ハッカー青虫
成田空港から警視庁のヘリで桜田門まで運ばれた榎本はすぐさま杉ビルに向かった。その間、成田まで出迎えに出た小野田と井上刑事から詳細を聴いたのだが、その表情は次第に険しいものに変わっていった。
「CDはどうでした?」
「僕が森君と一緒に調べた。辰巳さんの話では削除にかかったらしいが、素早くリジェクトしてくれたおかげで一部は残った。でも肝心のこっちのリンク箇所などは読めない」
「青虫らしい丁寧な仕事ですね」
「青虫ってハッカーですね」
井上刑事が聞いた。
「ええ、あだな名ですが超一流のプロでして、名の知られた企業で奴に泣かされたところが何十とありますよ。自己顕示欲でしょうかね、どこかで必ず柿の種のような青虫のイラストを必ず見せるので我々もそう呼んでいるのですが。今回はCDのラベルに描かれていたのがそれだったようです」
「難しそうですか」
「思いつく限りのありとあらゆる手段を使ってやってみるつもりですが、正直なところ難航しそうです。それに、うまく尻尾を見つけたとしても青虫クラスのプロは自分の手口を知られるのを極度に嫌いますから、自爆プログラムを潜ませている恐れがあるんです」
「自爆、ですか?」
「うっかり触ればあっという間にパー、瓦礫の山です」
「それはまた怖いですね。そうだ。瓦礫で思い出しましたが、いっぺんサラ地にして人海戦術で一から入力し直すという手段があるそうじゃありませんか」
「実際問題としてそれは無理です。一晩でピラミッドを作れというのと同じですよ。優秀な石工を何百人集めてもできません。ですからその手は範囲を絞って均しにかからなければならないのですが、そうなると、さっき言ったのと同じ、どこで地雷を踏むかわからない」
「うへ、それも駄目ですか」
井上はことの深刻さを知ったようである。
「辰巳という人が触らなければ、事前には露見しなかった筈だったのでしょう? それにも関わらずバックアップにまで手を打ったというのは、青虫を雇った連中は相当なリキを入れているということですよ。青虫もとっておきのテを使っているのでしょう」
榎本はそこまで言うと腕を組んで目を閉じた。
――青虫め。どういうやつなんだ。一度会いたいもんだな




