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暗闘  作者: 伊藤むねお
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青虫(堂島)自供

「俺の部屋のものぐじゃぐじゃにしないでよ。ちゃんと考えた並べ方をしてるんだから。え、証拠品として没収?・・・痛いなあ。ま、いいか・・・何です・・・ああこれは俺です。よくわかりましたねー。この男ですか? 監督です。名前ですか? 忘れたね」

 堂島は写真から目をそらした。資料没収にはコピーを隠し持っているせいか意外に淡々としていたおむすび顔が一変し眉を寄せると強情そうに腕を組んだ。

 その堂島の前に数枚のプリントが置かれた。辰巳のプロバイダーから提出された利用明細である。堂島は眼鏡をかけ直してちょっと手に取ってみたが、すぐに放り出した。

 堂島は暫くのあいだ腕を組んだままで天井を見上げていたが、大きく咳ばらいをして喉に絡まったものを切ると、ぼつぼつと語り始めた。

「総研の榎本がね。へ、一本返されたな。ま、そうでなくても、いずれはばれると思ってたけど」

 もう一度咳払いをした。

「あの日曜日はお客さんが検収をする予定になってたからね、俺は部屋の端末の前で待機していたのよ。そしたら全然違うパスワードでやってきたもんだからびっくりしたよ。それがまた俺の誕生日だったのには少しぎょっとしたがね。こっちは切断しようと思ったんだけど考え直したよ。事情を知っておいた方がいいかとね。それでつないでやってしばらくは様子を見ることにしたんだ。でも最初に画面に写ったものを見てピンと来た。駅伝レースだ。それですぐテレビのスイッチを入れたらいきなりあの男の顔だ。へどが出そうになったよ。あいつだけは許せない。千載一遇というのはこれをいうんだと思ったね。しかも俺ではなく、どこかの誰かが代わりをやってくれるんだからさ。わくわくしながらモニターしていると嬉しいことにパソコンを扱いなれている人らしく、どんどんこっちの思うとおりに画面が展開してゆくじゃない? さくさくとネ。でも最後の最後で不審に思ったらしく手が止まっちまった。マーカーを白バイからランナーにちょこっと動かしたのは俺さ。それで余計怪しまれたみたいで向こうの手が完全に止まっちまった。だからそのあとは俺がやってやったよ。SHOT! SHOT! どうだい。見事に決まったね。ざまあ見ろってんだ。あの男の顔ったらなかったね。あ、ははははは。馬鹿だねえ、今どき湯たんぽだなんで、あんなに笑ったことはなかったよ。やつはね、俺が高三の時の監督だった。うちはその年、県で優勝したんだが俺は堂々たるレギュラーだったよ。ね、この雄姿。カモシカのような脚。こう見えても五千を十四分と三十でいけたんだから。しかし都大路には出られなかった。ひと月ほど前に足をちょっと痛めたんだ。代わりに補欠だった黒木の息子が出たよ。あの火傷した学生じゃなく一番上の兄貴だけどね。でもね、俺の足は完全に治ってたんだ。それなのに前途ある若者に無理をさせるわけには行かない、とかぬかしやがって練習を禁じられた。俺も純真だったからね、今となっちゃ懐かしいがサ、泣いて頼んだよ。だけど駄目の一点張りで、こっそり練習などしたら卒業させないとまでいいやがって。すべては自分の息子を出したいのと、俺の親父が無茶苦茶な特別部費を断わったことへの仕返しヨ。あ、これは俺の僻みなんかじゃないからね。卒業コンパの時に当の息子から直接聞いたんだから。いつか必ず仕返しをしてやろうと思ってたが、あそこでそのチャンスがくるとはね。ま、息子らに恨みはないんで、そこはちょっと気の毒だったけど。あ、これ、ミスターには内緒にしてね」

 堂島は全体の容疑を認めたが協力者が誰かは断固として答えない。この道で再復活を目指す意志があるということなのだろう。


 ヒトマロの手帳のお陰で骨折したドジな受取人を初めとして計画に加わった連中は次々と逮捕された。ユミを殺害した男はやはり鴨原が示唆した男のひとりで、その男も逮捕された。ただ、沢田だけは鴨原が予言したとおり杳として行方が知れなかった。特捜班のだれもが沢田は生きていまいと感じていた。


 米大統領が帰国した一週間後。

 山城官房長官は、官邸に法務大臣、経済産業大臣、外務大臣、国家公安委員長、警察庁長官、警視総監、及びTAROプロジェクトの幹部を招集し、すぐさま事後処理の検討に入った。表に出す事と闇に葬るべき事のふるい分けをした。

 関与していた代議士が自分の派閥の議員だったと知った山城は気の毒なほど身を縮めていた。そのため会議は、遠山とプレゼンテーションの成功で点数を上げた経産大臣と外務大臣の主導で進行した。

 まず、ガンロビーの大物マクネリ上院議員と代議士の件。これは大きな国際問題に発展しかねなく時期も時期だとして当分はこれ以上の詮索はしないこととし、当該代議士は、山城が健康上の理由をつけて年明け早々にも議員を辞職させるということで折り合った。

 野々山は不問に付された。広く国民に支持されているJGCのシンボル的存在であり、情状酌量も汲まれ、さらには結果的に未遂に終った事でそのような処置になった。


 柴田は一応の調書を取ったあとで、肩の負傷もありもはや逃亡や証拠隠滅などの恐れは無いという事で自宅に帰ることを許された。そして、翌日からは大山の事情聴取が始まる段取りとなっていたのだが、その日のうちに柴田と大山が相次いで命を絶ってしまったのは返す返すも残念な結果となった。

 柴田は自宅の湯船で手首を切って果てた。遺書には警察で述べたとおりすべては自分ひとりの不心得から及んだ犯行であると記されていた。

 大量の睡眠剤を飲んで死亡した大山の遺書もほぼ同様だった。杉電器、政府、並びに自社に多大な迷惑をかけたことを詫びた上で、どうか部下をお疑いなきようにと結んであったが、自分の関与については一行の記述もなかった。ただし伊能の観察は見事に的中、大山茂は矢木沢修の実弟だったことが判明した。



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