216 骸骨騎士
あの時の……ティナ先生と訓練していた時のことを思い出せ。
何を考え、何をすれば、勝てる確率が上がるか。
そして、その少しでもあがった可能性を信じ、身を投じる。100パーセントのものなど戦闘にはない。
『使えるモノは使え、想像力を働かせろ。未熟なお前はそうしないと生きていられないのだから』ですよね、先生。
ピントを合わすように骸骨騎士を睨み、視覚情報を得ていく。
この20m程のドーム状の空間で、あれほどの大きな刃。中心に立たれれば、振り回すだけで逃げ場がほとんどなくなる。
壁際へ押し込む必要性……その際に発生するリスクはどうだ。
大きな敵は鈍いのが常。大振りには隙が生じる。だがこいつは、早い、大きい、隙もない。
そして一振りでも食らえば炎に巻かれてしまう。それに炎だけでなく単純な物理も強いのは想像がつく。
こちらには攻撃手段はあるが、無闇に使う程はない。
攻め寄る敵を前に、情報を並べ、叩き込む。
現状の理解は済んだ。だがしかし……
「情報が足らない」
端的な言葉で伝え、武器を取りだした。
「けど、壁際へ押し込もう。分が悪い」
「……様子見をしつつ、引かせる」
「そ」
二人での連携はクエストでやってきた。
今更特段連携力が上がるわけもない、やってきたことをやるだけ。
――チリッ。
「……? アイツ、いま」
腕に力が入った?
「――来る」
そのアンの言葉半ばに、グンッと目の前に黒炎が迫ってきた。
「っぶな!!」
投擲!? いや、衝撃波か!
鼻先に触れる寸前で大きく回避。認識票が沢山落ちている地面に手をつき、小刀を握り直した。
衝撃波も撃てるのか、だったら間合いを詰めたほうが……。
「!? あるじ、こちらへ!」
「えっ!? なんで!?」
「その場所から、早く!」
何を言って……?
僕の注意が骸骨騎士からアンに向かった瞬間。それは、来た。
――チリッ。ボオオッ。
衝撃波の軌道上に出来上がった黒炎が僕とアンの間を遮り、炎の壁を作り上げたのだ。
「くそっ! オイッ、でかぶつ! こっちだ!!」
アンの声が炎壁の向こう側から聞こえたが、骸骨騎士はこちらへ真っすぐ走ってくる。
「なっ! またあるじのほうに……!」
「……僕狙いってことね!」
ぐわんと大きく広げた二本の黒炎大剣で地面と壁にガリガリと傷を付けながら、わざとらしい程大きな鎧の擦れる音と大きな足音を立て、近寄ってくる。
「っ……」
一歩一歩、かつての冒険者が身に着けていた認識票を踏みつけ、迫りくる怪物。迫力は高速道路に放り出され、暴走するダンプカーを前にしているようなもの。
声は当然骸骨だから発せられない。しかし、咆哮でも当てられたかのように、恐怖で体がすこしだけ強張ってしまっている。
――グンッ。
「ンで、まッた……それかよっ!!」
何度も振られた大剣から発せられる、黒炎を纏う衝撃波。
下、右は壁。左は黒炎。どうしたら……!!
立ち向かう? だめだ。
股下をくぐる? いや、もう通用しない。
――そこで、ピンッと閃いた。
「……あった」
僕が、直感で感じた、逃げ道。
「――『脚力増強』……!!」
脚に魔素を込め脚力を増進、思いっきり上へ跳んで、回避。
黒炎壁にギリギリ触れず、アイツが入っていた窪みに手をかけ、振り子のようにしてアンの方へ飛び降りた。
「ご無事ですか……!」
「はぁ……はぁ……。うん……。アンの動き見といて、正解だった」
炎の壁と言っても、天井まで届いている訳じゃない。
それに……あいつが潜んでいた場所は、窪みになってるから。
「……とりあえずっ、衝撃波があるから距離を詰めた方がいい」
「ですが、炎に触れたら……」
「あぁ、うん……つまり、めんどくさいってこと」
ついと骸骨騎士の方を向き、表面上だけ勇ましく取り繕うように笑った。
わざわざ衝撃波からの分断って戦術的な展開は森の魔物でもやられたことがない。ましてや、このダンジョン内に発生した魔物でそういう行動を取ってきた魔物はいなかった。
頭がいいというか……やりなれているというか……
――いや、もしかして僕の障壁を真似たのか……?
表情が、少し、歪む。
そうだ……こいつ、あの二体の骸骨兵士と戦っている間に上からずっと見ていたんだ。
だったら、敵が二体いた時の戦い方として分断を選択することもできる……。
僕らからではなくとも、ここに訪れた冒険者にされたことを学習をして……。思えば、金等級や白金等級の人ならやってもおかしくない戦い方ばかりだ。
学習を……しているっていうのか……?
黒炎が熱風を送ってくるというのに、背筋にヒヤリとしたモノを感じた。
「ねぇ、アン……もしかしてだけど」と言葉を言いかけると、
――ガゴッ。
と、炎がゴオォォッと煩く燃えている中、金属音のような音が混じった……気がした。
「……いま」とアンが長耳を揺らし。
「うん……」と僕も振り向きかけていた顔を炎の壁へと戻した。
すると、入口から出口にかけて作られていた黒炎の壁が、フッと一部分だけ消えたのが見えた。
咄嗟に身構え、「障壁」を張り、様子見。
――グンッ。
また、あの音が鳴った。
あ。これ。ここ。この場所。マズイ。
「アン」
「あるじ」
「「回避を(して)」」
お互いに顔を見合わせ、『身体強化』を上限まで高めた。
瞬時にバリンッという割れた音が響いた――障壁がぶち破られた音だ。
炎の壁を突き抜け、僕とアンの後方に通り過ぎたのは……二本の黒炎大剣。
「投げたのか……っ!」
一気に高めた身体能力で崩れていた体勢を整えつつ、壁に突き刺さっている大剣を確認。
深く、壁に突き刺さってもなお黒い炎は揺らいでいる。
「あるじ! いまなら!」
「いま……あ! そうか、投げたなら」
今、アイツは武器を持っていない!
ならば、と武器を取らせぬように位置取り、立ちまわる。
武器を構えてスキルをかけ、準備万端。上から回るか、どうするか、と考えていると今度は完全に壁が消え、骸骨騎士の姿が鮮明に見えるようになった。
「なんで――いや、いましかない……!」
疑問を疑問とせず、壁が消えたのを好都合だと捉える。
「詰めます――ッ!」
アンが走った勢いそのままで蹴り込んでいく。ゴンッと鈍い音が響いた。
すかさず、よろけた骸骨騎士に追撃し、すぐに次の攻撃に備えていたアンに前線を委ねる。
「あああぁァッ!!」
「はあぁッッ!!」
二人で代わる代わる攻撃をし、その重厚な鎧に傷をつけていく。
修復速度が早く、体面積が広いのなら魔石のある胸元狙うのが得策。口で確認し合わずともアンもそれを理解しているようだ。
拳の振り下ろしを『風刃』でカバーし、ホワイトボグの小刀を胸もとへ突き立てた。
鎧の修復、それを上回る速度での削り。だけど……
「こいつ、硬く……っ!」
途中から硬度と修復速度が上昇していき、いつの間にか傷が無くなった。
「止めないで! 押し込めれたらそれでいい!」
「わかりまし、た……っ!」
だけど、攻撃の手は緩めはしない。少しでも情報を得ながら、有利な状況を作り出すんだ……!
僕達の連撃は止まらず、抵抗をしなくなった骸骨騎士の体は少しずつ壁際へ後退し始めた。
もう少しで壁際へ押し込める、といったところで得た情報の処理を並行していく。
「……おかしい」
よろけたって、なんで?
アンの衝撃波より蹴りの方が効くってことか? アンはあまり蹴技が得意ではないと言っていたはずだが。
そもそも、僕が撃った衝撃で片腕が全部吹き飛んだのもおかしな話だ。
そして、何故硬度と修復速度があがった?
それに……反撃してこない理由はなんだ?
反撃してきたのは振り下ろしの一度のみだし……。
炎の壁を解除した理由も、武器を投げた理由も。あの状況だったら衝撃波でよかったはずだ。
学習をしていたとしても、まだそこまでは頭が回っていない……?
「っあァ!!」
思考も半ば、アンの最後の一撃で骸骨剣士を壁に追いやることが出来た。




