28.炭鉱探索へいざ!
アーチーがこそこそと旧坑道の入口から中の様子を窺う。手には途中で寄った秘密基地から持ってきたランタンが握られていた。
「兄ちゃん、怖いよぉ」
「情けないこと言うな! 男だろ!?」
「私は女子だけど、別に怖くはないわよ」
「マヤは強いね……」
トミーがシュンとする。マヤは「トミーは優しいからいいのよ」と、照れたように髪をくるくる人差し指に巻き付けていた。
「何がいいんだよ。男は度胸がねぇと駄目だろ」
「本っ当に、アーチーは馬鹿」
「はぁ!? 何だ、それ!!」
「喧嘩はやめてよ~」
再びアーチーとマヤの間で、トミーがオロオロとする。このやり取りはお約束なのだろう。
(微笑ましいことよ)
ワタシは特に口出しはせずに、三人のやり取りを見守る。
ふと、遠くの方から咆哮のようなものが聞こえてきた。それにワタシは、緩慢に顔をそちらの方へと向ける。
(ふむ。例のドラゴンか? 遠いな。問題なかろうて)
そう判断して、ワタシは三人へと視線を戻す。ものの見事に全員が顔面蒼白になっていた。
「ぬしだ……」
「どーしよ、兄ちゃん」
「流石にマズいわよ」
マヤがトミーに抱きつき、トミーはアーチーに引っ付いている。「大丈夫か?」と、小首を傾げたワタシにアーチーが悔しそうに眉根を寄せた。
「だ、大丈夫に決まってんだろ!」
「そうか? まぁ、遠かったからな」
「そそそ、そうだよな!!」
完全に声が震えているが、指摘はしない方がいいだろうか。
不意にアーチーが口を尖らせる。「やっぱ、危険な旅してると慣れんのか?」などと、ぶつくさ言い出した。
「どうだろうな?」
「俺様だって! マディー探検隊の隊長なんだ!!」
アーチーはトミーを引き剥がすと、ランタンにマッチで火を灯す。ぐっと持ち手を掴むと、入口の前に仁王立ちで立った。
「行くぞ! マディー探検隊、出発!!」
「お、おー……」
「はいはい、出発ー」
ここはワタシも倣って、「いざ、出発!!」と言っておく。
ヴェルもこれくらい思い切りよく分かれ道を選んで欲しいものだ。そう思い想像してみたが、ヴェルには一生無理そうだった。
足を踏み入れた坑道は、しん……と静寂に包まれていた。やけに足音が響く。
「うっ、何か寒い」
アーチーが零した独り言が反響して聞こえた。
(ふむ。確かにヒヤリとする。ワタシは好きだな)
太陽の光が届かないからか。坑道内の気温は低い。緑はないが蒸気の匂いもせず、ワタシにとっては丁度よかった。
アーチーがランタンを掲げる。照らされた坑道の壁がキラキラと光った。
「わぁ、何かすっげぇ……っ!!」
アーチーの声がワクワクと跳ねる。それを聞いているだけで、こちらまで心が踊った。
「綺麗だねー」
「えぇ、とっても!」
アーチーが壁に近寄っていく。それを二人と共に追った。
壁で光る何かにアーチーが触れる。「ルミナスシマーだ」と、アーチーが呟いた。
「む? しかしこの場所からは、もはや取れなくなったのだろう?」
「分かってねぇな。これは小さくて、使いものにならねぇんだよ」
「加工しようがないのよ」
「なるほどなぁ」
幼子とはいえ、この町に住んでいるだけはある。ワタシは、二人の説明に繁々と頷いた。
(ワタシよりも物知りだ)
しかし人の子らは、これを魔法も使わず人力で掘っているらしい。繊細な作業とのことだが、それにしてもだろう。
ワタシは、坑道の壁を指先で撫でた。
(人の子は、面白いものよ)
山の中から、このような鉱石を発見するのだから。それだけでは飽き足らず、何をどう思考すればこれを燃やしてみようなどと試す気が起きるのやら。
(道理で願いが尽きぬわけよ)
ワタシは、ふっと目尻を下げる。
(あぁ、駄目だな。またヴェルに叱られてしまう)
ふと、足元に人工物があることに気付く。それは、奥の方まで続いていた。
「隊長よ、この下にあるものは何だろうか?」
「え? あぁ、これはトロッコの線路だな!」
「とろっこ?」
「そんな事も知らねぇのかよ、ダセェな!」
「アーチー最低」
マヤが呆れたように言ったそれに、アーチーは「はぁ!?」と目を吊り上げる。マヤは特に気にした様子もなくワタシと目線を合わせた。
「トロッコはね。採掘したルミナスシマーを乗せて運ぶための小さな貨車よ」
「ふむ……?」
上手く想像が出来ずに小首を傾げる。鉱山に来るのは初めてのため、見るもの全てが真新しい。
「奥に実物があるんじゃねぇの」
「そうね。いってみましょう」
アーチーが拗ねた声音を出しながら、線路の先をランタンで照らした。マヤは再びワタシと手を繋ぐと、アーチーの後を追って歩きだす。
暫く線路の上を歩いていれば、目の前に鉄製の何かが現れた。泥にまみれ、所々錆びている。
アーチーが「あったぞ!」と、声を弾ませた。それに、これがトロッコであることを察する。
「アルラちゃん、これがトロッコよ」
「おっきいね~」
「そうだな! 実に興味深い!」
皆でトロッコの周りを囲む。アーチーが照らしたトロッコの中には、特に何も入ってはいなかった。
(まぁ、旧坑道だからなぁ)
ルミナスシマーの実物も見てはみたかったが、今はあの欠片で満足しておくことにする。その内、見れる機会があるだろうか。
不意に背後から低い唸り声が聞こえた。それにトミーが引きつった悲鳴を上げる。アーチーが「野犬だ!!」と、焦った声を出した。
「マズいマズいマズい!!」
「逃げなきゃ!」
「無理だ! 追い付かれる!!」
俄に場が騒がしくなる。
野犬は三匹。ここらを縄張りにしてしまったのだろう。雨風が凌げてよかったのか。
野犬が牙を剥き、涎を垂らす。一匹がジリッと一歩距離を詰めてきた。
「ひっ!? ト、トロッコに乗れ!!」
「アルラちゃん、早く!!」
「トミー!! しっかりしろ!!」
「兄ちゃぁん……っ!!」
トミーは完全に腰が抜けてしまっていた。それを無理やりに支えて、アーチーがトロッコに押し込もうとする。
ワタシとマヤは早々とトロッコに乗り、彼女は中からトミーを引っ張った。ワタシは縁に手を掛け、野犬の方を見遣る。
(魔獣ではないな)
今にも飛びかかってきそうな野犬に、スゥ……と目を鋭く細めた。圧を掛けてやれば一変して、野犬は耳と尻尾を垂れさせる。
(愛いものよ)
いつもヴェルが、こうやって追い払っていた。血が流れないのならば、それに越したことはないのだと。
「隠れろ!!」
何とかトミーをトロッコに乗せられたらしい。アーチーの声に、マヤとトミーは踞るようにして縮こまった。ワタシも真似ておく。
「何とかしないと……っ!!」
野犬の様子を見る余裕はないらしい。アーチーが追い詰められたような声音を出した。
(恐らくあの野犬達は逃げたと思うがなぁ)
襲ってきたとて、あれくらいならば魔法を使うまでもない。
どう声を掛けようかと悩んでいれば、カタッとトロッコが妙な音を立てた気がした。




