閑話 調査を終えて
そこはかつて栄えていた王国。
城塞国家の名残のようなものはチラホラと見えるが、それのどれもが崩れ、自然に纏われ、腐り、原型を留めているのが不思議であった。
その元王国はARcus第四地区の東南に位置する。
つまりは魔王『再生者』が統治する領土である。
「ただ今戻りましたよ〜っと」
王国の中心にある古城の中に『ゲート』が開かれ、その中からノアの姿がでてきた。
先程まで戦闘をしていたとは思えないほど無傷、身にまとっている衣類にすら汚れは目立っていない。
「出迎えはなしか」
古城の中は外の様子とは異なり、綺麗清潔に保たれ、数百年前のまま維持されている。それらは全て『再生者』の意向に従ったものだった。
照明が照らす城の中の通路を歩いていくと、扉が開き顔が瓜二つの二人の少女が出てきた。
髪色は深碧色と瑠璃色で、二人とも目の色は赤や青、黒ではなく金色だった。
ぶかぶかな白色の寝巻きを着ている、恐らく睡眠をとっていたのだがノアの足音で目を覚ましたのだろう。
「ノア、おかえり」
「ノア、今帰ったの?」
見た目で推測できる年齢はクラディスと同じ程で11〜13歳ほどだろうか。
声は大人しく、そこまで高くないノアの顔を見上げる表情は寝起き特有のぼぉーっとしている。
「やっほ〜、久しぶり。元気にしてた?」
二人の頭をポンポンと叩くと、通路の後ろからスっと男女が近寄ってきた。
黒くボケた体の輪郭、ノイズでも走っているのかと思えるその風貌。
この者達は『再生者』の手下の魔族達であり、ノアの部下とも言える存在。
姿がハッキリとしていないのは、意図的に気配を消して行動しているからだ。
魔族同士は基本的に馴れ合いなどしない。下位、上位という区分はあれど、皆は階級なぞ気にしてはいない。
生きるために、力を得るために徒党を組む。
そして、魔族が上位種へと昇華するためには多くの人間の命、もしくはより上位種を喰らう事だった。
「失せろ。疲れてんだ」
その者達に目を向けずに敵意を向けながら手を払うと、その者達はスっと消えていった。
大方、不意打ちを狙おうとしたのだろうが、上位魔族……それも魔司者に君臨するノアへの不意打ちなど下位魔族ができるはずもない。
ノアは小さく「血の気が多くてめんどくさいなぁ」と呟いた。
「「元気だった」……? 寝てばっかりだったから……分かんない。ね、ミワ」
「? うん……暇だったから……この前で体力使ったばっかだし……。ね、サラギ」
瑠璃色の少女は『ミワ』という名前で呼ばれ、自分の名前を忘れていたのか、頭上にハテナマークが浮かんだ。
深碧色の少女は『サラギ』と呼ばれ、大きな欠伸で返事を返した。
「「この前」ね〜……」
ノアは二人の返答に呆れながら欠伸に釣られて、自分も欠伸をした。
「……今回はどれくらい寝た? 結構寝た気がする」
「……さぁ、ノアに聞いてみればいいんじゃない?」
「ノア〜」
足元にもつれてきて、上を見上げる二人の幼女の質問に唸った。
「んー……私もよく分かんないけど、あれからだから……百年は寝てない……かな? 数十年じゃない?」
「わぁ……そんなに寝てたんだって」
「寝る子は育つって人間たちは言うらしいよ」
「ならわたしたちは良く育つね」
「でもわたしたちは人間じゃないよ」
「あ、そっかぁ」
二人の掛け合いを聞いて、ノアは思い出したかのように部屋を後にしようとした。
今回ノアが古城に戻ってきたのは、敵の戦力の報告をするためだった。
部屋から離れていくノアの後を寝巻きのままついて行くミワとサラギ。
この少女らは人間でも、魔族でもない。
ノアが言った「数十年」とは、王国の亜人族達が無謀にも東南の魔王『再生者』の領土を奪還しようとした年を指す。
その年、かつて城塞国家として栄えていたこの土地に踏み入ってきた上位冒険者並びに王国兵士を圧倒した生物がいた。
その時のことを詳細に記した文献によれば、
『我々が旧王国内へと攻め入った際、十数体の上位魔族と双子龍が出現した。その二体の龍は同じ体躯でも異なる属性を有し、皮膚と鱗の色が瑠璃色と深碧色である。そして、龍が使う咆哮の属性は風と氷だったことから、我々はその二体の龍を『嵐龍』と『凍龍』と名付けた』
瑠璃、深碧の色を持つ同じ見た目の二体の古龍種。
この二人の少女こそ、多くの亜人族を食い、踏み潰し、壊滅させた双子龍だった。
見た目は幼子のようだが、年齢にしてノアと同じ歳を生きている最強の存在の一角を担っている。
「魔王さん魔王さん、ただいま帰りましたよォ〜」
ノックをして『再生者』がいる部屋を尋ねた。
扉に耳を近づけ、何の物音が聞こえないことを確認すると直ぐに踵を返して来た道をかえり始めた。
「ノア? どうしたの? 報告するんじゃないの?」
「居ないっぽいからさ。どうせアイツんとこ行ってるんだと思うし」
「アイツ……」
「最初の魔王さんのとこ」
「あ、そっかぁ。リティアは堅物好きだもんね」
「アイツって堅物だっけ……? まぁ、どうせ私の報告なんか興味無いだろうから、任務が終わったから自由に動かせてもらいますワ」
通路をコツコツと歩きながら二体の龍と会話を交わし、通った通路の灯りを徐々に消していく。
エントランスまで行くと最後に大きく指を鳴らして、城全体の灯りを消した。
「私はまた城から出ていくけど、龍ちゃん達はどーする?」
「んー、分かんない。サラギはどうする?」
「アイツのとこは私は好きじゃない……から、『破壊者』の所に遊びに行こっかな〜。あそこは穏やかだし、同郷の龍達に久々に会えるし」
段々と目が覚めてきたのが、言葉がはっきりとしてきた様子の二体。
エントランスまで行くと寒風が入口から入ってきているのを感じる。
その寒気にノアは「おや?」と首をかしげながら城の外まで出ると、空を見上げた。
「お、やっぱり。雪かぁ」
ぶるっと震えながら指をパチンっと鳴らすと、上着とニット帽が身に付けられた姿へと一瞬で変わった。
ぱらぱらと地面へと降ってくる白い結晶にに手を差し出し、手に降りてきた瞬間からじわっと消えていく様子を一通り楽しむと、ノアはゲートを開いた。
「じゃあ、龍ちゃん達もその形のままどこか行くなら、防寒着とか着ときなさいよ」
「えー……寒さなんか感じないのに?」
「そりゃそうよ。人間に形を模してるなら、人間らしく振る舞わないとね〜。それに、そんなに幼い容姿なら尚更よ」
「う〜……そういうものなのかなぁ」
「それこそ、『破壊者』ちゃんの所はそういうの上手いのが揃ってるんじゃないの? 勉強してきてもいいんじゃない?」
「あっ、そっかぁ……」
寒い地べたの上でも裸足で歩き回っている二体を見て、ノアは息を上に吹いた。
ノアと二体の龍はとても仲睦まじく話をしているが、『再生者』の配下である魔族や魔物は統率が取れておらず無法地帯となっている。
数年前、それを頷けることが起きた。
魔司者と对を成す存在である武冠者が、50余の下位魔族の襲撃を受けて消滅してしまったのだ。
実力至上主義の世界、それ故に下克上が起きることが度々ある。
その際、下位魔族から昇華する者は出てこなかったが、『再生者』の配下にはまだ上位魔族がいる。それがノアだった。
「ノア、次はいつ帰ってくるの?」
そのことをサラギとミワは知らない。知っていたとしても興味が無いだろう。
彼女らは、下位魔族に命を狙われる心配もない。
仲間だという認識はある。しかし、ノアが死んでしまったとしても嘆き悲しむことは無い。そこまでの思い入れはないからだ。
「んー……いつだろうね〜。分かんないや」
そのことはノアも知っている。
いくら人間らしく振舞おうとも、そこに感情は備わっていない。
人間と触れ合い、感情を理解しようとする者ならまた別になるかもしれないが……。
「まっ、どうせ、またこうして会えるよ」
それはまた別の話。
ここまでよんでくださりありがとうございました。
第4章含め、閑話はこれにて終了です!
第五章につきましては今現在、執筆中ですので、しばらくお待ちいただけると幸いです。
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