223 帰るまでダンジョン攻略です
「キャアアァァア!!」
「女の子……!?」
「やめてっ! 近づかないで!!」
骸骨騎士の肋骨の中で布に包まれていたのは少女だった。
僕やアンと見た目はそう変わらない。身長は僕達よりも高いみたいだけど……って……。なんで、こんなところに……っ?
「落ち着いて……」
そう言いかけて、少女の体から溢れ出ている魔素の色に驚愕をした。
「黒……」
それも、真っ黒。
その色って……魔物しか持ってないはずじゃ……!?
そこでようやく、気づいた。
女の子が部屋の中にいた場合、魔物と人間がこの階層に一緒にいることになる。だけど、僕達が来た時に……開いていた。
――この子は……魔族か……!
アンもその異様な気配を感じ取ったらしく、仕留めようと拳を握ったのが見えた。
「やっ……! こ、来ないで――ッ!!」
その刹那、出現した。いや、再び現れた、と言うのが正しいか。
少女が叫んだ瞬間、僕の視界に溢れた情報は今まで見たどの光景よりも、肝を冷やすものだった。
黒い魔法陣が僕達を取り囲むように形作られ、そこから現れたのは五体の骸骨騎士。
「――なッ!??」
「これは……!?」
まずい。これは、非常に、まずい……っ!
この状況から抜け出せる策を探すが見つかるわけもない。
「こいつを殺せば……!」
「し、し、深呼吸ゥ――ッ!! にゃん!!!」
大きな声を出し、手に持っていた武器などをしまい込み、両手を広げて頭の上で丸めた。
「にゃん……?」
興奮した相手を収めるためには、宥めるかそれかもしくは他の感情で上回るしかない。だが、僕はお笑いのセンスも涙を誘う話も出来ない。だから! 驚きで……!
「僕は、敵ではありません!! 僕達はァ、他の冒険者と違います……ッ!」
大きな声に大きな声を重ねられ、少女はキョトンとしてる。
このままだ。このまま、畳み掛けていけ。
「僕はクラディス。こっちの子はアン。僕達は君に危害を加えるつもりはありません! お話をしましょう!」
「お、おはな、し……?」
「ええ、そうです! お菓子とか、お茶とか、ミルクとかコーヒーとかコーラとか飲みながら! ね! 一緒にゆっくり!!」
大きく頷き、警戒させないようにその場で……。
だけどそうしている間にも、目の前の子から漏れでる魔素は周りの骸骨騎士を完成させていっている。
「でもその前に、女の子がこんな所に一人でいたら危ないです。なので、一緒にここから出ましょう!」
「出るって……、何回もやってみたけど、できなかった……」
出ようとする意思はある……!
ここだ。ここしかない。
「それはそのはずです。あなたは今、僕達を敵だと思ってこの骸骨達に魔素……あ、パワーを送ってるんです!」
「ぱわ……」
分かりやすく、変な用語を使わない。
この子は混乱してる。何がなんだかよく分かっていないみたいだ。
「そのパワーを抑えてくれたら、ここから出れるんですよ」
「パワーを抑える……って、どうやって……」
「難しくないですよ、僕と同じことをしてくださいね」
そう言い、大きな動作で深呼吸をしていく。
「スー……ハー……」
「すー……はー……」
「あなたから出てるパワーを意識してもう一回。スー……ハー……」
「すー……ハー……スー……ッ」
と、最後の息の吸い込みで魔素が見えなくなった。ちらと周りを確認、不完全な状態で立ち尽くしている骸骨騎士達。
あとはこれを戻してもらう必要があるんだけど……。
「ど、どうですか……? これで……ぱわーは」
「ばっちしです。あとはこの骸骨を戻すことって出来ませんか?」
「……? わからない、どうやって出たのかも……」
「そ……うですか」
どうしようか。危害を加えないと言っては見たものの、この骸骨騎士がいる以上、おそらく扉は開かない。
目の前で倒す姿を見せたら警戒させちゃうかもしれないから……。
「……」
チラとアンに目配せし、僕は前に歩き出した。
「あ、のっ、あまり……そのっ」
「あ、ごめん。そんなに近づこうとはしないので……えーと」
手を差し出すと、ビクリと体を震わせた。その目から目を離さず、目があうと僕の手のひらの上を見た。
「ほら、見てくださいよ。この手。めちゃめちゃ汗ばんでるの分かります? こんな感じですけど、ぼくもめっちゃ緊張してて。だから、お話できたらいいかなって思って」
「……」
ちらとその少女の顔を見上げると、目が合って。首を傾げながらも頷いた。
「隣、行っていいですか?」
「あ、うん。……ど、どうぞ……」
真正面ではなく、隣に座ると緊張を口から外に出した。
横に座ると目こそ合いはしないけど、顔はこっちの方に向いてくれている。おとなしめのクラスメイトと話す時にこんな感じだったよな。
顔は完全にこっちにむいてないけど、ちょっと顔が下に向きながら、おずおずとしてるの。
「そういえばなんですけど」
「ひ、ひゃい……」
「リラックスをするのに重要なのは、一度目を閉じて、深呼吸をくりかえすこと。上を向いて、空気を取り入れて」
「……こう?」
「そうそう。目を閉じて……」
その説明をしている間に、アンは反動から立ち直った身体で不完全な骸骨を全滅させた。なんという早業。
「ね。ほら、リラックス……でき、た?」
「……すぅ…………」
「え”っ” 寝てる……」
──バァン!!!
「あ、扉開いた」
そんな急に開くものなんですか? こわっ。
「と、とりあえず……終わったってこと、でいいのかな」
アンと顔を見合わせ、二人して肩をゆっくりと落としていき、押し出されるように息を吐き出していた。
「「つかれた〜……」」
◇◇◇
「あるじ、そろそろ元気を取り戻してください」
「ううう……だっでぇ……階層突破の、連絡、わずれぢゃったせいで……アンにめいわくかけぢゃっで……」
ズビズビと泣き、持ってきたタオルで涙を拭きながら罠を避けながらと道を戻っている。
今は、五階層の骸骨騎士を倒してから数時間が経ったかというところ。
あの怪物を倒したら、入口と出口が大きな音を立てて解錠された。
その場で直ぐに通信魔導具を使って連絡をしないといけないというのに、僕がド忘れ。
四階層に戻って階段で休憩をしている時に思い出して……大急ぎで地上をめざしているところだ。
「あと一日もない。どうしよう……間に合うかな」
「これを置いて行けば全然追いつけるかもしれませんよ?」
「ダーメー。色々聞いてみたいことがあるんだから」
アンは自分で背負っている彼女を揺らし、ふんっと鼻を鳴らした。
「……」
あの時、骸骨騎士の肋骨から出てきた少女はまだ眠ったままだ。連れて来てもよかったのか、という考えはあるけど……置いておくのも違うと思った。
「それに……問題はそれだけじゃないから」
「ですね。行きます」
アンが出てきた骸骨に蹴りを食らわせようとすると躱され、詰め寄って頭部を蹴り飛ばし、肋骨の魔石を壊して……ようやく消滅。
「魔物のレベルがなぁ。ケガがなければ、戦えたんだけど」
「今の所、問題はありませんが、連戦続きになると」
「だよね……」
ぼくは火傷を自分で治癒しながらの移動だから、地図役以外はアンに任せている。少女を抱えながらモンスターを相手にしてもらっている状況です。なんとも不甲斐ない。
それで、5階層にいた骸骨騎士や骸骨兵たちが消えたことで、ここらのモンスターのレベルが高くなったんだと思う。魔素が五階層に集中していたのが均等になったことによる相対的な水準の向上、という感じか。
出てくる数、強さが倍以上だ。
ゴブリンからホブゴブリンくらいになった、は少し盛りすぎた気もするが、感覚的にはそれに近い。
これを飲まず食わずで一人でできるケトスって奴はどんな体力をしてるんだ? 寝るのも最低限だろうし。
「地図係、大丈夫ですか?」
「ん、いいよ。大丈夫」
「見る限り酷く消耗をしてますが……魔素の使いすぎでは?」
「うっ……まぁ、うん。けど、アンは両手塞がってるじゃん、いいって」
地図係をしながら、感知をしてアンの負担の軽減をしていた。というかそれしかできないからこれでも負担は軽いほうなんだけど。
「……」
「……?」
「このままわたしが持っていたら投げ捨てるかもしれません」
「……わかったわかった。交代ね」
アンなりの気遣いか、それとも本心か分からないけど少女の体を受け取った。右手の火傷がいたすぎるけど、治癒魔法で痛覚を鈍らせてるからなんとかいけるか。
──むにっ。
「……うっ」
「?」
「あ、いや……」
むにっとしたのが背中に。
それに太ももが、持つ手にくい込んで。
なんであんなところにいた人がこんなに発育がいいんだ……??
「じぃー……」
そんなジトっとした目で睨まないでほしいよ……。
僕だって一応は男の子なんだからさ。
そう思ってたら、アンが自身の胸部に手を当ててわしわしと動かし始めて、こちらをまた向いて……隣に来て、背中の少女をガン見して。
「……受付をしていた時に聞きました。男性は”にくつき”がある方がいいと、あるじもそうなんですか?」
「こっ、好みがあるんじゃないかな?」
「あるじはどうです」
「……まぁ、うん。好きではあるかも」
「そんな――」
「アンにはアンの魅力があるから!!」
なにか言われる前にお気持ち表明。
顔をひきつらせていたアンは、すぐに別の感情が顔の上に乗っかって。
「っあぁる、じ……? えっ、いま、なんて。わたしに、みりょく……ですか?」
「……恥ずかしいんだから。はやく、進んでよ」
余っ程満足のいく回答だったのか、耳を真っ赤にさせて、バタバタと足を地面に力強くつき始めて。
「てって、て、て、……ッ〜!!」
ビュンっと目の前から走り去っていってしまった。
「す、すっ、進みすぎだ!!」




