『熱界ノ光《カロツェレイ》』!」


 櫛が重なるように、キレイで、殺傷性の高い魔法の出来上がりだ。


「ヌゥッッ――ッ!!!」


 魔族を挟む形で伸びた魔素ラインが膨らみ、魔法陣が線状に所狭しと展開されていく。

 その魔法陣から出た熱光線が魔族の身体を貫く。上へ、下へ、どこに逃げても逃れられないように──拘束するように。


 できた。

 ようやく実現したかったことができた。


「でも……なんでできた?」


 できた喜びと、なぜ出来たのかが理解ができない。

 未だに魔素が多くなった気がするし、僕の魔素も自然の魔素も敵の魔素も感じやすくなったような気がする。

 前もなんかこんなことあったよな、いつだっけ……。んぅ〜?


「フンヌッ!! 効かぬッ!!」


「……おぉ、マジ?」


「この程度の魔法……! やはり所詮は人間!!」


 意図せずに出力を絞っていたのか? あ、魔素を線状にすることに意識を持っていかれていたのか。


「なるほど」


 魔法は中級の魔法技術を応用した複合魔法。だから使用された魔素は予想以上に多かった? そもそも魔素は足りていた? 

 体の外に出た魔素はどうなるって言うのもまだ知らない。

 そもそも座標を連続指定で補うことが出来る技術じゃないのか?

 頭がグルグルする、思考が同時に三つも四つも幾つも処理をしていく。


 次には成功するように勝手に計算がされていく。


「……気分が悪い」


 ぷはと口をあけた。

 熱がこもって仕方ない。

 お面の下で、ぼくはベロを出した。


「うぇ、自分が、自分じゃない気分だ」


 でも、この感覚ならまだできるはず。いけるだろう、ぼくの身体よ。

 反応なんて返ってこないけど、分かる。いけるはずだ。

 それじゃあ、次は本来やろうとしていたことをしてみよう。


 ――魔素の放出を最大限に。


 力を込めると、よく分かる。

 いつもの僕が出せる最高よりもさらに上。本当に、この体はぼくの身体なのか……?


(エリル……やろう)


 昂ぶる気持ちを抑えつつ、声をかける。


(まっかせてくださいませ!)


(今回は制御しなくていい、目の前のあいつに全部をぶつけるつもりで動こう)


(わっ! 中級以上も有りですか!?)


 飛び跳ねるような声が聞こえて、ぼくも口角が踊った。


(うん。お互いに火力を意識してやろう)


 小刀を持ち、魔素を層のように纏わせる。

 あとはこの状態を保つようにして、体に自己強化スキルを重ねがけをしていく。そしてシンプルに僕が魔法を放てるように──魔導を頭の中から引っ張り出せるように――


 それは、偶然だった。

 本当に意図をしていた訳じゃない。

 心が踊る方へ。本能が赴くまま、やろうと思ったこと。

 

 昔に、こうできたらいいな、と想像していた理想形ができあがっていた。


 武器での物理攻撃。

 武器に纏わせた魔素での半自動で発動される簡易的魔法攻撃。

 自分が放つ魔法攻撃。

 エリルが放つ魔法攻撃。

 

「全力で体を動かすなんて……初めてだよ」


「貴様さっきからなにを言って――」


「動け」


 自分が出せる最高速で地面を蹴り、魔族の体を地面へとたたき落とした。


「グッ──!?」


 歪む。

 楽しい。

 早すぎる。

 あぁ、いいなぁ。この感覚は初めてだ。

 

「なぁッ!!?」


 そのまま再度上空へ放り出すように地面から鉄の槍を召喚させて、上から鉄の壁を叩きつけた。


「ぐっ、あ──」


 腹部が貫かれ、身体が潰された魔族は混乱状態だ。

 心配しないで、僕も自分のことが分からないから。

 

 解除した瞬間に生まれた残骸で、更に鉄の棒を作り出しその上を全速力で駆けていく。目指すは空中で苦しむ魔族の元へ。

 

「ふっ、ざけるなぁあああああ!!!!」


 魔族にたどり着いた瞬間に解除、同時に四つの物理と魔法の混合攻撃を繰り出していく。

 

 回転数の早い小刀が魔族の皮膚を抉り、そこに全属性の初級魔法がランダムに放出して空中に『火槍《ファイアランス》』『衝撃《インパクト》』『風刃《ガウィン》』が現れて、消えて、また現れる。

 

「『熱界ノ光(カロツェレイ)』『稲妻《ライトニング》』『鉄槍《アイアンランス》』『風大槌《ウィンドパウンド》』」


「なんだッ……!? この連撃!!?」


 ぼくの魔法と同タイミングにエリルの魔法が発動されていく。


(『雷轟《ロベゴ・トゥル》』『氷槍掃射《アイシクルファイア》』『極圧《プレシオル》』『黒炎ノ纏(イグニ)』!)


 右から左から正面から後方から、四方八方から襲いかかる猛攻撃。


「ちょ、が、お、ま──」


 伸ばしてきた手を切り刻み、そこからも魔法が発動し、体内で爆発をしていた。

 魔族の体は無数の穴が開いて、手足は千切れ、抉れ、血液を空中で撒き散らしながら朽ちていく。

 そして、それは僕の体も一緒だった。

 脳みそが負荷に耐えられず、オーバーヒート状態なのがよく分かる。

 お面の下では鼻血が垂れて、意識が朦朧としてくる。

 

「っぅあ……!!」


 空中に滞空するためのスキルなんてまだ持っていない。自分の体を浮かし、暴れ回るために逆方向に風魔法を放出しているだけ。燃費がすごく悪い。

 既に消えた魔族の体に剣を振ると、一気にバランスを崩して空中から地面へと真っ逆さまに落ちていく。


「あ」


(ますたー!? うわっ、うわわっ!! すみません!! 本当に魔素を使ってしまって……!)


 聞いたことの無い魔法名を生き生きと叫んでいたエリルがようやく気づいてくれたようだ。

 

(『風よ』! あれ、あっ、あっ!! そっか魔素をこれ以上使うと。えっ、ど、どうしよう)


 高さ20メートルほどの高さからの自由落下で僕の体って死ぬのかな。

 耐性とかって意味あるんですか? どうなんだろ。

 もう、身体いたすぎ……。

 

(エリル、僕のからだって落ちても大丈夫?)


(死にはしないと思いますが……)


(ならいいや)


(打ちどころが悪かったら不味いかもですね……)


(不安になってきた)


 力尽きた僕のからだはそのまま崩壊した建物の上に勢いよく叩きつけられた。ガンッゴンッと高いところから低いところへ打ち付けながら、落下。


 打ちどころも悪かったとは思う。瓦礫の尖ってるところに後頭部を思いっきり、ぶつけた。


 でも、生きてる。


「……いよいよ化け物じみてきたな、僕の体」


 すっごく痛かったけど、生きてる……。

 結局は動けないから誰かに回収されないとここからは動けないな。

 まぁ、魔族を倒せれてからいいってことにするか。


「はあ〜……」


「ご、ごめんなさいますたー……使いすぎちゃって」


「絞りカスみたいになってない? 大丈夫? 身体の感覚ないんだけど。手足とかある?」


「あるにはありますが……結構、血が」


「いつもボロボロじゃあん……」


 仮面を外して空気を思いっきり吸い込みたいけど、それもできないや。

 

「そういえば、なんで……急に身体の調子がいいんだろ」


「仮面の効果……っていっても違いますもんね?」


「うぅん……なんなんだろ。いつもと違うの……服とか。強くなってるっていっても、なんか違ったし」


「眼帯じゃないですか……?」


「眼帯〜……? そんなことある〜?」


 ポケットに入れていた眼帯を出して、鑑定をしてみた。

 そういえば、これって鑑定したことあったっけ?


 ▶名称:東魔女ノ眼帯

 ▶効果:治癒魔法を主とする者の魔素消費時の魔素消費量75%減、魔素放出60%減。


「…………」


 あれぇ……?

 もしかして、これが原因……??


「エリル……これさ」


「これが原因ですね。絶対に」


「やっぱり? そうだよなぁ……」


 そうなると、今までが「ぼくが制限された状態」でさっきの調子がいいと感じたのが「通常時」ということになる。


 いつもこんな枷みたいなの付けてたってこと……???


 鑑定を覚えた日に、確かやってみたことがあったなぁ〜……あのときは何も知らなかったから、なんとも思わなかったけど。


「……いつも、制限されてたんだ」


「危なかったですね……」


「ね……ん?」


 ──ガサッ。

 足音が僕の近くに近づいてきているのが聞こえた。

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