↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

213/550

202 あいつは、ちがうだろ



 その以前のレヴィに戻ったような言葉遣いに、ムロはそれ以上の追及は止めた。


 ――くだらん、ねぇ。


 言われた言葉を繰り返し、姿勢を直した。


「優しいよな。レヴィって」 


「そうか?」


「あぁ、そうだとも」


「お前の方が優しいと思うがな」


「そんなことねぇさ」


 部屋をぐるっと見渡すと見えるのは、本、本、本、本。


 全て読み終えた本。綺麗な状態の本はなく、程度の差はあれど使い込まれた痕が見える。

 机や棚の上には勉強に使った資料の束。おそらくアレだけではない。もっと量があるはず。

 そもそも、レヴィは協会外で冒険者稼業と両立して研究をしている化物だ。

 まだ年齢もそこそこで、将来に期待をされている上位冒険者の一人。 

 そのような人物が、他人の動きで人生を棒に振るかもしれない状況に身を置いている。


 人が良い、という言葉で片を付けていいものか。

 何らかの意図があるのだろうが……。レヴィにしか分からない話だ。


「エルシアには」


「言う訳ないだろう」


「だよな」


 エルシアが転生者にどんな思いを抱いているか、という趣旨の元の確認ではない。

 ただ、口が軽いからこその不安があった。

 人としては出来た性格をしている。けれど、秘密を共有するには足り得ない。


「もう、あのような思いはしたくないからな」


 目を瞑りながら小さく付け加えた一言。だが、しっかりとした口調で言われた言葉。

 その長くは語らない一言を理解すると、ムロもその言葉に口角を持ち上げる――が、目が笑っていない。 

 話が終わったような雰囲気。おそらく、レヴィから言うことはもうないのだろう。

 クラディスと話している際もずっと見ていた本を、今も眺めている。

 静かな空間に、ぱらぱらという左から右へと紙が移る音のみ響く。

 

 このまま話を切り上げても良かった。しかし、この感傷に浸るような雰囲気の中でムロはどうしても吐き出しておきたいことがあった。


「……全部、ア(・)イ(・)ツ(・)の言う通りに事が進んでる気がしてならねぇ」


 それは、話の流れからは決して出ないような言葉。

 呆れているような声色。だが、真剣みを帯びている。

 その言葉の含意を読み取ろうとレヴィは本を読む手を止めた。決してムロの言葉を遮らないように、との配慮をしつつ。

 

「どうも、この世界ってのは面白おかしく操られてる気がしてならねぇな」


 その後に続けられたのは、都市伝説めいた発言。

 世界を操ることが出来るのは、と考えを及ぼしても答えはそれほど出てこない。

 権力者、勇者、賢者、魔王、魔族、はたまた神様か。

 おそらくムロも気がしているだけで、それが何なのかは分からないのだろう。


「あいつが自由に生きれるような世界にならねぇもんかな。楽しく、さ。そんなに難しいことなんかな。俺はアホだから分かんねぇよ」


「難しいさ」


 そこでようやくムロの独り言を会話へと成り立たせた。

 

「嫌われているからな、彼らは」


「そういうことじゃねぇよ。それ抜きに考えて、だ」


 転生者が咎人と認識されているこの世界では、そもそもこの問は意味の無いものだ。

 だから、転生者がもし嫌われ者でなかったらという話。

 これも意味の無い話だと感じるが、話をしたいのなら、とレヴィは口を開いた。


「力を持つ者は、力を持たない者ができないことをやらされる。その持つ力が大きくなればなるほど、多くの者に利用をされ、使えなくなったら捨てられる」


「……んだそれ」


「過去を見れば分かることだ。そうして、世界は移り動いてきた」


 そう例えば、仲間を引き連れて成長をして村を転々として魔王を打ち倒す有名な話。


 土地がまだあった時の話だ。その時から勇者は王様からの勅命で、魔王を少数精鋭で倒しに行かされている。

 若しくは、数百年前にあった絶望的な状況からの勇者と賢者のパーティーが魔王を打ち倒した話。

 若しくは、勇者ではなくとも力ある者が上位魔族を倒した話。


 どれも、力ある者の歴史を華々しく冒険譚として記しているだけのもの。

 その中に、少なからず何人かは利用されていただけの者がいたはず、というのがレヴィの見解。


「──違うだろ」


 だが、そうだとしても、そうではない。

 歴史から読み取れる強者が利用されるという話は正しいのだろう。

 それが、強(・)き(・)者(・)、であるなら当てはまるのだろう。

 レヴィの言わんとすることは理解できる。できるが、


「あいつは、弱い」


 その声は真剣そのもの。馬鹿にしたような感情は微塵も混じってはいない。

 きっぱりと言われた言葉に、目を少し大きく見開いた。

 その言葉の意味を理解できないレヴィではない、そうだったな、と小さく返す。

 そして同時に思う、やはりお前の方が優しいではないか、と。 

 一生懸命、クラディスの明るい未来を探す姿は父親のそのもの。

 決して口には出すまい。言ってしまうと、照れて、普段通りにはぐらかされるのだから。

 レヴィがそう考えているのも知らず、ムロは苦い顔をしながら話を続ける。

 

「一部の転生者はそういうやつがいるかもしれねぇ。だが、全員が全員特別な存在じゃあねぇだろ」

 

 走れば疲れるし、五キロも走ればひぃひぃとバテるような。

 久々に会うと興奮して甘えてくるような。

 からかうと、頬を赤らめて怒ってくるような。

 お古の魔導書や魔法杖をもらったらクルクル回って喜ぶような。

 バカで、可愛らしく、みんなから好かれてるような。


「凡人なんだよ。ただの」

 

 だが、凡人であったとしても、嫌われ者である以上は自由に生きれる訳もなし。

 やはりこの話は無駄話。精々食事後のティーテイムで使えるような話題か。

 どの道、自分たちが拾った少年は咎人であることに違いはないのだから。

 ならば、現状の力で留めて監査庁の目に触れないような日常を送った方が彼の為ではないだろうか。

 無理をして強くなった先、行きつくところはレヴィの言った「利用される未来」。


 ――だったら……って、これも無駄な思考か。

 

 結局、クラディスがどれだけ強くなっても、どれだけ人を助けようとも、咎人である以上は逃れられない未来が待っている。

 ならば、気の済むまでしたいことをさせようではないか。

 彼のしたいことは……自分たちと一緒に旅ができるほど、強(・)く(・)な(・)る(・)こ(・)と(・)。


 あぁ、これは、もう、どうしようもない話なのかもしれない。

 

「……ほんと、思うようにはいかねぇよな」


「あぁ、そうだな」


 吐き捨てるように言ったムロの言葉に、いつの間にか読み終えていた本をぱたりと閉じた。


「ほんとうに、その通りだ」


 と言ったところで、ガチャガチャとドアノブを捻る音が響く。

 このタイミングで、クラディスが帰ってきたのだろうか。

 二人はアイコンタクトをし、レヴィが遮音魔法を解いた――……。


「おらぁ! あけろぉ!! 血盟主のお通りだあ!!」


 静かな空間に響いたのは、自分たちの血盟の主人。マーシャルの――少し籠っているような気もする――声。

 何事かと思い、カギを開けるとすぐにドアが開いて見えたのはクマの被り物を被った人間と、その小脇に抱えられた……。


「さっきぶりです。ははは」


 クラディスの姿。

 事態が呑み込めずに身構えていると、マーシャルがさも嬉しそうに胸を反らした。


「お前ら! こいつとあのアンっつーガキを最西の街に連れていくぞ!!」


「「……はあ?」」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。