閑話 奴隷首輪の行方②
定期的に来るように言われた防具の点検。
安く買わせてもらった時に提示された条件だし、今後も良いものを作って貰う為にも必要な意見交換だ。
僕的には、現状の防具で満足はしている。
軽装だからやっぱり覆ってないところを攻撃されちゃうけど、これに関しては僕の技量の問題だからなぁ。
アン的には、可動部に触れた時にやっぱり若干の違和感があるらしい。
耐久力不足は言わずもがな、闘技場で支給される防具より劣悪な耐久力だ、と言っていた。
布で作るのなら違和感なしで、ある程度の耐久力が欲しいのだと。
タルトさんはズバズバと感想と改善点を言っていくアンの言葉を受け止めて、一つ一つ丁寧にメモをしていく。
アンは銅等級の冒険者だけど、かつては闘技場で最強の少女と呼ばれていた人だ。その人から聞ける意見っていうのは、駆け出し冒険者だとしても貴重。
「――クラディス君。こっちゃこいこい」
表から手招きをするトニーさん。二人を置いて倉庫から出ていった。
受付の前へと回ってみると、トニーさんが持ってきたのは、何かを包んでいる布だった。
「ほい」
「これは?」
「言われてたの」
「言われてたの?」
グイっと押し付けられ、その布を丁寧に開けていく。
「奴隷の首輪の加工ってしたことなかったけど、案外できるもんだね。いい体験させてもらった……って言いたいんだけど。趣味悪くない? これ、装飾品にするって」
「……まぁ、そうですけど」
「ん、興味ないことやし、特に言うつもりもねぇさ。で、どう?」
布を開けると見えたのは、綺麗な装飾品へと姿を変えた奴隷首輪。
形は、何とも見覚えのあるものだった。
僕はいつも首から下げてる装飾品の方に目を移す。
「お揃い?」
「お揃っちだねぇ」
僕の掌の上にあるのは、精巧に作られた銀色に縁どられた黒星。
サイズはアンの方が少しばかり大きく、黒色も色が濃い気がする。でもぱっと見はほとんど一緒だ。
――ってか、これ、僕が先に開けても良かったのか……?
「あっ!!」
突然の大きな声。振り向くと壁から顔を覗かせていたのはアンとタルトさん。
トトトと走ってきて、掌の上の装飾品を奪っていき、少し歩くとクルっと振り返った。
「み、見ました……?」
震える声で、アンに言われた。
「え、あ、うん……」
僕の言葉を聞くと、はぁっと小さなため息。そして、泣きそうな顔から一転し、睨むような目をトニーさんに向けた。
視線を向けられたトニーさんは気まずそうにポリポリと頬を掻く。
隣に来たタルトさんが僕とトニーさんの頭を小突いた。
「「いてっ」」
「ばーか。なんで特注で頼んでた品を先に見せたりするかねぇ?」
棒を肩にトントンとしながら、ふんっと鼻を鳴らしてる。
「ったく、女心ってのが分かってねぇよな。人族ってぇのは」
言葉が刺さる刺さる。
よくよく考えれば……考えなくてもそうだ。アンが頼んでいた品を先に見るっておかしな話だ。
渡されたからって何も思わずに開けちゃった。……完全にやっちゃったよな、アンが拗ねてるってよっぽどだもの。
すると、タルトさんに早く行けと背中を蹴られ、収納袋を投げて渡された。
それをあわわと受け取ると、しっしっと払うように手を動かして、
「おら、帰った帰った。全部入れといたから」
といった。
「はい。すみません」
「お得意さんにお前、すげぇことすんな」
「うるせぇ。女心が分かってねぇ奴は黙ってろ!」
後ろから聞こえる声には反応をせずに、アンと一緒にとぼとぼと防具屋さんから出ていった。
◇◇◇
細くうねうねした道を歩いていく。防具屋さんの迷い道だ。
アンはあからさまに不機嫌。そっぽを向いて、ちょっと先を歩いている。
どうしたら機嫌を直してくれるだろうか。謝る、ってのも違う。なんだ……?
考える僕の体に、びゅうぅと寒風が当たった。
「寒っ……ぅ」
冬前の風だ。体を縮めて体面積を少なくしようと試みる。
一方、アンは何も言わずにテクテクと前へ進んでる。
寒くない……? 首元を開けてる服着てるのに?
アンが来ている服はサイズ感が大きい地が厚い服。首元が外へと露出して、吹く風にポニーテールがふわふわと揺れてる。
「クチュンッ……」
寒くない訳、ないよな。
「アン、ちょっと」
「……?」
振り向いたアンの首に、取り出したマフラーを巻いた。
「ごめんね、体冷えたらだめだから。風邪ひいちゃうかもだし」
ぐるぐると簡単に、でも息苦しくないように巻いていく。その間もアンは少しだけ頬を膨らませてはいたけど、されるがままの状態。
不器用なりにも巻くと、アンはそのマフラーを手にして口を少し尖らせている。
えーっと、まだ怒ってる……、な。どうしよう……。
「あるじ、これじゃあ首飾り、つけれないです」
「あ、え、ごめん」
反射的に口から謝罪の言葉が出てきた。その後にちゃんと自分の考えを口にする。
「……でも、首飾りも大事だけどさ。何よりもアンの体調が大事だから」
「……すぐにつけたいです」
完全に駄々をこねる子どものような感じで。
アンがこういう感じで接してくれるのはうれしい。妹がもう一人できたみたいだな。
「ほら、今はマフラーがお揃いだし。それで我慢、してね」
「……わかりました」
コクリと頷いたのを見てほっと一安心。
とりあえずは、機嫌も少しは良くなったような気がする。
すっ。
「……」
無言のまま、手を伸ばしてきたアン。
一瞬だけそれを見つめて、あ、と納得した。
「僕、手冷たいけど。いい?」
僕の言葉にまた、コクリと頷いた。
それを見て手を握り、一緒に歩き始めた。
「……ごめんね。みちゃって」
「……さぷらいず、とやらをやってみたかったのです」
「うん」
「同じ首飾りなら……どんな反応をしてもらえるのかな、と思ってました」
「……びっくりしたよ?」
「それを、わたしが見せた時に見たかったのです」
「そっかぁ……忘れたころにまたやってくれたら驚くかも」
「そんなわけないですよ」
そりゃそうだ。
このまま帰ってもいいけど……完全に僕の不注意で起こった問題だもんな。
解決、しないと。
繋いでいる手の反対側で腰に着けたポーチ型の収納袋を触って確認。
……まだ、出さないつもりだったんだけど。
「あー……じゃあさ。これはどう?」
タルトさんから渡された収納袋の中から、一つの箱を取り出した。
それをアンに渡して、開いてみて、と言った。
不思議そうに開けると、中には円形金属が付いたゴム紐。
「これは……?」
「……さ、さぷらいず、ってやつ」
「えっ?」
驚いて、箱の中の物に視線を再度落とした。
「最近、その髪型が気に入ってると思ってさ。ずっと先生の私物の髪留めだったでしょ? だから、どうかなぁって」
箱の中に入れてあったのは、髪留め。アンのを頼みに行く時に、タルトさんに一緒に頼んでおいた物だ。
髪留めはファッションと合わせた方が良いと言われて、無難なのを選んだつもり……。
あとは戦闘のことを考えて、小さな円形の金属で衝撃からゴム紐を守るようにしてもらった。
アンは、片側のポニーテールを最近好んでよくやっている。
闘技場から大体が一か月が経ったから一緒に暮らし始めて一か月の記念、という感じで。
奴隷の首輪で作ったモノではないけど、僕からの正式な贈物はまだなかったと思ったから、密かに計画をしていたのだ。
「お気に召してくれたかな?」
「……っ、あ、るじ……ずるいですよ」
むっとした顔。だけど、もう怒っているような表情じゃなくなってる。
「サプライズだからねぇー。自分がしようとしてたから、アンもしてるとは思ってなかったんだよ」
「……同じ、考えだったんですね」
持っていた箱をぎゅっと握り、やっと笑ってくれた。
「……これも、帰ってから、にします。だから、早く、帰りましょう」
「うん、そうだね」
一度は放していた手を握って、先導するようにアンが歩く速度を上げる。
多少のアクシデントはありながらも、無事に済みそうでよかった。




