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250 ネクロマンサーに詳しい人


 

 そこから数日の休みを貰って、家で養生をしていた。

 佳奈と呼ぶのは色々不都合があるため、アルマ姉さんと呼ぶことにして、僕のことも「クラディスくん」と呼んでもらうことにした。

 僕の方が弟って設定はすごく嫌がられたけど、一度言ってしまったものは仕方ないけど続行という方向で決まった。


 向こうの世界で兄だったやつが弟で、妹だったやつが姉になる。このちぐはぐ感が、僕たち兄妹にはピッタリだ。


 僕が休んでいる間に家に訪れてきてくれたのはナグモさんやペルシェトさんだ。そこで初めてペルシェトさんには転生者だと言うことはバレてると聞かされて、苦笑いをした。


「やっと言えたから満足。あと、働きすぎはダメだからね。今後はちゃんと自分で管理するように」


 人差し指で鼻をムニと押され、苦い顔をしながら返事を返した。

 かかりつけ医みたいな存在だからなぁ。ほんと、迷惑をおかけしてます。


「あと、この腕の話なんですけど……この火傷跡のこと、分かりますか?」


 手を出してみると見た瞬間、神妙な面持ちになっていた。


「…………うん。これは、ちょっと面倒なことになってるね」


「というと……」


「確証がもてないからなんとも言えないけど……魔族の種が入り込んでる」


「種……?」


「言葉の通りさ。言葉を変えると、核。魔素の凝縮されたものが身体に入り込んでるって感じだ。長い間、放置してたでしょ……治るかなぁ、これ」


 ──力の種だよ、それは。


 ノアに言われていた言葉を思い返した。

 魔族の魔素のコアのようなもの。モンスターの原動力の魔石みたいなのが、ぼくの右手に……?

 

「高濃度の魔素に中てられた場合、その魔素は只人の身体を蝕んでいくのは知ってるよね?」


「はい」


 最初の勉強会で学んだことだ。強い魔族はその場に存在するだけで悪となる。

 周辺の魔素の濃度を濃くしていくため、低レベルの者はその魔素に侵食されると。つまり、毒、と一緒だ。


「それの治癒の方法は、魔素の浄化、もしくは別個体への移転。でも、これは高濃度の魔素がどういう訳か、この一点に集中してる。除去って言ってもなぁ〜……うーん、体に異常はないんだね?」


「今のところは」


「なら、侵食されてることはないだろう……から、そうだね……うーん。治すのには、治癒魔法じゃなく、薬草の類で治せるかもしれない。また、それはお知らせするよ」


「……ありがとうございます」


 ペンでグリグリと頭を掻きながらペルシェトさんとのカウンセリングが終わった。


 この右腕、結構、厄介なことになってるみたいだな。ボルル君の攻撃……それと、佳奈の血液……? あと、ノアが触れた時になにかやったのか? 

 右手だけ手袋はまだ続行らしい。とほほ。


 そうして、自宅療養をして過ごしている中、ふらと立ち寄ってきたナグモさんにアルマさんの『死霊術師《ネクロマンサー》』について聞いてみたら、知り合いの知り合いに詳しい人がいると聞けた。

 日を改めてその人とコンタクトをとる必要があるから、体が治ったらまた声をかけてと言われた。

 

 なら、早く治そう、ということで。

 

「……もう大丈夫ですか?」


「んん〜……本人が大丈夫なら大丈夫だけど、また無茶をしたらすぐ同じようなことになるからね!」


「ちゃんと休みますって」


「ならオッケー。行ってよし!」


 ペルシェトさんにギルドの診療室で診てもらって、体の回復が充分だということでGOサインをもらって部屋から出ていった。

 

(エリル、回復感謝するよ)


(しっかり休むって約束は忘れてないですよね!?)


(休むって、信用してよ)


(できませんっ!)


(手厳しいなぁ……色々と前科があるから、信じてもらえないのつらいなぁ)


 エリルに頼んでいた自分の体の回復はほとんど完璧状態、元の状態までやってくれた。

 やっぱりエリルは凄いや、僕だって勉強した範囲でできるはずなのにここまで早く、正確に治すことは出来ない。


(ノアに右手を使い物にされなくなったのもエリルのおかげで元通りだし。本当にすごい)


 ペルシェトさんなら一瞬で回復できるのかな。できたとしてもしてくれないだろうけど。


「なぐもさーん」


「お、働き者のクラディス様じゃないですか。体は治りましたか?」


「はい。なので、この前してくれた人に連絡ができたらなと」


 身体を確かめるように目線を送られる。怪しまれてる。


「…………ふっ。あの件ですね。ちょっと待っててね」


 今笑ったな。ナグモさんはぼくがなにか無茶をするとすぐにニコニコし始める。心配してくれてるかと思ったら、蹴飛ばしてくるし、この人は本当にわからない。

 机の上に置いていた通信魔導具を片手に数秒持っていると、僕の方へと渡してきた。


「も、もう繋がってるんですか?」


「向こうの応答待ちです。ここは少し騒がしいので、廊下とかでした方が向こうの機嫌を損ねずにいいかもですね」


 ギルド職員の仕事場はたしかにバタバタと忙しない。ナグモさんがなんでこんなに悠長に座っていられるのかもわからないほどだ。遠くで丸さんの鳴き声も聞こえてくるし。


「じゃあ、お借りします」


 そういって離れようとすると、ナグモさんの机の上にたくさんの書類が置かれてるのが見えた。うわぁ、大人、こわい。

 言われた通りに廊下まで歩いていき、手の上の球体を眺めていると、少しノイズが入った。

 

(! 機嫌を損ねないように……丁寧に)


 ちょっとビジネスクラディスを発動だ。喉の通りを良くして。


「あっ、あの! は、初めまして!」


 死霊術師《ネクロマンサー》のことに詳しい。なんなら使える人……どんな人なんだろ……?

 魔女とか魔族とか、そっち系に詳しい人ってことだもんな。


『ジジジッ…………ジジッ――うぉ、なんじゃ、これ、どう使ったらええんかの』


 幼くも訛りが凄い人の声が聞こえてきた。

 あれっ、凄く聞き覚えのある気がする。いや、まさかね……。そんなわけ……。


「あ、あのぉ……」


『む。ナグモじゃないな。お主、誰じゃ、名乗れ』


 ……先生だ。これ。


「せ、先生……ですよね」


『はぁ〜? 先生じゃと? む、待て。……お主クラディスか!』


「お久しぶりです、クラディスです」


『おーおー! なんじゃ、元気そうじゃの。ぶっ倒れたって聞いたけど、気のせいじゃったか』


「あはは……」


 ナグモさんって結構お喋りなのか? アルマさんやアンに聞いた話の中にも、お喋りだって話があったぞ……。ペルシェトさんにも「転生者だったらしいですよ」って話したって聞いたし。


『それで、なんの用じゃ〜?』


「えっと、ナグモさんから『死霊術師《ネクロマンサー》』に詳しい人が知り合いの知り合いにいるって言ってて……それで、その人に会って勉強したいって人が……」


『長い! 簡潔に話せ!』


「えっ、えっ、あ、その……『死霊術師《ネクロマンサー》』のことがわかる人と会いたいって人がいるんです」


『ほぉほぉ』


「先生のお知り合いにいらっしゃると聞いたんですけど……」


『おるぞ。そろそろそっちに行こうかと思っとったから、ついでに連れていくか?』


「ホントですか! ありがとうございます!」


 本当にいたんだ……! 『死霊術師《ネクロマンサー》』に詳しい人!

 とりあえず話だけは通しておいたからね、佳奈。あとは自分で頑張るんだぞ。


「……えぇ、えぇ。はい。それでは。先生とまた会える日を楽しみにしてます」


 事務的な内容を話して、ティナ先生との通信を閉じた。

 そのあとナグモさんに返しに行って、自主訓練の方に入るために訓練場の方に歩いていった。

 引き戸をガラガラと開けながら……。


「そういえば……ケトスの方は大丈夫なんだろうか」


 冬季が始まって、ケトスやムロさん達がダンジョンへ出かけてそれなりの日数が経っていた。付き人としてリリーさんがダンジョン近くで待機していると言う話を聞いた。

 測定員としてギルドスタッフも数人連れて行って、異例の中位ダンジョン単独攻略を目指している。


(まぁ、心配はしなくてもいいか)


「ケトスはケトスだし。ふらっと帰ってくるだろう」


 今、どこの階層で、どんな魔物《モンスター》を倒してるのかな。




      ◇◇◇




 広く、どこまでも広い……と思えるよう、結界が張りめぐされた空間。

 森林が生い茂り、川が流れ、地上の自然豊かな土地にいるのかと思わせる場所。

 耳をすませば、小鳥のさえずりでも聞こえてきそうなものだが。

 実際に聞こえてくるのは小鳥の囀りなどではなく、奇っ怪な叫び声、鋭く高い金属音、連鎖して巻き起こる爆発音だった。


 そこで対峙している異形のモノと白髪の少年。


「ふっは! っはあああっ!! ひゅ〜!」

 

 その二つの存在が出会った場所は、イニシアの大森林が有する中位ダンジョンの最下層──三十階層。


 俗に言う、ラスボスの部屋である。

 

 背中に生えているのは苔、大きく聳え立つドス黒い身体には一つ一つ鉱石のように尖ったモノが皮膚を突き破って顔を出している。

 ムチのように撓《しな》り、木々に絡まりながら移動するその姿はまるで蛇のようだ。

 その全長約50m、直径3〜4mほどある太く長い身体に立ち向かう少年の身体は小さくも勇敢であった。


「……デカい、硬い、長いっ! さいっこうだね!」


 長い口先から飛び出してきた毒液を浴びながら、前へ前へと歩を進めていく。


「う〜ん……麻痺毒……か。耐性を得ようとしてるのに、変わり映えしないな」


 数ヶ月前に攻略したばかりのダンジョンを再度攻略をするということ自体、馬鹿馬鹿しい行為だ。

 ケトス自身、同じ場所、同じ階層、同じ魔物《モンスター》と戦うのは飽き飽きしていた。


 だから、たった数日で最下層まで到達することが出来た。


 歩くケトスの身体に毒液を溺れる程の量を吐きかけ、効かないと理解すると長い体で絞殺しようと小さなケトスの身体に巻きついた。

 

『フシュゥゥゥ――ッ!』


「……度し難い。新技を試すことも出来ないのか。あのエルフの二重魔法以来使えてないっていうのにさあ」


 太く長い身体に隠れたケトスだったが、すぐさまその蛇の身体を切り刻んで姿を現した。

 身体を切断されたことで暴れ始め、大地や樹木、岩石に体をぶつけながら移動を始めた。


「……へぇ、形態変化かぁ」


 飛び上がり、魔素で翼を作って滞空をした蛇を見てケトスは楽しそうに見上げた。


「前にはそんなのしなかったよね。もっと、見せてよ」


 

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