215 ”危険指定階層”
あれこれと考えながらも落ちていた大弓を拾いあげて弦をぐいぐいと引っ張ってみる。
持って帰れるのなら、持って帰っておきたいけど……いいのだろうか。
魔物が使っている武器とかって一緒に魔素に変わるって聞いた気がするのだけれども。
「はっ! これ! もしかして噂に聞いたドロップ品とかなんじゃ……」
『ドロップ品』とは、魔石同様に換金できて自分で使うのもオッケーって代物。
骸骨剣士と弓士の魔石は既に壊れて持って帰ることが出来ないし、この武器を持ち帰って臨時収入とすることも……!
「そういえば、あるじ、あの者達へと連絡をするのでは?」
「……あー、忘れてた」
通信魔道具を収納袋から出して魔素を注いだ。
――チャリンッ。
「大剣と大弓邪魔ですね……。壊しておこうか」
「んっ……はっ? えっ? 繋がらないんだけど」
何度も言われた通りに魔素を注いだのに、うんともすんとも言わない。
故障かと思ってブンブン振っても直らない。
「電波……とか?」
「あるじ、これ壊してもいいですか?」
「ん? あぁ、うん――……えっ……!? あっ! だめだめ! 持って帰るから……」
バキッ。
「え」
「あ」
サラサラとダンジョンに吸収されていく武器だったモノ。
「あー……」
「す、すみません……!」
「いや、いいんだ。うん。次からは壊さないでくれたらいいから……」
気を取り直してボス部屋の入口から出口の方へと移動したり、高く持ち上げたりしてもなんの反応もなし。スマホの前の携帯とかはこうやって動かしたら電波が通るって聞いた気がするぞ。
ふむ……。この街までくる道中だと通じたんだけどな、故障か?
――チャリンッ。
「んー……そういえば、扉って開いてないのはなんでだ?」
「え? あ、ほんとですね」
気が付かなかったけど、僕の目の前にある出口の扉は未だ開いていない。
「蹴り破ってみますか?」
「ダンジョンのだから壊せないと思うけど……。あ、アンそのままそこにいて。そっちの入口の扉が開くかやってみてほしい」
ガチャガチャ……とは聞こえない、そもそもガチャガチャ鳴るドアノブとかついてないし。
それでもギギギもゴゴゴも何も聞こえない。
「ンっ、ぁ……開かないです」
「入口も出口も開かない、か」
なんで? ボス個体を倒したら扉が開くっていうのに……。
――チャリンッ。
「……っていうかさっきから鳴ってる音って何? この、軽い金属音みたいなの」
「わたしではありませんよ?」
「え? だったら何が……」
アンの言葉で入口を振り返ってみると、音の主が今まさに上から下へと落ちているところだった。
――チャリンッ。
それは、冒険者の認識票。
さっきから物音を立てていたのは、上から落ちてきていた金と白金の認識票だった。
「――ッ!」
ゾワッと背筋が凍る。身の危険を感じた。
瞬間的に『身体強化』を高めたことで壁に体をぶつけた――
――ザクッ。
僕が飛んだあと背中の傍で鳴った肝の冷える音。
「なんっ……だ……?」
バッと振り向くと、黒い炎を纏った剣が僕がさっきまでいた地面を抉っている光景。
その黒炎が広がり、出口は塞がれてしまった。
するとその剣が消えた――いや、上方へ勢いよく動いた。
――ドンッ!!
次の瞬間、上から地面へと降り立った者の手に黒炎大剣が握られていた。
「……骸骨の、騎士……?」
僕とアンの間に降りてきたのは先ほどまでの骸骨とは比べられない程大きく、黒い魔素が固まったような鎧をご丁寧に頭まで装備している骸骨の騎士。
首元に粗末に下げているのは、冒険者から奪った数十個の認識票。
天井を見上げてみると、暗闇で見えなかった縦穴があることに気づいた。
「くそ……っ」
油断していた。目の前にいた骸骨に目を奪われて……気が付かなかった。
「あるじ!? ご無事ですか!」
「なんとか、ね」
とりあえず……は、アンと合流をするのがいいか。
いや、二方向から攻めれば……対処しづらい……か?
「アン、そこに居てね。このまま二方向から……」
と、言葉を言いかけると空いていた手にもう一つ大剣を召喚し、距離を詰めてきた。
「まず僕を潰しに来る訳か――ッ!!」
重そうな鎧をつけてるっていうのに、動きは鈍くない。
なんなら、ダンジョン内であった骸骨よりも素早く僕の間合い内へ入ってきた。
左右のスペースを使って避けるのが良いか……? どれだけのスピードで動けるのかは見当がつかない――から。
思考を放棄し、こちらも全力で骸骨騎士を目がけて走り出した。
――ブンッ。
「うっッお……ぁ!」
横振りの黒炎大剣に触れないように身を屈め、そのまま大きな股の下を抜けて――
刹那。もう一つの大剣が上から振り下ろされた。
予備動作が見えなかったぞ、コイツ……!!
死ぬ? 死ぬ……? これ、当た――回避ッ!!
咄嗟に手を付き、跳ね起きた。
だが、振り下ろされた時に巻き起こった風でアンの方へと吹き飛ばされていく。
くっそ……っ! 好き勝手攻撃しやがって……!
「――飛ばせ、『衝撃』ォ……ッ!!」
体が流されながら、腕の関節を狙っての衝撃を撃ち込み、腕を飛ばした。
「無茶を……!」
壁にぶつかる前の体をアンがキャッチしてくれて、壁に背中から打ち付けられずに済んだ。
「いてて……助かったよ」
「さすがに下を通るのは……!」
「ごめんって。で、でも、ほら、片腕は飛ばしたから――っ……?」
謝りながら骸骨の騎士の方に目を向けて、息を飲んだ。
――ズズズズ……。
欠損していた腕に黒い魔素が集まり、吹き飛ばした鎧ごと修復していっている。
そんな、馬鹿な。腕まるごと治すなんてこと……。
「そんな……」
「……自己修復者……?」
腕と鎧が元通りになっていく光景に釘付けになっていたアンから、聞いたことがある単語が聞こえた。
「それって……アンが持ってるユニークスキルだよね?」
「はい。ですが、腕を修復するには膨大な魔素が必要になります。わたしはまだ、片腕一本丸々の修復は不可能で……」
「それをサラッとやってのけたわけか」
笑えてくる。腕を再生するボス? それが最初のダンジョンの最初のボスで出てくるって?
「……まさに、異常事態だな」
ほぼ密閉された空間で大きな魔法はご法度だ。だとしたら近接戦闘になるのか。
出口を覆う黒い炎が消えていないのを見ると、もしかして消えない炎なのかもしれない。
もしそうなら、攻撃を掠めたり受けたりしただけでもダメだな……。
個体名:偉大ナル黒炎騎士/???
耐性:物理攻撃大幅軽減、魔法攻撃軽減、状態異常無効、隷属化無効
特筆事項:黒炎は対象物の魔素反応がなくなるか???まで消えない。
鑑定の結果をみると、やっぱりあの大剣が厄介みたいだ。それに、物理攻撃が大幅軽減って……。
「あの黒い炎に注意。あとは物理がダメっぽい」
小声で伝えると、アンが頷いたのが見えた。
アンの炎耐性を持ってしても、普通じゃない炎ならばわざわざ食らうことも無い。
しかし、魔法を使いにくい空間なのに物理攻撃は効きづらいときたかぁ……。戦いづらい相手だ。
「触れるのもダメですか?」
「多分。消えない炎なんだと思う」
「それなら……間合いに入るのは厳しそうですね。……魔石の位置は」
「多分、さっきまでと変わらないと思う」
「では」
そう言いながら、グイッと右手を回すようにして引き、体を低姿勢に構えた。
そして、それを真っ直ぐに突き出した。
「……『大砲』」
――ゴウウッ。
視認可能な衝撃波が、ほぼ視認不可な速度で空間を裂く。
勢いそのままで骸骨剣士へとヒット。衝撃音……が鳴ったけど、
「……無傷、ですか」
何事もないように突っ立っている。
よろけたり、防御をしたり、そんな素振りす見せずに真正面から受けたはず……。
「硬い……白金等級の重装備のより、はるかに」
「そりゃあ、派手な登場をしてくれたからね。あの時のおじさんよりは自信がはあると思うよ」
戦ったことのない相手、無策で戦うのは無謀。
今、何も分かっていない現状で、自分がするべき最適な行動はなにか。
「さて……、どう勝とうか」
大きな敵を前に、僕の頭は勝ち筋を探し始めた。




