217 強くなった気でいたんだ
距離をとり、首と両腕を下ろしている骸骨騎士を視界に収めたままアンに「どう思う」と質問を投げかけた。
「……不気味、ではあります」
「傷はつかない。かと言って攻撃も最初の頃の機敏さはなくなった」
「腕の修復で……魔素が減った……とか」
「だとしたら……なんで僕を攻撃した時はあんなに俊敏だったのかって説明がつかない……」
だけど魔素って着眼点は正解だろう。魔素で構成された体、魔素で作られた鎧。
おそらく、核となる魔石から魔素を抽出して……体を修復しているんだと思う。
…………。うん、ダンジョン内から魔素を受け取っているような感じもない。だったら……。
――ぐおんっ。
小さな金属音が鳴り、両腕に微かに力が入ったような気がした。
「また、うごい――」
「!? 伏せて!!」
視界が横にぶれ、アンが僕に覆いかぶさる形で地面へと落下。
直ぐにそこにブォンっと後ろから何かが通り過ぎた。
「イッつ……なにが――」
見上げると、壁際の骸骨騎士が大剣を二本握っている光景。
バッと後方を確認。壁に刺さっていた剣が抜けている。
「……ぁ」
アンが気が付かなければ、剣に当たって……死んでた……?
寒気が走った。
息が荒くなる。
そして、頭が真っ白になった。
「――早く!! こちらへ!」と後ろから声が耳に入ってくる。
だが、すぐには言葉の意味を理解できず、動けなかった。
そうしている間に、地面に尻もちをついた僕の目の前でぐわんっと二本の剣が振り上げられた。
――死ぬ?
目の前で起こっていることなのに、僕ではなく誰かの……、そう、三人称で見つめている気分だ。
今起こっていることに現実感がない。
だけど、頬が引きつらせて座っているだけの僕は、確実にそこにいる。
大剣を取らせまいと対角線になるように立ち回り、掌の上で転がされた憐れなこどもが。いる。
さっきまで攻勢だったのは?
さっきまで余裕で敵を分析していたのは?
――これが……僕、か?
その刹那、骸骨騎士に、睨まれた。
スケルトンに眼球なんてない。ただの穴だ。だけど、そのような気がした。
「……っ、あ、レ……?」
体が……動かない……!?
そこでようやく異変に気付き、真っ白だった頭に情報が流れ込んでくる。
――目の前には燭台の明かりを背中に背負って大剣を振りかぶっている骸骨騎士。
――冷たく感じる地面には認識票が転がっている。
――遠くには握っていた小刀が見える。
――アンは後ろ。僕は腰を抜かし、見上げている。
早く動かないと! と思って何度動かそうとしても、うまく体が動かない。
そして、何故か、震えが、止まらなくなっている。
「あるじ……!?」
「あ、ん……。うご、けない……」
「――っ!!」
寝げ遅れた僕の前にアンが飛び出し、バッと両手を広げた。
護ってくれようとしてるのに……体が竦んで、ただただ目が釘付けになる。
これ……動かないのって……、何かのスキル……を当てられた……のか?
「ごめ、ん……っ」
「ぜったい、あるじは殺させない! そう誓いましたから……!」
アンはそう言いながら、守ろうとしてくれている。
僕は、今まで以上に酷い顔で、その姿を見つめた。
◆
――あぁ、これ、この光景。何度も、見たことがある。
敵に襲われている僕の目の前に強い人が護るように入ってきてくれる。
僕は、いつも、いつも……こっち側なんだ。
人の後ろで、ただ見つめるだけ。
敵と戦うのは、弱い敵とだけ。
口だけは立派に動かし、さも分かっているようにふるまう。
それで、この戦いが終わったら自分も頑張ったように取り繕って、お疲れ、と口にするんだ。
このままじゃ、何も、変わっていない。
あの時と――ソフィスウルフに襲われた時と、何も変わりやしない。
強くなった気でいたんだ。
アンと敵を倒して
高くなったステータスを見て
アサルトリアのみんなとまた冒険ができて
この階層までに出てくる魔物も簡単に倒せれて
ボスだった骸骨兵二体も倒せれた。
心のどこかで、僕も同じ存在になれたんだと思っていた。
僕でも何かできるんだろうって。本当に、そう思っていたんだ。
たった、三か月ぽっちで、本当に、本当だ。
――だけど、違った。
僕は、まだ、甘くて、弱い。
油断をして、慢心をして、アンの近くにいて自分も強いと勘違いをして。
肝心なところで役に立たない。
護られる存在なんだ。
決して物語の主人公なんかじゃない。
よくて、途中までは頑張って付いてくるけど途中からは出番が薄くなるようなやつ。
物語にはいてもいなくてもいい。だけど、いたらいたである程度の人気は獲得して、人気投票があれば10位には入れずとも20位には澄ました言葉遣いで斜に構えて小さな〇の中に居るやつ。
それが、僕だ。
虚像塗れで、実力が伴っていない。
惨めで、女々しくて、頼りない奴。
だから、いいじゃないか。これは、そう言う物語なんだ。
大方、アンが敵を吹き飛ばして、かっこいいとなって終われば良し。
骸骨騎士もアンには傷を付けれれないさ。
◆
――ふざけるな。
地面についている手を握り、認識票を握りしめた。
グイっと手に認識票が食い込み、血が滲む。
だが、それだけだ。これで奮起するわけでもない。
しかし、痛み、というのは体の支配を上書きできる万能なもの。僕はそれをよく知っている。
――護られる存在のままでいいのか?
「いいわけ、……ない、だろ」
――元々は地球人なんだし、最弱ステータスで転生したんだから仕方ないじゃないか。
「そんなわけ……っ、あるか」
僕は、今、この世界にいる。
そして、今、最弱ステータスなんかじゃない。
前とは、違う。今の僕は……違うんだ!
くだらないことで自分を守ろうとせず、たまには活躍をしてみろ……!!
「……考えろ」
さぁ、どうする。
相手の攻撃は早く、中級魔法を詠唱ありで使える時間もないぞ。
とはいえ、詠唱なしの中級魔法は威力が望めないわりに範囲が広く使いにくいときた。
そして、体は未だ動かずとも口からはまともに言葉が出てくる。
ならば、これしかない。
「――『火よ、我に仇なす敵を焼却する力を与え給へ』」
目の前のアンを近くに抱き寄せ、もう片方の手を突き出した。
動揺する声が聞こえるが、お構いなし。魔法を撃つときには意識がそれたらダメなんだ。
今は僕は眼帯を付けていない、つまり僕の現在放てる最大威力の下級火属性魔法。
抑える必要などない。相手よりも、早く、届け。
「『我が望むは槍、敵を貫く槍である』」
大剣を振り下ろさんとする骸骨騎士に向かって、叫べ!!
「――『火槍』っ!」
空間が、明るく、染った。
僕とアンの頭上に現れた細く、鋭く、紅く燃える槍。
その数、50本強。
一斉に現れたソレは、骸骨騎士を捉え、空中に静止している。
そして念じるは、斉射の号令――……。
「行け……、刺されッ――!!」
轟音。
骸骨騎士へ襲い掛かって防具ごと貫き、無数の風穴を開けていった。




