03.換金所での注意点
「まずはっと……」
「ドーナツ屋だな!?」
「換金所だよ。先立つものがなければ~ってな。ギルドに入ってなくてもしてくれる所があるかどうか」
「あぁ、この前は断られたのだったな」
「小さな町だったからねぇ」
「世知辛い世の中になったものだ」
二人揃って、溜息を吐く。しかし、これだけ立派な城塞都市だ。今回は、あるだろう。というか、ないと困る。
そろそろ路銀が尽きてしまうのだ。ドーナツどころか、まともにご飯も食べられなくなる。
(それが、一番困る)
あとは、宿屋か。街で野宿は危険であるし、悪目立ちするだろう。俺は、路銀いれを覗き込む。見えたのは、ルフト銅貨が十枚だけ。
(死活問題だ)
俺と違ってアルラは一瞬で切り替えていたらしい。俺がうだうだと考えている内に、町人から換金所の場所を聞き出してくれていた。
「えぇ? 頼りになりすぎるんだが?」
「そうだろうとも! ドーナツが待っているからな!!」
「やっぱりドーナツのためだったかぁ」
早く早くと急かすアルラに頬を緩めながら、俺は素直に歩を進める。辿り着いた換金所の看板には、《ギルド証不要》の文字があった。
「やったぞ! ドーナツだ!」
「はいはい、ここはドーナツ屋じゃねーぞ」
「分かっているが?」
「急に冷静になるのやめて?」
アルラを背に隠しながら、店内に入る。薄暗い店内をさっと見回した。
入口の側には簡素な木製の椅子が一つ。何が入ってんだか分からない木箱が右側にいくつも積み重なっていた。
俺が何も言わなかったので、アルラが隣に並ぶ。奥のカウンターに座っていた、小太りの男と目が合った。
「いらっしゃい」
店主だろうか。俺を品定めするように、頭から足の先まで不躾にじろじろと見てくる。最後に再び俺の顔を見ると、本へと視線を戻した。
「ギルド証は、ないんですがね」
「構わんよ。何を換金したい?」
俺は、背の鞄から空間拡張袋を取り出した。遠い昔、お礼に貰ったこれは本当に重宝する。
「そうさな……」
「全部見せてやれ!!」
「いやいや、大金持ってたら面倒事に巻き込まれるぞ」
「ならば致し方ないか……」
空間拡張袋から、ドラゴンの牙を二本取り出し机に置く。店主はちらりと、それを一瞥した。
「んっ!?」そして華麗な二度見。
栞を挟まずに本を閉じると、ガタリと音を立て席を立った。
「こいつは、炎竜の牙か!?」
店主が半信半疑といった目を向けてくる。それに思わず、眉尻が下がった。
「凄かろう!!」
アルラだけが、堂々と胸を張る。どこか、してやったりといった風だった。
「炎竜を仕留めたのか」
「この子が優秀でしてね」
「ワタシだけではないがな」
「まぁまぁまぁ、その辺はな。それで、おいくらくらいになりそうですかね」
「あ、あぁ、少し待ってくれ」
店主はドラゴンの牙をマジマジと鑑定し出す。時折、「本物か……?」「嘘みてぇ」と零していた。
鑑定が終わったのか店主は、店の奥へと姿を消す。アルラとこの後の予定を話し合っていれば、店主は比較的早く袋を持って戻ってきた。
「待たせたな。ルフト金貨が一枚、銀貨が十枚、銅貨が五十枚でどうだい」
「ドーナツ食べ放題じゃないか!?」
「そうだな。これだけありゃあ、暫くは困らないだろう、が」
机に置かれたルフト銀貨のうち二枚を店主の前に指で移動させる。
「この二枚、質が悪い」
「そうかぁ?」
あからさまに面倒そうだ。しかし、ここは俺も引けない。
「穏便に、いきたいんだが?」
目を鋭く細める。店主が肩を跳ねさせた。
「あ、いやぁ、へへっ。確かに、模様が削れてますね。気付かなかった」
「勿論、換えてくれるんだろ?」
「へぇ、もちろんですよ」
「そりゃあ、どうも」
ニコッと笑いかければ、店主は頬を引きつらせる。そこで、アウラも気付いたらしい。
「まさかカモにするつもりだったのか!?」
「すまないねぇ。うちの子、素直なもんで」
「そんなつもりは、へへっ」
「そういうことにしとく?」
「むぅ……。しておくか」
「よかったねぇ、旦那」
「へぇ……」
まぁ、兵に突き出したところで相手にされないだろう。こちらに利もないし、このまま騒がないに限る。
「待て、ヴェル。だっこ」
「今? いいけど」
交換済みの硬貨を受け取りもう店を出ようと思っていたが、仕方ないのでアルラを抱き上げる。
「店主よ、この辺りでススメの宿屋はどこだろうか?」
「え? あ、あぁ、大通りのルーエですかね」
「だそうだぞ。どうする?」
アウラは、本当に切り替えが早い。いや、水に流す代わりにの可能性もあるか。
「じゃあ、今夜はそこに泊まるとしようか」
「ドーナツ屋は明日にしよう! 楽しみは取っておくべきだからな」
「ははっ、そうか」
「……旨い飯屋なら、同じ筋のブラーテンがいいですよ」
「どうも、行ってみます」
最後に会釈をして、店を後にする。アルラも店主に手を振っていた。
(関所といい。大分、振る舞いが板に付いてきたかな)
人としての様々を教えるのは、骨が折れた。実際にも折れた、アバラが。
「下りるか?」
「いや、このまま運びたまえよ!!」
「あいよー」
アルラが俺の首に腕を回す。耳元で楽しげな笑い声が聞こえて、俺も目を細めた。




