251 歴史的快挙
ケトスが鉱石蛇と戦闘を行なっている同時刻、最南の森『ノトスの大森林』が有する中位ダンジョンの中層──15階層。
5階層毎にボスが存在するダンジョンにおいて、上層、中層、下層と難易度が飛躍していく。
ケトスと同時期に中位ダンジョン攻略を始めた、とあるパーティは下位ダンジョンとは次元の違う強さにぶつかっていた。
「ベルトゥア……、アントニオ……」
所属血盟【フーシェン】の大型新人冒険者パーティ。彼らは多くの期待をされていた。
数ヶ月前にデュアラル王国の東の森『モルルの大森林』にある下位ダンジョンを最速クリアを果たし、同年代の中では数歩先を歩いている存在――英雄に近いとされる存在。
だが、求めすぎた者に与えられたのは乗り越えようのない試練だった。
「スケア……っ」
「ぐっあぁぁぁぁぁぁ!!!!?」
彼らが中層のボス部屋であった魔物は、首無し騎士。脅威度Aに分類される下位魔族だった。
首無し騎士が持つは二柄の塒を巻いている黒槍。
その二柄に無惨にも貫かれているパーティメンバーを見上げ、スケアの瞳孔が開いていく。
「スケア! 薙ぎ払いが――」
「分かってる! が……」
「ワシの後ろに来い!! スケア!」
「おめおめと逃げてたまるかよ……! 待ってろ、今、助けてやるから──」
ダンジョンに挑む者は2種類の結果で終わる。
成功する者、失敗する者。その2つしかない。
英雄に憧れるのは誰にでもできることだった。ただ、英雄になるのは誰にでもできることではない。
「スケア! ダメだって!!」
「うるせぇ……! 英雄になるためには、これを切り抜けねぇとダメなんだろ……ッ? だったら、俺は!!」
「いい加減にせぇ!!」
体を前傾姿勢にして短剣を構えたスケアを強引に引っ張って、盾の裏へと引かせた。
間髪入れず、首無し騎士の槍が振られ、矮人族の盾に弾かれた。
その際に突き刺さっていた人族と森護人族がダンジョンの壁にぶつかって、地面にうつ伏せ状態に落ちた。
「あいつら……」
「行くな、もう無理だ」
「はぁっ!? そんな訳ねぇ……まだアミの『回復』をすれば──」
「回復してる暇なんぞ無い。その間の3人で凌ぐ負担は計り知れん、その状況を考えておるのか」
「それは……」
「リーダーじゃろうが!!! 悩むな! 判断を下せ!!」
矮人族の剣幕におされ、スケアは普段の様子からは想像がつかない狼狽えを見せた。
倒れている瀕死の仲間二人を見て、悔しさから唇を噛み、地面に血が滴り落ちた。
「……っすまん。矮人族はそのまま盾を、猫獣人族はいつでも魔法が撃てるようにここで備え、蜥蜴人族と俺は前線で戦う」
「二人は……」
「……見捨てるしかない。アミの魔素は貴重だ」
「――あーっと。やれっかな……俺、結構キてるんだけどサ」
右手の薬指と中指から手首まで裂けているテウロは、普段の調子を崩さずに言った。
ボタボタと今にも倒れてしまいそうな程の出血。仲間二人が貫かれてしまった突きを掠ってしまってこうなってしまった。
「……片手は動くだろ?」
「なっ!? 厳しくね……?」
「それをやらないとここから出ることは出来ねぇだろ。ヲヲが言った通り時間がねぇ。堪えろ」
「あ〜フラフラする〜」
「その調子なら行けるな」
そう言って次の攻撃に備え始めた。
応急処置としてアミに肩をヒモで縛ってもらい、痛みが治まる訳ではないが出血は教えることができた。
「はは……勝てっかなぁ。勝てるビジョンが見えねぇや」
首無し騎士の攻撃が始まる。
◇◇◇
数日後、イニシアの大森林の中層に構えてるキャンプ地。
周りには結界が張られており、魔物がより付けないようになっていた。
ダンジョンの上にかまえてもいいが、あそこで結界なんてものを貼り続ける余裕なんて無い。バケモノが溢れ出てくるのだ。
彼らがここにいる理由は、測定員としての任があるからだった。
ボス部屋を攻略してからの少しの間に発せれる通信魔道具による連絡を受信し、攻略した冒険者の帰りを待つ。測定にはギルドの職員や、ギルドに所属をしているならばギルドの関係者が待つのが常。
「リリーさん」
「んぁ? 寝てた、なんだ?」
ケトスを待つテントの中で、声をかけられたリリーが仮眠から目を覚ました。
「最終回層のボスを倒したと連絡が来てからの方が時間が経ってしまってますが……」
ギルドの職員だ。心配そうな顔の割には、ちょっとにこにことしてる。
寝ぼけてるリリーの頭ではなにがなんだかわからないが、リリーのスタンスは一貫している。
「そんなどーでもええことで起こすな」
「どうでもいいって……、歴史的な快挙ですよ!?」
「ふーん」
「ふーんって……」
興味がなさそうにして、耳に小指を入れてほじった。
見た目は幼いが、実年齢はこの場にいる誰よりも高齢。仕草にそれらが垣間見えるのが、見た目のこともあり、なんだか見てはいけないものを見ている気にさせられる。
といっても、褐色肌で、肌着で、耳が長い幼女が、寝起きの表情のまま、ただだらしなく耳掃除をしているだけだ。
何もおかしなことはない。
「ギルドの方には連絡をしましたから、あとは帰ってくるのを待つだけですね」
「ふぁぁぁ〜……そうだな〜」
「心配とかしてないんですか? 自分の血盟の新人じゃないですか」
「するわけないだろ」
「で、ですが」
「私より強い奴の心配なんてする方がおかしいだろ。どーせあいつは帰ってくる」
「リリーさんより強い……? はは、ご冗談を……」
愛想笑いを浮かべるギルド職員に目を向け、へ、と口を曲げた。
「人を見る目がないんじゃなぁ、兄ちゃんらは」
「――お、ただいま〜」
「ケトスー、約束した日よりも一日遅いぞ? 怠けてたんじゃないか?」
「あはは、帰り道に迷っちゃった」
ボロボロなケトスがテントを開けて戻ってきた。ドカッと座ると、リリーさんがさささと背中に周り肩もみを始めた。
ギルド職員は帰ってきたことも記録に残さないといけないことから、別のテントに移っていく。
「んぁ〜……つかれたつかれた。腹も減ったなぁ。クラディスのご飯が食べたいよぉ……」
「すっかりお熱だな。友達の方は、西の街で上位魔族と戦ったみたいだぞ?」
「わぁ、そんなことが起きてたんだねぇ〜……。くあ、眠い……けど」
肩もみをするリリーの手にケトスは上から手を重ね、グイと引っ張った。顔が真横にある状態のリリーに、ケトスは声を潜めて話し始める。
「リリーさん。みえた」
「……また、スキルでも身につけたのか? 勇者様は贅沢だな」
「前からあったやつだよ。使いこなせれてないんだけど……帰ってくる途中で未来がみえたんだ」
ケトスはメガネを外して目頭を抑え、ため息を吐き捨てる。
「で、何が見えたんだ?」
「王都で人が死ぬかも」
「そりゃ大変だ。……じゃあ、すぐに戻るか?」
「お願いしていい?」
リリーはニコと笑い、ケトスを抱えたままテントから飛び出していった。
「リリーさん!? ケトスさんも……。まだ、測定が!」
「あとはあんたらに任せるよ!! それよりも、ケトスが腹減ったっていうから、すぐに王国に戻る!! じゃあね」
ケトスを馬車に放り込み、リリーは馬をつないでいた紐をほどき、慣れた手付きで、御者席に乗った。
「そら。走れ、馬共!!」
「はははは。リリーさん、頼もしいや。じゃあ、ちょっと寝るね〜」
「寝とけ寝とけ。この何十年かぶりの運転テクで寝れたらの話だがな」
手綱がしなり、ケトスとリリーを乗せた馬車はデュアラル王国に向けて走り出した。




