205 ようこそ、依頼消化の旅へ
ケトスとの話が終わった後、レヴィさんの部屋を訪ねた。
「――ってな感じなんですよ」
「それで……こんな朝早くから来たんだな」
「ははは……すみません。レヴィさんなら色々知ってると思って」
布団からのそのそと椅子に座って、机に頬を突きながら先ほどまでの話をざっくりと聞いてくれた。
相変わらず寝起きの目付きは人を殺しそうなほど鋭くなってる。髪も少しぼさぼさだ。
「ダンジョン攻略とかには、その、予約……? みたいなのってしないとダメって聞いてて」
「記録を出すためにはギルドへと申請しないといけない」
「うっ……デスヨネ」
やっぱり、ギルドへと手続きをしないといけないよな……。でも銀等級に上がった日に「行ったらダメ」って間接的に言われたからなぁ。
僕の反応を見るとレヴィさんが眠たそうな目のまま、何か考えるように目線が横に流れた。
「……そういうことか。なるほど。クラディスは申請をせずに下位ダンジョンへと行ってみたいのだな?」
汲み取る力がすごい。
眠たい人でも見えるように大きく何度も頷いた。
「えっと、下見というか、どれくらいなモノなのかって言うのが気になっていて……。もちろん、申請とかして記録は出してみたいんですけど……」
「だが、今は申請した冒険者が下位ダンジョンへと行っている期間だし、予約も埋まっている。ましてやギルドを通したくないと」
「……はい」
全てお見通し。
僕が考えそうなことは予想がつくのか? 心読まれてる?
また何か考えるように目線を外し、机の上に置いていた収納袋へと目が止まった。
「いいぞ、それなら丁度いい話を知っている」
「ほんとですか!」
「危険だが、いいか?」
危険という言葉よりも好奇心が勝って、また大きく頷く。
「この前スタッフに聞いたのだが、とある下位迷宮の予約のキャンセルが相次いでいるらしい。どうも生還者がゼロであるとかなんとか」
「生還者がゼロって……」
「挑戦した中堅層の一党が迷宮から帰って来ない。まぁ、恐らくとても強い個体が出現したのだろう。クラディスは迷宮については知っているな?」
「はい、それはある程度は勉強しました――だったら階層突破の連絡も無かったってことですか?」
階層突破の連絡とは、5階層毎にあるボス部屋を突破した時の数分だけ魔素がクリアになるから地上と連絡が取れる。これを利用して行われる「ボス部屋クリアしたよー」というものだ。
通信具ではダンジョンから地上への通信は、基本的に膨大な魔素が影響して困難。だけど、ボスを倒した後の数分間であるなら、一時的に通信状況が落ち着いて通信可能になる。
キャッチできる情報は酷くノイズが走った音だし、その時間に正確に記録をしないといけないしで結構大変らしい。
「あぁ。それに四階層目まで同伴したらしいが、入っていったきりで開かなかったらしいぞ」
「ということは……5階層目に何かが」
「いるという事だな。それを承知で行くか?」
「……僕的にはいきたいですが、アンと相談をしていいですか?」
「もちろんだ」
いいですよって言ってくれるかなぁ。
エリルはああ見えて戦闘狂だから、いいですよ! って言ってくれると思うけど。
返事をもらえたとして、その発生した魔物を倒してダンジョンを見て回って……正式な手続きをした日に踏破。こんな流れかな。
「場所は……」
収納袋から取り出した紙を持ち上げ、睨むような目で紙面を見つめた。
「最西の街、始まりの街、レイメイ。クラディスを拾った少し西にあるところだな」
最西……ここから何週間かかることやら……。いや、何か月か……?
徒歩では無理か。馬車……乗ったことないけど。
「最西……、最西……?」
って、まって、えっ、このタイミングで最西ってことは……。
ゆっくりと考えていた顔を上げると、眠そうながらもにやりと笑った顔が待っていた。
「アサルトリアの大規模な依頼消化の旅にようこそ、クラディス君?」
まるで睡眠を邪魔した八つ当たりのように言い、僕の方へ依頼書をポンッと投げて渡した。
あ、これ、昨日の話の……。
受け取った依頼書を両手に握りしめている僕の顔は、おそらく、何とも言えない様な、呆れているような、引きつっているような。
とりあえず、僕がそっち側に回るとは夢にも思ってなかった。




