206 黙っててください!
【アサルトリア】でのお試し期間が終了。
初日の雑用の後はレヴィさんの部屋の掃除や血盟拠点内の清掃、血盟員の方達とカードゲーム、卓上演習などなど。
最終日にはアンと一緒に受付をしたり、エルシアさんとペルシェトさんに連れられてお菓子を食べに出かけたりもした。
色々あったけど、長いようで短かった、という常套句で締めくくろうではないか!
なんて思いながら、幌の外を見つめ、移り行く風景を楽しんでいた。
ほんとに、これから最西の街にいくんだ。僕が拾われた場所よりも更に西の……。想像もつかないなあ。
(佳奈の手がかりがあるかもしれない)
ユシル村は襲われて跡形もなくなっていると聞く。ぼくと同じ時期に地球で殺されたとして……近くで転生をしている可能性だってある。
(なにかの尻尾だけでも掴んで帰らないと)
既にデュアラル王国の城壁は見えなくなっていた。位置的には二国間の国境付近と言うところか。
「――その首飾りってクラちゃんとのお揃いじゃない!!」
びっくりした、声大きくないですか……。
僕達が乗っている幌の中、振り返り見るとそこには十数人が同乗をしている。多くが街人のような服装、冒険者のような身なりは僕達のみ。
そんな所での大声などご法度だ。……そのはずだ。いや、世界が違うから……いいのか?
「ああ、これは元々わたしの首輪だったものだ」
と、アンが見せびらかすように星形の首飾りを持ち上げている。
血盟体験の前にトニーさんに出していたのが、つい昨日完成して、取りに行った。
まさか僕と同じ形と色の首飾りを注文しているとは思ってなかった。
「首輪を首飾りにするって……」
「それ、行きつけの防具屋さんでも言われましたよ」
ムロさんがドン引きしたところで話に参加。アンが横にずれてくれてそこに座った。
「それはそうと、他の方達はこの馬車には乗らなかったんですか?」
「あぁ、血盟員ら? これに乗ったら他の乗客の迷惑だろ。俺らだけでもうるせぇのに」
そういうと、チラとエルシアさんの方を見つめた。
本人は何食わぬ顔で、昼食のパンをむしゃむしゃと上品に食べてる。
エルシアさんって言葉遣いとかは結構冒険者っぽいけど、たまに見えるこの上品さはどこから来ているのだろうか。
親御さんが厳しくてよく躾られていた同級生を思い出すような……。
その様子を見つめていると、こちらに気づき「食べる?」とパンをちぎって出してくれた。それ受け取り、ぱくりと一口。
「美味しいでしょ〜」
「ふぁい。おいひぃでふ」
そしてそれをアンにも分けて、アンもぱくり。
ほのかにある甘みが気に入ったのか、微かに目がキラキラと輝いた。
「他の者は少し日にちを置いて出発をする。どの道クラディス達と私達だけがレイメイで、他はその周辺。クエストの種類も違う。日にちが違っても何ら問題はない」
「ふぇー、ほうなんふぇふか」
「それに、あの者らと移動が一緒だと間違いなくクラディス達で遊ぶからな」
「あれやれこれやれって身の回りのことを甘えてくっぞ。血盟体験期間の大幅延長だな」
「そうだな」
クックックッと笑われる。うん、確かに三日間は雑用のようなものを任されていた。
だけど、あなたには言う資格はないと思いますよ? レヴィさん。
血盟拠点全般の雑用はしてましたけど、部屋の掃除や洗濯を任せていたのはレヴィさんだけなんですからね? 悠長に笑っておられますけれども。
最初の魔導書二冊と魔法杖っていう褒美や掃除の合間に本を読めていたから僕としても乗り気だったとはいえ、任せすぎだ。とても勉強になったけど、だとしてもだ。うん。
「あっ、確かこの馬車って決まった場所に泊まるんだよね?」
食事を終えたエルシアさんが、思いついたように声を出した。
そうだな、とレヴィさんに言われ、ふむぅと指先についたパン粉を舐めとってる。
「じゃあ、この五人でどっかに泊まろう! 毎回! 絶対!」
「最初からそのつもりだが」
「なぁんだ……。そっかあ」
「クラディス達を連れていくと決めた時に、かかる費用は引率する私達が負担をすると話をしたではないか」
「……そうだっけ?」
「やめとけレヴィ。こいつ昨日の話し合いの時に爆睡してたから」
エルシアさんらしい。
その話はたしか……、僕らもそれなりに稼いでいます、と言ってはみたけどマーシャルさんに「費用くらい出してやるよ」とクマのぬいぐるみを被せられた時の話だな。
馬車台、食事代、宿泊代……。かなり高額になりそうだけど、甘えられるときに甘えておこう。僕達の家計もあまり裕福ではないから……、最近は装備費用が入り用だったし。
「あ! 旅にかかる費用全部ってことは……もしかして!」
とエルシアさんがこちらを向き、それに続いてムロさんが何かに気づき、意味ありげな笑みを浮かべてこちらを向いた。
? なんですか、その顔は。とても嫌な予感がする。
「クラディス、お前、今回は着替えをもってきたのか?」
その一言で全てを理解。
「エルシアの服を借りずに――イッ!」
「だ、だ、黙っててください!!」
続きを話そうとするムロさんに、収納袋から取り出したタオルをぶん投げ、止めた。




