255 写ス者
魔族は、焦っていた。
「なんでっ、喰らわないッ!!!」
使える魔法攻撃を全て試してみても、目の前に立っているケトスの正体不明な魔法防郭を破ることが出来なかった。
どこかで見たことがあるソレは、再生之王に従う上位魔族の展開するソレと似ている。
が、似ているだけで、効果はまったくもって異なっていた。
本来、防郭というものは全属性のうち一つや二つ。そして防郭衝突時に識別される打撃、斬撃、刺突などの物理判定のどれかは耐性が薄くなっているはずであった。そうでもしなければ、多くの魔素を消費しつづけるだけのものとなり、持久戦に持ち込まれると弱くなってしまう。
だがそれら全てを弾き飛ばし、時には吸収さえもしてくる。
「好きなだけ試すといいよ、してくれたらしてくれただけ僕もデータが取れる」
余裕な表情を見せるケトスに魔族は魔法攻撃を止めて距離を詰めた。
魔法が効かないとなると物理攻撃。通常の思考結果だ。
「まぁ、そう来るよね」
ケトスへと伸ばした手――だがそれも衝撃となって自分の体へと跳ね返る。
──バギッ、ゴッ。
「〜ッ──!?」
防郭に触れた手は今現在止まらない身体の勢いと、跳ね返ってきた勢いで歪な形に壊れて行く。
勢いを殺せずに身体が防郭へとぶつかると、数mほど弾き飛ばされて崩れた建物に何とか着地をした。
「フゥッ──フッ──! 物理っ、も……!!」
「あはは、可哀想」
全ての衝撃が右手に跳ね返り、うねり、ひねり、つぶれ、右手は既に煮崩れたジャガイモのように肉も骨も原型を留めていない。
──どうすればあの防郭を解除できるんだ?
「……」
なんとか立った状態を保っていた魔族だが、そこであることに気づいた。
「は、はははっ! 分かったぞ!! 貴様のその技の攻略ッ!!」
そう言うとフラフラな状態のまま飛び上がり空中に滞空をした。
そちらを不思議そうに見上げるケトスは、武器を握ってはいない。
「貴様はその魔法をつかってから、こちらに一切の攻撃をしていない。それにっ! その場を動いていない……!! つまりはこちらが何をしかけなかったら良いだけの事よ!!」
一瞬、シンッと場が静まり返った。
そして、ケトスは目を輝かせた。
「わぁ、それに気づくのは凄いね!! そうか、そうだった。そうか、それがこの魔法の弱点……なるほどぉ……」
「そこでただ立っているといいッ! 下等生物め!! 俺はもう片方を殺しに行く」
「……あ、ちょっ──」
飛んでいこうとしている魔族を見て何かを呟くと、後を追うように動き出した。ケトスが地面からその場を動き、足があがった瞬間、前に魔法陣が作り上げられた。
「馬鹿め……!!!」
不規則な場所での爆発が一瞬で連続的に起こり、ケトスが視認ができないほどの煙が上がった。
爆竹のように連鎖的な爆発だった。その爆発が周辺の建物や瓦礫にも伝播していく様をみて、魔族は手を広げてタガが外れたような笑い声を上げた。
「引っかかりやがって!! 俺様が人間ごときに背中を見せて逃げると思ったか!?? ゲヒャヒャヒャヒャ!! これだけの魔法が直撃! 人間は耐えられないよなァ?」
バサッと翼をはためかせ、煙を飛ばしながら上空へ。
もう片方のやつを殺しにいこうと方向を変えたところ、
「そうでもないよ」
「!?」
声が聞こえた。
煙から姿が段々と見えるようになっていき、全ての煙が晴れると、そこに立っていたのは当然のように無傷なケトスだった。
「!?? なぜっ、お前……ッ!!!」
「答え合わせ、しよっか。移動時には解除されるっていうのは全く検討ハズレ」
持っていたペンとノートをしまい込み、うなずき、武器を握った。
「で、これの発動中の僕は一切の攻撃が出来ないって言うのは本当。そっちは合ってた。盲点だったよ」
「敵を目の前に自分の技の弱点を晒すだぁ……? 舐めてんのかゴミムシがァ!!」
「またハズレ。これは弱点じゃない」
魔族の眉が潜められた。何を言ってるんだコイツは、と。
しかし、すぐにその理由は分かった。
「言ったでしょ、発動中の僕は一切の攻撃ができないって――」
そう言うと、ケトスの後ろからもう一人のケトスが出てきた。
「だったら、発動中じゃない僕を作れば魔法は使えるよね?」
このスキル――写ス者──エスプは、ケトスが作ったオリジナルの防御スキルだ。
技の効果は、反射や吸収などの通常の効果の他に『模倣』があった。
鏡のように自分をもう一人作りだすことが可能。使うのは初めてだが、なんとかなるだろう、と。
多くの独自の魔法を作ってきたケトスの中でも現段階に至るまでに最も多くの時間を割き、未だ完成はしていない。完成するにはまだまだ情報が必要だ。
「「さぁ、まだまだ情報が必要だから相手をしてくださいね、ゴミムシさん」」
死人のように青ざめている魔族に向かってケトスは歩いていき、防郭内で吸収をした魔法を解析をするケトス。
魔族の中では既に勝てるビジョンなぞ存在しなかった。




