237 王国への帰還
ノアの襲撃から数日後が経った。
連日に出来事が溢れすぎて、脳みそがお手上げになっていたのか、高熱を出した。
それでも、どうにかこうにか、自分に治癒魔法をかけながら駆けずり回っていた。
ギルド周りの手続きや、失敗したクエストの説明。
オベラルとの戦闘の調書のようなものまで。毎日を休みなく動き回った。
アルマさんやアンはその間もついてきてくれていた。みんな顔が疲れ切っている。
だから、今日は、二人に休んでおくよう伝えてとある場所に向かっていた。
ここは、始まりの地の街を拠点に置いている血盟ホーム。
あの場所でぼくが食って掛かった人達の場所だ。
妙な正義感を持っている素人が我々に決まり事を破るように促した、と変な広まり方をしないように。
僕が直接口を出した人に頭を下げていく中、色んな声を聞いた。
「若いってのはいいねぇ、怖いもの知らずで」
「勝手に気分がハイになって、それを押し付けてくんだもんな」
「あんなのが銀等級になれる世の中になったのか、残念だ。冒険者の質が落ちてきたってのは本当なんだな」
それらの言葉を聞きながら、アンやアルマさんが同伴をしようとして来てくれたのを断って正解だったな、と思った。
頭をグイと押し付けられ、もっと頭を下げろよと言われ、水をぶっかけられ、暴言を吐かれた。
こういうことは慣れてないと、すごくストレスになってしまう。
ぼくは……下手に、こういうのに慣れてるから。
外面では謝りながら、本心では悪い事をしたと思ってはいない。
しかし、先輩冒険者に対して、頭を下げるのはこの業界で生きていく上で必要なことだと思う。
そこはどの世界でも変わらないのだろうから。
でも、あの時とは違うのは、ぼくの立ち位置だ。
この人達に頭を下げている【自分の無力さ】に腹が立ってくる。
怒りの矛先は自分なのだ。
この人達じゃあない。
どうせ、謝ったら、もう会うことはないんだから。
「今回は……本当にすみませんでした」
僕は最後にそう言って血盟ホームを後にした。
◇◇◇
「あ? 謝りに行ってきたのか?? あんな奴らに謝りに行く必要なんてねぇよ」
「えっ!?」
始まりの地の街を出発し、増援に駆けつけてくていたアサルトリアの人達が乗ってきた馬車に乗ってぼく達は帰っていた。
その中で作ってきたおにぎりを渡して謝ったことを話題に出すと、すぐさま変な目を向けられた。
「だ、だって、先輩冒険者だし……」
「クラディスは何も間違えたことなんかしてねぇだろ。俺とレヴィは来んなって言ったけどよ、普通なら後方支援くらいはしねぇとな。あそこに血盟を構えてるんなら尚更だろ」
「クラディスの考えが普通だ。アイツらがおかしいだけ、気にせずともいい。所詮は上位冒険者がいない弱小血盟だ」
「うわ、レヴィ……キツめなこと言うな」
「それに、あの者達よりクラディスの方が強い。頭を下げずとも良いのだ」
「冒険者っていいながら、手柄を立てようともしねぇのさ。その点、クラディスは倒そうとしてたから冒険者に向いてら」
僕が作ったおにぎりを二人は頬張りながらそう言ってくれた。ふたりともほっぺたに着いてますよ。
他のアサルトリアの人が手を出そうとするとペシャリと叩き、ムロさんとレヴィさんが独占をした。
そんなこともあろうかと余分に作ってきたおにぎりを血盟員の人達にこっそりと渡しておいた。お近付きの印です。平野家のおにぎり(異世界バージョン)をどうぞ。
右手がまだ完全に治ってないですので、形は歪ですが。
「こんなに美味いおにぎりを作れて、魔司者に臆せずに立ち向かえて、他の冒険者から形はどうであれ信用されてる。あいつらにはねぇ物を持ってんだ。あとはそのナヨナヨしたのを直したらもっと良くなるけどなぁ〜」
ガハハと笑いながら作ってきたおにぎりを頬張ると、すぐにムロさんは寝始めた。
驚きの速度。めちゃめちゃ疲れてたのかな。
「冒険者って仕事をしている上で、格下って思われたらその内めんどくさいことになる。それにあの血盟とは会わないだろうし、放ておけばよいのだ」
「そういうものなんですね」
「そういうものだ」
同業者の先輩には【とりあえず謝る】というのが身に染み付いていた。
悪癖というのか、でも、昔はそうしないとダメだったからなぁ。
冒険者は、そうか、狭いオフィスや店舗の中に範囲が限定されない……。冒険をする者だから、自由な生き方ができるのか。
「……謝り損かぁ」
そう思うと、ふつふつと怒りが湧いてきた。
「今から謝罪を撤回したい……、しなくてもよかったんだって思ったら頭を下げた事実を無くしてしまいたい……!」
「……クラディスはたまに素が出てくるな」
「……素、というか……いつも取り繕ってるつもりはないんですけどね……いい子ではないので」
「ふむ……それならもっとつけ加えると、あの者達はクラディスが解決した下位ダンジョンのクエストを解決できなかった者達……ってなるとどうなる?」
「最高に最低な気分になりました」
レヴィさんは僕の反応を楽しむとムロさんと同じように仮眠をとり始めた。
幌の中はさほど広くない。
アサルトリアの増援できた人達は5名程で、僕達と合わせると中はぎゅうぎゅう詰めになってしまう。
そこで話し合ったのは男女で馬車を分けるという話だ。
アンとエルシアさんとアルマさん、そして増援で駆けつけた女性冒険者二人は別の馬車でデュアラル王国へと帰っている。
僕達が先行し、女性専用馬車が僕達の後ろだ。
幌から顔を出すと馬車を運転しているエルシアさんの顔が見えた。
目が合うと、後ろに何か声をかけるような仕草を見せ、直ぐにアンとアルマさんが顔をのぞかせてきた。
口が動いてるからなにか喋ってるんだろうけど……何を言ってるのか分からないな……。
とりあえず手を振り、幌の中に戻って僕は荷物の整理を始める。
こういうのいいよな。二つの車で目的地に向かって、後ろの車にちょっかいだす感じ。
向こうは車でおでかけとか小さい時にしかやったことなかったし、車も一台だけだったからなぁ。
「おい、クラディス……だっけか。外見てみろよ」
荷物をまとめ終えると、御者席の男の人が声をかけてきた。
「? 外ですか? さっき見ましたけど……」
「運転席から」
突然声をかけてきてくれたけど……外に何かあるんだろうか。
のそのそと人にぶつからないように移動していき、顔を外に出て見てみた。
上から落ちてきた、ほとんど透明なそれが、手の上に乗っかって、溶けていった
「……あ。そっか、もう、そんな時期」
「初雪だな〜、王国に帰る頃には積もってるかもしれねぇな」
「そんなすぐ積もりますかね……?」
「何言ってんだ、毎年毎年すぐ積もるじゃねぇか。これは早めに帰らねぇとなぁ〜」
毎年積もるのか。
空からパラパラと降ってきた白いふわふわしてるやつ。この世界に来て初めて見る雪だ。
冬の訪れは楽しみではあるけど、冬季になったら色んなことが待ってるから少し寂しくもある。
ケトスも行っちゃうし、ムロさん達もダンジョンに挑むって話しだし……。
「……ぼくももっと強くならないと……」
この世界で初めての冬の到来に、備えなければ。
これにて、第4章は終了です! ここまで見てくださってありがとうございます!
これから閑話を投稿していきますので、そちらの方も読んでくださると嬉しいです。
また、評価やブクマ、コメント、レビューをお待ちしております。
いや、まじで。モチベバク上がりです。皆さんが思ってるよりもバク上がりします。
(三年ぶりに更新したのに、図々しいですが……!! もらえたら嬉しいんだもの!!!)
第4章。多くの人に見てもらえて嬉しかったです。
ブクマが10件以上増えて、評価もお二人からいただきました。
評価を真摯に受け止め、頑張ってより良い作品づくりをしてまいります。




