27.我らマディー探検隊!!
ブルームのバゲットのサンドイッチは実に美味であった。丁度焼きたての香ばしい匂いが店内を包んでおり、それだけでもお腹が鳴った程だ。
歯応えのあるバゲットに、ベーコンやチーズ、野菜が挟まれたサンドイッチはなかなかのボリュームだった。が、もう一つくらいは余裕である。
(路銀さえあれば、無念よ……)
ヴェルに口を拭かれながら、サンドイッチの味を噛み締める。しかし、やはりドーナツが食べたいところであった。
「美味しかったな」
「うむ! 実に! 実に美味しかった!」
「そりゃあ、よかった」
ヴェルが、ふっと目尻を下げる。「ん、顔色も良くなったな」と、最後にヴェルの手がワタシの頭を撫でていった。
「見つけたよ! 兄ちゃん!!」
「なに!? 本当か!! でも、隊長と呼べ!!」
「ごめん、兄ちゃん!」
「隊長、無駄よ」
店内に元気のよい幼子達の声が響き渡った。バタバタとした足音が、こちらに近寄ってくる。それに、ワタシとヴェルは顔を見合わせた。
「お前らが、例の旅人だな!?」
先頭にいた男児が、ワタシ達を指差す。その男児の後ろから、更にもう一人男児と女児が顔を覗かせた。
「元気のよいことだなぁ」
「ははっ、そーね。俺達に用事かい?」
ヴェルが穏やかな声を出す。それに男児がパァア! と顔を明るくさせた。
(よくぞ聞いてくれたと言った風だな)
男児は後ろの二人に目配せする。二人はそれにコクコクと頷いた。
「俺様は隊長のアーチー!!」
「僕はトミーだよ!」
「私はマヤよ」
三人はアーチーを中心に横並びになり、それぞれポーズを決める。
「我ら! マディー探検隊!!」
アーチーが堂々とした笑みを浮かべた。トミーはどちらかというとポヤポヤとしている。マヤはやれやれと言いたげだ。
「おー、格好いいね」
ヴェルが拍手をしてやっている。それにアーチーは、大層満足げに鼻息を荒くした。
「そっちも名乗れ!」
「俺はヴェルユス」
「ワタシはアルラだ」
「よし、アルラ! お前をマディー探検隊の一員にしてやるぞ!」
アーチーの言葉に、ヴェルが面食らったような顔で「えっ」と硬い声を出した。
「ほう? ワタシをか?」
「一番下っ端だぞ! 何せ俺はもう十二歳だからなぁ!!」
「僕は九歳ー」
「私も九歳よ。あなたは?」
そのマヤの問いに、ヴェルが何とも言えない顔になる。不安そうな視線がワタシに向いた。
(ここは、千は越えていると言うべきか否か)
まぁ、当たり前に否だな。そう結論付けてワタシは、きゅるんという顔を作り指を三本立てた。
「ワタシは、三つ」
更にヴェルが何とも言えない顔になる。何故だろうか。完璧であったと思うのだが。ワタシは内心で小首を傾げた。
「じゃあ、やっぱり下っ端だな!」
「一緒に遊ぼー!」
「私、同年代の女の子いないの。ちょっと年下だけど、嬉しいわ!」
ワタシは、どうしようかと悩む。「ふむ……」と、顎に手を添えた。
(まぁ、たまには良いか!)
ワタシは椅子から飛び降りると、ヴェルへと振り向く。ニンマリと笑んだワタシに、ヴェルは頬を引きつらせた。
「少し遊んでくるぞ!」
「匂いは?」
「問題ない、恐らく!!」
「恐らく……」
ヴェルが逡巡するように目を伏せる。ワタシならば、答えが出るまで待つが。幼子達はそうもいかなかった。
「よし! マディー探検隊、出発!!」
「おー!」
「はいはい。アルラちゃん、行こ!」
「いってきまーす!」
ヴェルに向かって手を振り、駆け出した皆の背を追う。ヴェルは「え!? ちょっ、無茶苦茶するなよ!!」とだけ言った。
「任されたー!!」
「本当に大丈夫なの、か……?」
背後からヴェルの呆然とした声が聞こえてきたのだった。
アーチーを先頭に町を歩く。蒸気の匂いはいまだ慣れないが、先程よりはマシになってきた。酔って倒れることはなかろう。
「ねぇ、兄ちゃん」
「何だ」
「大丈夫かなぁ?」
「大丈夫だ!!」
この二人は兄弟なのだろう。弟のトミーが不安げに眉尻を下げる。それにマヤは、呆れたように溜息を吐いた。
「絶対に! 止めた方がいいわよ」
「うるさい!! やるって言ったら、やるんだ!」
「ていうか、アルラちゃんもいるんだけど」
「だからだろ!」
アーチーが足を止め、こちらを振り向く。ワタシを真っ直ぐに見るアーチーからは、強い願いの気配が漂ってきた。
(ほう? しかしこの強さ。幼子のそれでは、対価が足りんな)
ヴェルの顔が脳裏に過って、ワタシはぐっと我慢する。
(それに、願いの力を使うとヴェルが悲しい顔をする)
アーチーには悪いが、ワタシは気付かなかったことにした。どうせ生命エネルギーを全て貰うわけにもいかないのだから。
「本日は、炭鉱を探検する!」
「炭鉱を?」
「と言っても、父ちゃんに見つかるとマズいから……。もうルミナスシマーが出なくなった場所だ!」
「そんなところ探しても意味ないと思うわ。だって、出なくなってるのよ?」
「分っかんねぇだろ!」
「喧嘩はやめてよ~」
アーチーとマヤの間で、トミーがオロオロとしている。
ワタシはその様子を眺めながら、付いてきて正解だったなと口角を上げた。好奇心には抗えん。
(中がどうなっているのか。大変に興味がある!)
ヴェルが炭鉱内は、ガスが出たりと危険だと聞いたらしい。とはいえ、もう使用されていない古い場所ならばその心配もないだろう。
「よかろう! 楽しい探検になりそうだな」
「そ、そうだろ!?」
「そーかなぁ」
「仕方ないわね。アルラちゃんは、私から離れちゃダメよ」
「分かった!」
魔法が使えないのは、少々不便だが。まぁ、三人くらいならば守りきれるだろうて。
この先のワタシの未来に、嫌な気配はないのだから。
(神器の力が戻れば、この子らの少し先の未来も覗けるのだがなぁ)
ワタシの未来でさえ、何となくしか分からん。
そんな事を考えていれば、マヤに手を繋がれる。優しげに笑ったマヤが「行こっか」と、ワタシの手を引いた。




