254 離れた場所での観測者は
デュアラル王国南門付近。
門の周りの建物は酷く壊され、憲兵が国民を守るために抵抗をしていた。
「ガハハハハ!! こんなものか!!」
「くっ……中央の兵はまだか!!」
築いた陣形の重装備役が攻撃を防ぎ、遠距離部隊が攻撃。
常套手段ではある。しかし、魔族の攻撃は防げれていても攻撃力不足で傷一つ付けられていない。
下位魔族の襲撃が想定された武装・配備では無いために彼らは時間稼ぎをするしか無かった。
その光景を十数キロと離れた城のテラスで見ている者がいた。
ミルクティ色の髪色、頭の上でお団子を作り、手すりに腰かけて座っている様子はただの少女のように見える。
目の前に展開されているピントを調節しているかのように動く薄青色の魔法陣、それらの動きが止まると少女は口を開いた。
「――」
「貴様らの攻撃など、微塵も痛くは」
――パチンッ。
指を鳴らしたような軽快な音。
それが耳を抜けると同時、突如として煙を纏った白い騎士が現れた。
中性の欧州で使われていたプレートアーマーのような見た目……だが全体的にその数倍は大きく、巨人が身に付けているようで重量感のある見た目をしている。
鎧の左胸には王国の国花である蘭が黒く刻まれ、手に持っている黒い鎌は刃の部分でも二メートル近くはありそうだ。
「なッ――」
回避行動など間に合う様子もなく、持っていた鎌で腹部を貫き、そのまま地面へ切っ先を突き刺した。
「ぐっ……う、動けん……っ!!」
──パチンッ。
さらにまた指を鳴らしたような音が聞こえると、新たな二つの鎌が魔族の両肩の上に現れた。
「――」
「なにが、おき──」
それに考えを至らせようとした時には既に遅かった。
白い騎士がその二つの鎌を持つと、魔族の両肩からクロスを描くように魔族の体を切り分ける。
「ガッ……」
四分割された魔族の体は霧状になり、溶けるように消えていった。
「目標、沈黙」
少女は手すりから飛び降りて次の場所へと移動しようとしたところへ
「……ルル、終わったのかい?」
声がかかった。
「ン。起きてたの?」
「ドタドタ上がりこんできたのはアンタじゃあないか」
その部屋は寝室のような見た目をしていながらも、シンプルなデザインで構成されていた。
赤色の絨毯。壁横には暖炉が見え、近くにはロッキングチェアが二つ置かれている。ベッドは大きく、垂れ幕が四隅にかけられている。天蓋ベッドというものだ。
全体的に奢侈な印象を受けるが、どれもこれも城内の寝室としては最低限の物しかないように思える。
「南門付近のはアレで全部だと思う。15体くらい倒したし」
「そうかい、なら引き続き頼むよ。元帥殿」
「任されたよ、女王様」
元帥――王国軍の最上級階級。
デュアラル王国、ペネロ王国、ロベル王国にはそれぞれ王国軍というものが存在をしていて、それらの階級は共通している。
『下士官』から始まり、『尉官』『佐官』『将官』などの階級によって分けられている。
それらの頂点が『元帥』。
協会でいえば『皇』『教皇』『魔導皇』の位と同義である。
三国の中で最も多くの兵数を誇るデュアラル王国が有する二人の『元帥』。その内の一人がこの少女『ルル』なのだと言う。
見た目は眠そうなジト目をして眠たそうな少女にしか見えない。
「元帥のお前達だけは私を女王と言うのは止してくれ、ただでさえ肩が凝るって言うのに」
ベッドで体を起こしている女王と呼ばれた老いた貴婦人は不満そうに声を出した。
「最近物忘れが多くなってきたからなぁ〜まぁ、次はちゃんと名前で呼ぶから。……じゃあね、女王様」
わざとらしく声をだして、その寝室の扉を閉めた。
女王の寝室から出て長い廊下を歩きながら、ルルは目の前に魔方陣を作り出してそこに文字を当てはめて行く。
薄く輝く魔方陣に、三次元的な動きをして綺麗にハマっていく文字。
作成からものの数秒で魔法陣ができると空間が1mほど縦に開き、その中にぴょんっとジャンプをして入った。
「ぅお」
空間を繋ぐポータルから出ると風で髪が煽られた。どうやら違うテラスへと出たようだ。髪を抑えつつ、
「……ぁ、そうだ」
思いついたように再び魔法陣を素早く構築していくと、完成した魔方陣からは声が聞こえ始めた。
『っぁ、なんだこれ……ってどうせお団子ちゃんの仕業か……』
若い男性の声が聞こえると、ルルは満足そうに鼻を鳴らした。
「エスタ、聞こえる?」
『ほらやっぱり来た。どーしたのさ』
「そっちの状況を聞かせて」
『んー、今のところ被害はねぇかなー。そういや兵達には東と西に行かせたけど、敵の主力は北と南でいいんだな?』
「うん、南は終わったけど」
『――っと、丁度今、北も終わったところだ』
風を切るような音と、低い呻き声が少し聞こえたと思うと通信をしながら戦闘をしていたようだ。
『北は終わったから……えーと、あとの魔素反応はどこか教えてくれ』
「西門に一体と、そこからすこし東南よりに一つ。あとは東に三つかな」
『東は兵に任せるとして西に行くか?』
エスタという男性に問われ、遠くを見つめて思考を回す。
「……その必要は無い、今は冒険者の二人が交戦中みたい」
『……強いのか? そいつら』
冒険者二人のことを魔素感知で確認し、んーっと考える様子を見せた。
「成長段階?」
『んだそりゃ』
「強くもあるけど、弱くもあるって感じ。倒せそうではあるよ」
『倒せそうならいい。あとの始末は王国軍兵士に任せてそっちに戻ることにするわ』
「分かった」
エスタへと飛ばしていた通信魔法をキャンセルして、城の中に戻ろうとした。
「……?」
その時に王国全域に張り巡らせていた『魔素感知』が魔素の一部をキャッチしたのに気づいた。
警戒をして『魔素感知』の範囲を広げた。すると、どうやら国内に入ってきた下位魔族達より何十倍も大きい魔素をダダ漏れにしている存在が王国近くに居るようだ。
今回の王国襲撃の首謀者か──と思い、南門を一掃した時のように召喚魔法を座標を特定して発動しようとして。
『ダメよ、私は戦う気がないもの』
先程までしていた通信魔法に似たような魔法術式がルルの元へ現れ、低い声を発した。
「……」
驚きもありつつ、これほどまでの魔素の持ち主ならやりかねないとして。
「そう? ならなんでそんな所にいるのかしら、魔司者さん?」
『戦力調査。それと連絡をしにね。次の襲撃先はそろそろ『破壊者』の所にどうだ? 歓迎するぞ、って言葉を預かってたの』
低い声、しかし女性らしさも感じる口調であると感じた。
冷静に分析をしてみると、魔方陣には変声に関わる文字が散りばめられていることに気づく。
「申し訳ないけど、声を変えて話す者の言葉を信じれない」
『風邪気味でね。最近肌寒いじゃない? それに元帥と話すには汚い声で話したくないもの』
「それなら仕方ないか」
『それでさっきの話は受け入れてくれる?』
「あまり話を長くするのは好きじゃないのかな。気が合いそう」
『そうね。合わなさそうね』
世間話すらもお断りか。本当に長く話をする気はないらしい。
「とりあえず伝えておくから直ぐに魔族達を引かせて。「連絡」と「調査」で国民を巻き込む必要なんてないでしょう」
『そういえばそうね、引かせることにするわ』
相手がするハズの無いことを敢えて会話にいれ、中身のない会話を続けていく。無駄のように思える時間、しかし、全ては相手の情報を得るためにしている事だった。
(……もう少しで──)
会話中にルルは魔素反応のある場所の付近に召喚術式の準備をして、すぐにでも拘束をできるようにしていた。
ゆっくり、慎重に行って魔素の量を極小に絞って行っていた準備。
『――ジジジッ』
空間にノイズが走ると、魔族が展開していた通信魔法が一瞬にして解体され、魔方陣の外角円から文字が空中を雷のように走っていき、数秒もせずにルルのいる部屋の空間を覆うほどの魔方陣を展開した。
「──……」
蜘蛛の巣のように張り巡らせられたソレに、息を飲む。
『戦う気はないと、言った筈だけど』
気がついていたようだ。
向けられる魔方陣に目をやり、嘘では無いことを確認して魔法の準備を解いた。
「……はいはい、さすがは『破壊者』に仕える魔司者ね。これだけ離れているのに魔方陣の操作ができるなんて」
『圧倒的な兵力を誇っていた二国連合を相手に無双をした天才魔導士様に褒められるなんて、光栄です』
「どこまで知ってるのやら」
『ある程度は』
王国魔導士から聞いた敵の出現報告を思い出す。
──この国にスパイが潜んでいる。
そして先程の情報、王国軍にも紛れているかもしれない。
(だけど、用意周到な襲撃にしては規模が小さいかな)
彼ら魔族からしたら本当に「連絡」程度なんだと思えた。
それにスパイ自体は中へと誘導しただけだ、下位魔族をいくら倒したとしても根本的なモノが解決がされていない。
『今度は相方の元帥さんにも挨拶をしようと考えているのだけど、何がいいとか分かる? お土産、とか』
「私の処女とかじゃないかしら」
『いいアイデアね』
空中にある魔方陣なんて気にしていない様子で、空中に穴を開けてルルはパンを取り出した。長くて太くて硬い。そう、フランスパンのようなものである。これが美味いのだ。
「そういえば、いつまで私と会話をするつもりなの」
もぐむしゃと食べ、履いていた靴を放り投げて素足になった。
ベッドに持たれかけて、敷布団の上にポロポロとパンくずを落としながら。
『もう止めるわ、あまり話すのは得意でないし』
「ふぅ〜ん」
「最後に一ついい? 相手に警戒心を抱かさない喋り方を……隣で寝ている同僚から学んで実践していたのだけど、どうだった?』
はたと動きを止め、しばし考え、長いパンを声のある方向に向けた。
「センスを感じられない」
『もっと励むことにするわ』
溜息とともに通信魔法と部屋内の魔方陣は消えていった。
それを確認するとベッドに倒れ込み、パンをかじり。
「うん、やっぱりコレが美味い」




